シトウレイさんのフォトブック『Style on the Street: From Tokyo and Beyond』が刊行。アメリカの老舗出版社「RIZZOLI」より、2020年10月20日(火)に世界同時発売された。本書では、フォトグラファー人生で出会ったスタイルが、“何を着るか、ではなくどう着るか”のノウハウに系統立てて紹介されている。そのほか、〈サカイ〉の阿部千登勢さん、小木“ポギー”基史さん、スコット・シューマンさんの貴重なインタビューも収録。おしゃれは磨けば光ると教えてくれる本書と、コロナ禍のファッションについて話しを伺った。
シトウレイさんにインタビュー。12年分のスナップを収めたフォトブック『Style on the Street: From Tokyo and Beyond』が刊行

──フォトブックではストリートスナップの量にまず驚きました。過去に『GINZA』のスナップ特集で拝見した、印象的な写真もあり、かっこいい装いは時が経っても色あせないものだなと改めて感じます。シトウさんはストリートで被写体の何に惹かれて、声をかけていますか?
ファッションをすごく楽しんでいるっていうのが、まずひとつあります。おしゃれって自分自身がウキウキするものじゃないですか。多分、表情にも現れると思っていて、そういう楽しげなところに惹かれている気がします。
──ファッションを楽しんでいる装いは、ちらりと見ただけでわかるんですね。
なんとなく、雰囲気ってありませんか?同じ服や適当な服を着ているのに、なんかかっこいいぞ?!みたいな。声をかける人は、そういう雰囲気が出ている気がします。オーラというか。あ、決してスピリチュアルな意味合いじゃないですよ!
──撮影場所はスナップする時に決めているのですか?
背景と人とのマッチングは考えています。東京の場合は、時間があるから色のコントラストの合いそうなところに移動してもらったりもします。パリの場合は、みんなコレクションの最中ですごく忙しいので、その場で撮るしかないんですけど、不思議なことにどこでもいい写真になるんです。意図せず背景と人がマッチングしていることが多いです。
──扉のページも背景と服装とのマッチが印象的でした。
一番最初はインパクトのあるページが欲しいと言われていて、今はない風景を入れたら面白いかなと思い、「渋谷パルコ」の改装中の時にあった壁で撮った一枚を選んでみました。見に行きたいと思っても、もうない場所、というのが東京らしいかな、と。
──写真のセレクトは大変でしたか?
一番大変でした。12年分、全部好きで撮っているから、全部入れたかったです。その削る作業が、身を削るような思いで、ごめん…みたいな、入れたいんだけど、ごめんな…みたいな。トータルで410枚に絞りました。
──その中には『ギンザ』の2016年2月号の表紙を飾ったスナップも。今見ても全然色褪せない、むしろ新鮮に感じるコーディネートが満載ですね。
多分、私が撮っているのは、トレンドではなくてスタイルなんだと思います。だから色褪せないのかなと。自分でも改めて出来上がった本を見直した時に、それは改めて感じました。“今シーズンのトレンドのイットアイテムを持っている”とか選んで撮ってはいないので、そこが恐らく、普通のスナップ集との違いなのかなと思います。
──本では、読者の方が応用しやすいようにスタイルを表だてして紹介しています。なにか伝え方にこだわりはあったのですか?
やっぱり、この本はアートブックではあるのですが、私自身、『本って使えなきゃ意味ない』って思っているところがあって。“何を着るか、ではなくどう着るか”のハウトゥがあった方が、読者さん自身にもお洒落する際の参考になると思ったので、なるべく解りやすくかみ砕いてハウトゥを伝えています。 “かっこよくて見てて楽しい本”だけで終わると、なんだか素敵な印象は残るけど、それだけで終わっちゃう。
性格上、費用対効果がないと嫌なのかも。多分、あの…大阪のおばちゃん体質なんだと思います(笑)。
──読者は嬉しいですよね。今作では〈サカイ〉の阿部千登勢さん、小木“ポギー”基史さん、そしてスコット・シューマンさん等、3名のインタビューが掲載されていますが、今、彼らと話したいと思った理由は?
スコットの場合は、ストリートスナップというものをブログやウェブで広める第一人者だったと思うので、一番の重鎮に聞いてみたいというのがありました。毎回会っているのに、どういう気持ちでやっているのか、続けている理由だったりとか、目的について、話したことがなかったんです。
阿部さんと小木“ポギー”基史さんは、世界的に見てもわかるような日本を代表する人たちに話を聞いてみたいなと思った時に浮かびました。
──実際話されてみて、どうでしたか?
