さまざまなフィールドで活躍するアイコンにとって毎日でも繰り返し身につけたいユニフォームのような存在とは?十人十色のこだわりが光る、プライベートスタイルを披露。
歌人・小説家、川野芽生にとってのユニフォームとは?
同じ服を着る人たち vol.8
川野芽生

用事に合わせて組み立てる
ロリータ服の完璧コーデ
流麗な古語の響きを連ねた幻想的作風で知られる川野芽生さんは、幼い頃から海外の古典文学に没頭して育ってきた。そのためか、
「現代の日本にいる自分にどこか違和感があって。ヴィクトリア朝のイギリスの世界の方がなじみ深く感じられていました」
ある日、光栄だけれどプレッシャーのかかる執筆依頼が数件重なったのを機に、これを乗り越えた原稿料で、ずっと憧れていたロリータ服を買おうと決心する。
「コロナ禍の2020年秋。初めて袖を通した時から『私はこれを着て生まれてきた』と思えるほど、自分の精神に外側がぴったり。女の子らしさを超えた過剰性のおかげで、男ウケと無縁でいられるのも心地よくて。目立つのは得意ではないけれど、着たい服を身につけて際立つのは悪くない。好きなことを追求して大丈夫なんだと勇気が出ました」
以降、外出は「クラロリ」と呼ばれるクラシカル系中心のロリータ。電車が混雑している時はボリュームの少ないタイプにしたり、映画を観るなら内容に寄せてみたり。メイクや髪飾りまでトータルな世界観を作り上げる。
「今日は、泉鏡花の『夜叉ケ池』の芝居に行くので、夢のような色合いを選んでみました」
最近は「私も着てみたい」と相談を受け、店に案内して入門のお手伝いをすることも。
「一歩を踏み出したシーンはそれは感動的。試着室から出てきた表情を見たら、こちらまで『素晴らしい!』と感激してしまいます」
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川野芽生
かわの・めぐみ>> 歌人、小説家。1991年、神奈川県生まれ。東京大学本郷短歌会で作歌開始。既刊に、歌集『Lilith』、小説『無垢なる花たちのためのユートピア』『月面文字翻刻一例』。小説『奇病庭園』(文藝春秋)が23年8月4日発売。
Photo:Wataru Kitao Text:GINZA