絶対に手放せないジャケットや、ずっとそばに置いておきたいバッグ。日々の表現を支える宝物は、いつだってクローゼットの中にある。ファッション好きなあの人が語る、残しておきたいものの話。#残しておきたい宝物
写真研究者・村上由鶴の残しておきたい宝物:プチバトーのプルオーバー
忘れられない写真の中の服

忘れられない写真の中の服
「私がこの服を大事に思う気持ちの奥底には、1枚の写真の存在があるのかもしれません」
写真研究者の村上由鶴さんがそう話す〝この服〟とは、10年前に雑誌で見つけて買いに出かけた〈プチバトー〉のプルオーバー。「ベーシックカラーのネイビーは黄色と合わせるのが可愛い」と気づき、以来、この2色の組み合わせが大好きになった。
「ボーダーの幅も完璧。これ以上太いと鬼太郎になってしまう(笑)。シルエットがきれいで、ちょっとスリムに見える点も気に入ってます。鎖骨が見えるように髪を高めの位置でお団子にまとめ、薄いブルーのストレートジーンズを合わせるのが定番です」
そんな村上さんのボーダー&デニム姿が写っているのが、冒頭の「1枚の写真」。数年前、仲間たちが仕事をしている様子を誰かが記録写真に撮り、後日それを見た村上さんは「私のボーダーも!」と小さくときめいた。
「仕事場の風景の一部として写っているだけだし、写真自体もさりげない1枚です。ただ、撮った人は、たとえ無意識であっても、〝なんかいいな〟と思ってシャッターを押したはず。記録写真だろうがインスタ用の写真だろうが、そういうものなんです。つまり、〝なんかいいな〟の中に、光が気持ちいいとか笑顔が素敵な人がいたとかと並んで、これを着た私も含まれていた。たぶん〝この紺色と黄色のシマシマが画角に入ってたほうがいいな〟ぐらいの直感的な判断だったのでしょう。でも、だからこそうれしかったんです。写真を見た瞬間、自分が好きな服が、何かに肯定されたような気持ちになれたから」
その1枚が今どこにあるのかはわからない。見た時の肯定感だけが記憶に焼き付いている。
「だからこの服は捨てられない。本来、写真は焼き付けられるものですが、写真が焼き付けてくるものもあるんだなって思います」
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村上由鶴
むらかみ・ゆづ>> 1991年埼玉県生まれ。秋田公立美術大学ビジュアルアーツ専攻助教。著書に『アートとフェミニズムは誰のもの?』(光文社新書)。POPEYE「そもそも写真教室」連載。
Photo_Toshio Kato Text_Masae Wako