〈サカイ〉の阿部さんに関しては、今でも全部一人で手を動かしていると聞いて、ものすごく感動しました。展示会に行っても膨大な服の量だから、てっきりチームで「今季のテーマはこれ」って出したらみんながパーッと作る感じかと。だからこそ〈サカイ〉のクリエーションは、地に足がついているんだろうな、と納得しました。 〈サカイ〉のお洋服も見方によると、どこかお得感ありません?例えばワンピース一枚そのまま着ちゃえばすぐにレイヤードっぽいスタイルが作れたりするイージーさもあるし、同時にああも着れるし、こうも着れるって着方の幅もある服も作ってて。かつ体型気にせずモードに着る事が出来る服を作ってて。そこがちゃんと垣間見えたのが嬉しかったです。
あと、クリエイティブとビジネスのバランスをとりながら、いかにイメージを形にしていくかってところも、綿密に練られているのが伝わってきました。だから、コラボレーションする相手も、キャッチーなブランドからニッチなブランドまで幅広い。そして、カルチャーに造詣の深いブランドな時も。ただ好きだからって理由じゃなくて、今回はあの人と組む、次回はこの人と組む、とタイミングが計算されている。世界で戦っていくには、必要な才能なんだろうと感じました。
──お話を伺っていると、その阿部さんの“バランス感”は、シトウさんがスナップで声をかけたくなる人と通ずるところがあるかもしれないですね。
確かに。バランス感って、ファッションの中で一番大事だし、それが多分センスと言われるもの。持って生まれたものみたいなところがあるけれど「センスがある人はいいよね」で終わっちゃうと、ファッションって楽しめないと思うんですよ。持てる者と持たざる者。その二極化になっちゃうと、持っていなければ永遠に貧しい人になっちゃうのはフェアじゃないなって。“何を着るかでなく、どう着るか”のノウハウをシェアすることによって、センスの分は知識でカバーできるってことを伝えられたらいいなと思っています。
──2020年は少し特殊な1年になりました。ストリートに変化はありましたか?
単純にみんながマスクをしているのが一番の変化でしたね。ただ、ずっとマスクがおしゃれの足を引っ張っているように感じていたのですが、なぜかここ1、2週間で急に付き物が取れたみたいに考え方が変わりました。ストリートスナップでも、マスクなしで撮らせて頂いてたんですけど、なんかありでもいいかもって思い始めてきているんですよね。まだ、実践はできていませんが。
──今の東京のファッションはどう見えていますか。新たなムーブメントとの出会いはあるのでしょうか?
そうですね、“森ガール”とか、“スカート男子”とか、単語として括れるものはないけれど、「90年代」をすごく感じてます。今流行っている映画『mid90s ミッドナインティーズ』の格好そのまんまだなって。なんていうか、全体的に街がエモい(笑)。シルエットとかかな。ハイウエストとか、ダボダボだったりとか。街行く人のスタイルに90年代のシルエットがすごく踏襲されている気がします。あと、あの頃って気怠いのかっこよかったじゃないですか。それが、エモさにつながっているのだと思います。
──コロナ禍でシトウさん自身のファッションへの情熱や考え方に変化はありましたか?
自粛期間中に、ファッションの力みたいなのはすごく感じました。外に出れないし誰にも会わないから大した服は着なくても過ごせるけど、それもなんか嫌で。どこ行く訳でもないけれどドレスアップしたら、やっぱり楽しい。自分の気持ちが華やいで背筋が伸びたのを感じて、おしゃれやファッションは人の心を秒で変える力があることに改めて気づかされました。
──YouTubeチャンネルも始められたとのことで、次々と新しいことにチャレンジするパワーの源はなんでしょうか。
YouTubeを始めたきっかけは、やったことないことをやって、嫌な思いをしたかったんです。文章を書く、写真を撮るっていうのはできるようになりました。急に何か撮れと言われても、精度も高く、失敗はしないと思います。失敗したいなと思った時に、私にとってのチャレンジが動画や、瞬発力で話すことでした。
あと、これからは動画の時代になっていくんだろうなっていうのを感じたのもあります。いろんなSNSのツールがある中で、インスタグラムは人はいるけれど、例えばアクティブユーザーが多分50億人とかいたら5分の1くらいだと思うんですよ。一方、YouTubeって例えば20億人だとしたら18億人はアクティブユーザーだと思うんですよね。あ、この数字適当に言ってるので実数じゃないので、気になる人はみんな自分で調べてくださいね!
