2022年に結成10周年を迎えたスリーピースバンド、SHISHAMOが3人そろって『GINZA』に初登場。高校生でキャリアをスタートさせ、自分たちが感じた“違和感”にまっすぐ向き合い挑戦を楽しむ彼女たちの姿は、私たちにいろんなヒントを与えてくれる。 (文・haru.)
“もうひとふんばり”の連続が、ここより先へ連れて行ってくれる。SHISHAMOにインタビュー

“もうひとふんばり”の連続が
ここ、よりももっと先のところへ
「こんなに長く続けるつもりじゃなかったんです。そもそもバンドを組んだ当時はプロでやっていくとは思っていなかったので。それがいろんなご縁で、偶然が偶然を呼んでここまできました」。こう語るのは2022年で10周年を迎えたSHISHAMOのギター&ヴォーカルの宮崎朝子さん。バンド活動を始めたのはまだ彼女たちが高校生のとき。20歳でバンドを辞めると宣言していた前ベースのメンバーが2014年に脱退し、たまたまイベントの裏方のお手伝いをしていた松岡彩さんが加入して今の体制に。差し入れのシャインマスカットを前にはしゃぐ3人は、華々しい経歴とは裏腹に驚くほどフレッシュだ。さぞかしプライベートも一緒に過ごす機会が多いのかと思いきや、バンド活動以外で会うことはほとんどなく、最近では宮崎さんの結婚祝いで久々にみんなで食事をしたという。お互いへの信頼が厚いからこそのバランスなのだろう。
「さっき朝子がこんなにやるつもりはなかったと言っていましたが、私はいちばんそばでずっと続いてほしいと思っていました。とはいえ自分の気持ちだけではどうにもならないことだし、3人そろって、そしてまわりの皆さんがいてくれてこそなので。私の願いは叶い続けていて、今もこうして活動できています」(吉川美冴貴/ドラム)
そうまっすぐ話してくれる吉川さんをからかうように「明日にはわからないけどね」と笑う宮崎さん。それを松岡さんは優しい眼差しで見つめている。なんてバランスのいい3人組なんだ。「キャラも選ぶものもバラバラ」という言葉通り、撮影時のジャージーの着こなしも三者三様。髪型に合わせてメイクも変える松岡さんのオレンジ色のマスカラ、吉川さんが学生時代に拡張したピアスホール、本当は好きだけど避けてきたというピンク色のゴムで結んだ宮崎さんの小さな三つ編み。細部からにじみ出る「らしさ」にはそれぞれのストーリーがある。
10代の頃からハイティーンを中心に絶大な人気を誇る彼女たちだが、注目されるにつれて自分たちがカテゴライズされていくことに違和感を抱いていたという。
「バンドの内面的なことについてはあまりお話ししたことがないのですが」と前置きをし、宮崎さんが丁寧に言葉を選んでいく。
「たとえば女の子が3人でバンドを組んでいると〝ガールズバンド〟と呼ばれることが多いんです。自分たちではそう名乗らないようにしてきたし、テレビやラジオに出るときも〝ガールズ〟はつけないでくださいとお願いしていました。わざわざボーイズバンドとは言わないよねという違和感から、だったら私たちもスリーピースバンドでよくない?って」
メディアや観客からの見られ方と本来の自分たちとのギャップに初めから意識的だっただけではなく、SHISHAMOはそこに自ら切り込んでいく。
「10代の頃から自分たちのスタンスを言葉にしてお客さんに伝えることを徹底していたら、女の子のファンがものすごく増えたんです。SHISHAMOのいちばんの強みかなと思っています。時間はかかりましたけどね。近道はしたくない。耐えるというか、目の前の〝いい話〟は一度考えて、自分たちの違和感を見過ごさないようにしています」(宮崎)
「曲ではあえてメッセージ性を出さない」という制作のスタイルもユニークだ。SHISHAMOの曲のほとんどはメロディができる前に宮崎さんが歌詞を書くそうだが、題材となるのは本人ではなく架空の主人公であることが多い。
「頭の中で登場人物たちに取材しています(笑)。漫画を一話ずつ読むように、好きな物語を見つけてほしいです」(宮崎)
どんなに自分たちをとりまく状況が変わってもコンスタントに作品を発表し続けている彼女たちにバンドとしての転機について尋ねると、こんな答えが返ってきた。
「コロナで活動ができなくなった時ですかね。ずっと目の前にあることをがむしゃらに頑張るという日々だったんですが、緊急事態宣言中にバンドから少し離れて一人で生活して、久々に3人でスタジオに入ったときすごく楽しかった。やらなきゃいけない、ではなくてやりたいという気持ちを思い出せたのは、私にとっては転機でした」(松岡彩/ベース)
最新のアルバム『SHISHAMO 7』ではそんな松岡さんが初めて作詞にも挑戦した曲「はなればなれでも」が収録されている。
「私も同じくらいの時期かな。紅白(NHK紅白歌合戦)に出たのが2017年で、その頃から自分たちってどんなバンドだっけと思い悩んでしまって。コロナ禍で少し活動が落ち着いたので新しく機材を買い直したりして制作の環境を変えたら、初めて作ったときみたいに新鮮に感じられたんです。SHISHAMOがやりたいことを焦らずにやればいいじゃんってやっと思えた気がします」(宮崎)
予定していた公演がすべて中止になるなど活動への影響は大きいものの、10代の頃から言葉通り「突っ走って」きた彼女たちにとってこの束の間の休息ともいえる時間は、ありたい姿で輝くための準備期間にすぎなかったようだ。
「やっと余裕ができてきました。若かったし、女3人だし、なめられちゃいけない!と、ずっと気を張っていたので。自分のやっていることに常に誠実でいたいし、何事にも白黒つけたかった。でも最近は私自身も他の人も、みんなが幸せになれるグレーを見つけていくことに楽しさを感じています」(宮崎) 「張り詰めた状態だったからこそ生み出されてきた曲たちもあるはずですが、この朝子の変化は私もすごくうれしいですね」(吉川)
宮崎さんとクラスメイトだった吉川さんは、高校の入学式の時から彼女のことを気にかけていたという。メンバーやバンドの些細な変化も見逃さない彼女に「変わらないこと」を聞いてみた。
「ライヴでは2人の背中が見える位置から演奏しているんですが、いつだってすごくかっこいいんですよ。自分もそこに自信をもって並べるようにやっていかなきゃなと思わせてくれる。それはずっと変わらないです」(吉川)
大きな目標を掲げず、「とにかく曲。いい曲を作って届けることが私たちのしたいこと」と3人は口をそろえる。つくるものに真摯でいたい、このシンプルな気持ちが強い個と個を結びつけ、前進する原動力となっているようだ。
「続けることは私にとって〝もうひとふんばり〟の連続です。あれもできた、これもがんばれたっていうのが私やバンドを支えているので。音楽的にもいろんな挑戦をしてきて、そのたびにSHISHAMOはパワーアップしていく。今できることよりも少しハードルの高いことをやり続けることで、自分もバンドもその先へ行けるんだと思います」(宮崎)
SHISHAMOと振り返るディスコグラフィー
計7枚のアルバムを発表してきたSHISHAMO。思い出深い楽曲や撮影時のエピソードなど、メンバーの止まらないお喋りをどうぞ!
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SHISHAMO
2022年10月から、ワンマンツアー2022秋「NICE TO MEET YOUr town!!! 〜10年目の初上陸〜」で全国をまわり、2023年1月4日には日本武道館で10周年記念ライヴを行った。
Instagram→ @shishamo_official