人の心の闇に寄り憑く“アヤカシ”が視える高校生・四月一日(わたぬき)は、一羽の蝶に導かれて辿り着いた不思議な【ミセ】で、妖しく美しい女主人・侑子に出会う――。カリスマ的人気を誇る女性漫画家集団・CLAMPによる原作を、蜷川実花監督が映画化した『ホリック xxxHOLiC』。今作に出演した神木隆之介さんと玉城ティナさんに、蜷川監督ならではの艶やかな世界観で芝居をすることの喜びや、心に響いたセリフについて聞きました。
映画『ホリック xxxHOLiC』神木隆之介&玉城ティナにインタビュー。「もっともっと自分を大切に」
──この映画の原作は、耽美的な作風で知られるCLAMPによる漫画作品です。お二人とも劇中での佇まいが、原作のイメージそのままで驚きました。キャラクターを演じる上で、どんなことを意識しましたか?
神木 僕が演じた四月一日(わたぬき)は、原作ではもう少しテンションの高いキャラクターですが、映画の脚本では、心の傷や暗い部分がより出ているように感じました。特殊な能力を持つことで孤独を抱えていた四月一日が、周りの人と関わりながら少しずつ表情を取り戻していく。そんな成長する姿を表現できたらと。
同時に、見た目の印象は原作に近づけたいなと思ったので、撮影中は前髪のヘアメイクを自分で担当してました!
玉城 たしかに、ずっと前髪をセットしてましたよね(笑)。
神木 メイクさんにヘアアイロンを借り、目が見えるか見えないかギリギリの前髪にこだわって、原作の雰囲気を再現しました。普段の現場ではお任せなんですけど、今回はメイクさんも「目の周りの繊細な部分だから」と気遣ってくれて、初めて自分で手を加えました。
──玉城さんが演じたひまわりは、悲劇的な運命のもとに生まれながらも、笑顔を絶やさない健気な女の子でしたね。
玉城 蜷川(実花)さんからは、「普段のティナよりも10倍明るく、笑顔で、声も高く」と言われました(笑)。だから学生時代にクラスにいた、キラキラしている子を思い出して。そうした明るさと、心の奥底にある苦しみとで、陽と陰のバランスは結構考えました。ビジュアルも特徴的なキャラクターなので、そこはスタッフのみなさんのおかげで、忠実に再現できたと思います。
──ツインテールのヘアスタイルと、ワンピースタイプの黒い制服が、とても似合っていました。
玉城 私もお気に入りでした! 制服はリボンが細くてかわいいし、スカート丈が長めなのも逆に今っぽくて。蜷川作品では衣装やヘアメイクの力がすごくて、そのおかげで役者の私たちも物語に入りやすいんです。
──蜷川実花監督の作品に出演するのは、神木さんは今回が初めて、玉城さんは『Diner ダイナー』(19)に続いて2作目です。蜷川監督ならではの、ファンタジックな極彩色の美術セットは見応えがありました。
神木 「これは現実なのか?」と思うほどの美しさで、本読みを何度やっても分からなかったことが、セットの中に入ると全部分かりました。スタッフさんも、他の現場ではカメラに影響がないようにと黒い服を着ている方が多いんです。でも今回の現場では、みんな自分の好きな色の服を着て、監督の作るカラフルな世界観に浸っていて。だから、僕ら演者も現実に引き戻されないんです。実花さんの影響で、僕の私服も少し派手になりました(笑)。
玉城 私は今回、神木さんや松村(北斗)さんと一緒の学校シーンの撮影が多かったので、最初は「普通の学園ドラマを撮ってるみたい!」と思ってました(笑)。でもいざ撮影が進んでいくとやっぱり、蜷川さんの現場だなと感じる部分があって。
──蜷川監督の現場だと実感したのは、どんな部分ですか?
玉城 直接的には言われないんですけど、蜷川さんはおそらく私たちに、映画でもご自身の写真作品のように美しく映ってほしいと思っていて。だから私も普段以上に、「今自分がカメラにどう映っているのか」という意識を持っていた気がします。
神木 あと実花さんの現場には、俳優とスタッフの間に壁をあまり感じないんです。だからみんなでコミュニケーションを取りながら、ゼロから創造していくクリエイティブな感覚があるというか。
玉城 ファミリー感が強いですよね。蜷川さんは親しみやすい方で、迷ったときは私たちに相談してくれるんです。「どっちがいいと思う? 好きな方に決めていいよ」って。そういう個人を尊重してくれる人柄と、あの圧倒的な世界観が両立されているところがすごいなと思います。
──今作には人生のヒントになるような、印象深いセリフも多く散りばめられていました。心に残っている言葉はありますか?
神木 侑子さん(柴咲コウ)の「あなたはあなただけのものじゃないのよ」というセリフですね。四月一日は大事な人を守るために自分を犠牲にするんですけど、そんな四月一日に侑子さんは、彼の傷ついた姿を見て傷つく人もいるんだよ、ということを教えるんです。僕もつい自分より人のことを優先してしまうし、自己肯定感が低い方。もっと自分を大切にするために、侑子さんの言葉を信じてみたいと思いました。
玉城 私は、ひまわりが言った「私ができることは、自分を自分で愛してあげることだから」という言葉。この仕事は、どこか渇いてなくちゃいけないとか、何かを求めていなくちゃいけないというイメージがあって。つい自分もそう思ったりしてしまうんですけど、それだけでは今の時代難しいのかなと。周りに何かを求めるのではなく、まず自分のことを好きになって、自分の中で答えを用意することも大切だなと感じています。
──神木さんも玉城さんも自己肯定感にまつわるセリフが心に残っているんですね。今回が初共演となりましたが、お互いの印象はいかがでしたか?