それって例えるなら、公民館で良いこと言っているよりも、東京ドームで良いこと言いたいというような感じです。人が多くて、人が動いていて、人がちゃんと活動している場所で、物事を発信していきたいなって思った。それが動画でしたね。
──そこには、ファッションの楽しさを広く伝えたいみたいな考えがあるのでしょうか?
それはすごいあります。私自身がファッションというものをわかった時に、すごく人生が楽しくなりました。自分自身も変われたから、他の人も変われるはずだし、その感動だったりを伝えていきたいと思っています。なんか、失敗したかったんです。だから、ゼロイチでやって、マーケットを取りにいけなかったとしても、その経験を私は面白く感じられるかなと。
──失敗は怖くはない?
全然怖くない。なんでしょうね、美味しいと思えるというか。成功ばっかりしている方が、中性脂肪が溜まりそうじゃない(笑)?わからないけれど、ゴロゴロしていると太るけれど、動いていれば太らないじゃないですか。だから、失敗することは自分自身が健やかにいるために必要かなと。こたつでゴロゴロするのは好きですけどね。
──5年前のインタビューでシトウさんがご自身のブログについて“飽きたら明日にでも辞めるスタンスでいたい”と仰っているのが個人的に印象的でした。今も、その気持ちは変わりませんか?
それは変わらないですね。やっぱり惰性で続けるのが一番良くないと思っています。それに、ストリートスナップは、惰性で続けていられるほど甘いものじゃない。自分がだらだらやっているなとか、飽きたりしたら、幕引く瞬間ではあると思う。ただ、飽きたことないんです。14年間やって飽きないのだから、辞めることはないんじゃないかな。
──飽きたことがない?!
そうですね。街がすごく変わるし、場所も変わるし、人も変わる。一番魅力的なのは、全部勝手に思いがけない方向で変わるじゃないですか。それがすごく刺激的。定点観測しているだけで面白いです。
『Style on the Street : From Tokyo and Beyond』
著者: シトウレイ
協力: スコット・シューマン、阿部千登勢(sacai)、小木“ポギー”基史
装丁: ハードカバー、全272ページ(200ページカラー写真)
発売日: 2020年10月20日(火)予定
価格: ¥3,327
ISBN: 978-0-8478-6872-8
www.rizzoliusa.com
© Style on the Street: From Tokyo and Beyond by Rei Shito, Rizzoli New York, 220.
Photographs © Rei Shito
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シトウレイ
日本を代表するストリートスタイルフォトグラファー/ジャーナリスト。体の魅力を写真と言葉で紡ぐスタイルのファンは国内外に多数。毎シーズン、世界各国のコレクション取材を行い、類稀なセンスで見極められた写真とコメントを発信中。ストリートスタイルの随一の目利きであり、「東京スタイル」の案内人。ストリートスタイルフォトグラファーとしての経験を元にTV やラジオ、ファッションセミナー、執筆、講演等、活動は多岐に渡る。
Instagram: @reishito Twitter: @stylefromtokyo Facebook: bit.ly/2NJF53r YouTube: bit.ly/3ePodV8
【蔦屋書店 オンライントークショー】
〈第一回 〉
シトウレイ「Style on the Street: From Tokyo and Beyond 」(RIZZOLI)発売記念トークイベント with 奈良裕也
日時: 2020年10月30日(金)
時間: 20:00〜21:30
場所: オンライン上での開催
価格: ¥1,320(税込)*参加券のみ、
¥5,500(税込) *書籍「 Style on the Street: From Tokyo and Beyond 」(¥5,027)付き参加券
予約ページ
〈第二回 〉
シトウレイ「Style on the Street: From Tokyo and Beyond 」(RIZZOLI)発売記念トークイベント with 中島敏子
日時: 2020年10月31日(土)
時間: 20:00〜21:30
場所: オンライン上での開催
価格: ¥1,320(税込)*参加券のみ、
¥5,500(税込) *書籍「 Style on the Street: From Tokyo and Beyond 」(¥5,027)付き参加券
予約ページ
Photo: Kaori Ouchi Edit: Karin Ohira Text: Nico Araki