星野源さん6年ぶりの主演映画『引っ越し大名!』は江戸時代が舞台。星野さんが演じた片桐春之介は、本を読むのが好きな引きこもり侍。なのに“引っ越し奉行=すべての藩士とその家族全員で別の国に引っ越しをする際の総責任者”に任命されてしまい、どうにか任務を果たそうと奮闘することに。「ある日突然、ノウハウもないのにリーダーを任されたらどうする?」というテーマは、働くすべての人にとって切実な問題で、現代的な物語に思えます。そこで今回は、星野さんにとっての理想のリーダー像や、仲間を率いる立場になったときに気をつけていることについて話していただきました。
星野源さんといっしょに考えてみた。理想のリーダーってどんな人?

──星野さんご自身は「この人は最高のリーダーだ!」と思う方はいますか?
僕が素晴らしいと思うリーダーは阿部サダヲさんなんです。別にみんなを鼓舞するわけじゃないし、「俺がリーダーだぞ!」なんて素ぶりを見せることもまったくないんです。というか、特に何もしない。みんなを引っ張るどころか誰かと喋っていることもそんなにないし、大抵いつもひとりで出番を待っていて、ゆっくりお茶を飲んでいたりして。
──そのお話だけ伺っていると、「それって何もしないダメなリーダーなのでは?」と思ってしまいますが……?
それが、気がつくと阿部さんが輪の中心にいるんですよ。というのは、阿部さんのそういう人柄に加え、演技がとにかく面白いし惹きつけられるから、それを見た俳優陣が触発される。そんな俳優陣の演技を見たスタッフのみなさんが自然と笑顔になってくる。そうしていつの間にか、阿部さんを中心にして現場がまわっているというわけなんです。
──たしかに背中で語るとでもいうのか、仕事ぶりだけでみんなをまとめるって、めちゃくちゃ格好良いですね……!
そうなんですよ。阿部さんって本当に余計なことをしない印象があります。周りからいじられているし(笑)、リーダーとしての自分が目立ちたいとも全然思っていない。それでもみんな現場で阿部さんの演技を見ているだけで、「これは阿部さんがいてこそのプロジェクトだな」と意識するようになるんです。
──阿部さん自身のプロ意識と愛される人柄から生まれるリーダーシップなんですね。
たとえば演出家の方に、演技の急な無茶ぶりをされても、文句ひとつ言わずにすぐにやる。「これはできない」とか「それは無しって言ったじゃん」なんて言っているところ、見たことないんです。何を要求されても、必ず面白い演技で応えていて。
──『引っ越し大名!』で星野さんが演じた春之介は、引きこもり侍からみんなを率いるリーダーへとどんどん成長していくのですが、その秘訣を聞かれた際に「体面を捨て、普通にしたまでのことです」と答える印象的な台詞がありますね。それって、星野さんが理想のリーダーだとおっしゃった阿部さんの在り方と近いのかなと。常に“普通にしている”って、簡単なことではないですよね。
自分が普段どれだけ体面を気にしないようにしていても、どうしても気にする必要がある場面は多いですよね。それこそ“普通にしている”なんて、すごく難しいと思います。なかなかできないことですけど、僕もできるだけ誰に対しても体面を気にせずに接したいと思っています。だから春之介のそういった感覚には、シンパシーを感じます。
──共感できる役柄だったとしたら、無理なく演じられましたか?
そうですね。自分から遠いキャラクターの役作りをするというよりは、自然な気持ちで演じられたと思います。春之介はリーダーの役割を与えられても、相手の身分や立場に関係なく周りと接するからこそ周りに慕われていて。どう思われるかなど気にせず、最大限自分にできることをしている。素敵なリーダーだと思います。
──星野さんにとっては、リーダーになるなら“普通にしている”ということが大切なんですね、きっと。
ときどき、自分が目立つためにリーダーになろうとする人っているじゃないですか。「“みんなをまとめている私”を見て!どうですか?」って。見ていてすごく気を使っちゃうんですよね。「あ、まとめられなきゃ」って(笑)。
──たしかに……。押しつけがましい感じというか。
でも、周りに「この人を中心に行動しなくちゃ」と無理に意識させることでまとまりが出るのかもしれませんね。今回の映画の現場は俳優陣それぞれが好きなことをしていて、それでいてまとまりがあって。居心地の良い雰囲気でした。
──星野さんが座長でいたからこそ、居心地の良い雰囲気になったのかもしれませんね。
もしそうだったら嬉しいです。ヒロインの於蘭を演じた高畑充希ちゃんがインタビューで「星野さんには、口には出さないリーダーシップのようなものがあります」と言ってくれていて、心の中で「よっしゃ」って思いました(笑)。
──高畑さんのお墨付きが(笑)。そんな星野さんに、最後にぜひお伺いしたいことがあります。読者の中には年齢が20代から30代にさしかかり、仕事などで人を率いる立場を任されはじめる人も多いと思うんです。そうした新米リーダーのために、とりわけ音楽活動でリーダーを務めてきた星野さんの経験から、心得を教えていただけないでしょうか?
そうだなぁ……面白いと思うことを一緒に実現してもらうために、まずどうしたら相手にも「面白い」「やりたい」と思ってもらえるかを考えてから伝えるようにしています。
──なるほど。周りに「やらされている」じゃなくて「やりたい」と思ってもらうことが大事だということですね。そのためには伝え方に気をつける、と。
そうですね。つまり、相手にやってもらいたいことがあるなら、説明を怠らない。話すときも文章にするときも、言葉を端折らず丁寧に使う。誰もがSNSなどで文章を読んだり書いたりすることの多い時代だからこそ、言葉を端折らず誤解のないよう丁寧に伝えることが、すごく大事だと思うんですよね。そういう作業ってものすごく疲れるけど、伝えることを怠らない。まずはそこからじゃないでしょうか。
『引っ越し大名!』
監督:犬童一心
原作:土橋章宏『引っ越し大名三千里』(ハルキ文庫 刊)
出演:星野源、高橋一生、高畑充希、小澤征悦、濱田岳、西村まさ彦、松重豊、及川光博 ほか
配給:松竹
上映時間:120分
8月30日(金) 全国公開
ⓒ2019「引っ越し大名!」製作委員会
hikkoshi-movie.jp
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星野源
1981年生まれ、埼玉県出身。俳優、音楽家、文筆家。13年に映画『箱入り息子の恋』、『地獄でなぜ悪い』等に出演し、翌年日本アカデミー賞新人俳優賞など映画賞を多数受賞。ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』が社会現象を巻き起こす大ヒットとなったほか、アニメ映画『夜は短し歩けよ乙女』、『未来のミライ』で声優を務める。また『いのちの車窓から』をはじめ多数の著書を刊行し、音楽家としても多数のヒット曲を発表するなど、幅広い分野で活躍。現在、NHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』に出演中。
Photo: Reiko Touyama Stylist: TEPPEI Hair&Makeup: Go Takakusagi(VANITES) Text: Kozue Suzuki Edit: Milli Kawaguchi