神木 実は本読みで最初に会ったときは、絶対仲良くなれないと思ってました。話しかけまくったからか、冷めた目で見られて(笑)。でもお互いに呼び名を決めようってなって、僕は(玉城さんのことを)“ティー”って呼ぶことにして。そこから話しやすくなったよね。意外と一緒にふざけてくれたし。
玉城 神木さんは、現場で本当にずっとふざけてるんですよ(笑)。それなのに、本番の「よーい」でスイッチがいきなり入るから、恐ろしいと思いました。私自身、こんなにカメラが回っていないところで笑っていられる現場って少なかったし、撮影の合間に和やかなムードがあったからこそ、逆に本番で集中できたのかもしれません。
──お二人とも若い頃から今の仕事を始めていますが、キャリアや年齢を重ねても、自分の中で変わらず大切にしていることはありますか?
玉城 私は……、自分を大きく見せない、できないことをできるように見せない。役を演じるときはまた別ですけど、普段の自分が発する言葉においては。それが結局自分のためにもなるし、昔から変わらず気をつけていることです。
神木 僕は、現場を楽しくしたいということをいつも考えています。
──「学生ノリを大事にしたい」と、以前のインタビューでも言っていましたね。
神木 学生時代がすごく楽しかったんです! あの頃ってなんでもできるような、無敵感があるじゃないですか。いわゆる“スター状態”ですよね。でも大人になるにつれて、社会のルールも分かるようになるし、勢いだけでは乗り切れない理不尽な現実にも出合っていく。不安や心配が増えて、挑戦することが億劫になっていく。そういうとき、学生の頃に言ってたような「ぶちかます」という言葉を思い出して。
玉城 ぶちかます(笑)。いいですね!
神木 「やりたいなら、やればいいじゃん!」「行け行け!」みたいなノリ。去年、舞台(※COCOON PRODUCTION 2021+大人計画の公演『パ・ラパパンパン』)に出たときもかなり緊張したんですけど、やっぱりこの言葉を思い出して。一歩踏み出すときに学生ノリを思い出すことは、僕にとっては効果的なんです。
『ホリック xxxHOLiC』
人の心の闇に寄り憑く“アヤカシ”が視える孤独な高校生・四月一日(わたぬき/神木隆之介)。その能力を捨て普通の生活を送りたいと願う四月一日は、ある日、一羽の蝶に導かれ、不思議な【ミセ】にたどり着く。妖しく美しい女主人・侑子(柴咲コウ)は、彼の願いを叶える代わりに、 “いちばん大切なもの”を差し出すよう囁く。同級生の百目鬼(どうめき/松村北斗)やひまわり(玉城ティナ)と日々を過ごし“大切なもの”を探す四月一日に、“アヤカシ”を操る女郎蜘蛛(吉岡里帆)らの魔の手が伸びる。世界を闇に堕とそうとする彼らとの戦いに、侑子や仲間たちと共に挑んだ四月一日の運命は――!?
原作: CLAMP『xxxHOLiC』(講談社「ヤングマガジン」連載)
監督: 蜷川実花
脚本: 吉田恵里香
音楽: 渋谷慶一郎
主題歌: SEKAI NO OWARI「Habit」(ユニバーサル ミュージック)
出演: 神木隆之介、柴咲コウ、松村北斗、玉城ティナ、趣里、DAOKO、モトーラ世理奈、磯村勇斗、吉岡里帆
配給: 松竹 アスミック・エース
2022年/日本/カラー/110分/ビスタ/7.1chサラウンド
4月29日(金・祝)より全国にてロードショー
©2022映画「ホリック」製作委員会 ©CLAMP・ShigatsuTsuitachi CO.,LTD./講談社
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神木隆之介
1993年生まれ、埼玉県出身。1995年デビュー後、さまざまな作品に出演。『妖怪大戦争』(05)で日本アカデミー賞新人俳優賞受賞。主な出演作に、『桐島、部活やめるってよ』(12)、『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』(14)、『バクマン。』(15)、『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』(16)、『君の名は。』(声の出演/16)、『3月のライオン 前編・後編』(17)、『フォルトゥナの瞳』、『屍人荘の殺人』(共に19)、『るろうに剣心 最終章 The Final』(21)、『ノイズ』(22)。公開待機作に『GHOSTBOOK おばけずかん』(22)。
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玉城ティナ
1997年生まれ、沖縄県出身。2012年、講談社主催のオーディション「ミスiD 2013」で初代グランプリを受賞。14歳で『ViVi』の最年少専属モデル、17歳で俳優としてデビュー。映画初出演作は『天の茶助』(15)。2019年に『Diner ダイナー』、『チワワちゃん』、『惡の華』、主演作『地獄少女』に出演し、報知映画賞新人賞を受賞。公開待機作に『極主夫道 ザ・シネマ』、『グッバイ・クルエル・ワールド』(共に22)。
Photo: Wataru Kitao Stylist: Tetsuro Nagase (UM/Ryunosuke Kamiki), TAKAKO IMAI (Tina Tamashiro) Hair&Makeup: MIZUHO (VITAMINS/Ryunosuke Kamiki), Mayu Suzuki (Tina Tamashiro) Text: Tomoe Adachi Edit: Milli Kawaguchi