俳優 ペ・ドゥナと、『私の少女』などの作品で知られる監督チョン・ジュリが再タッグを組んだ新作映画『あしたの少女』(8月25日公開)。2017年に韓国・全州にて大手通信会社の下請けコールセンターで現場実習として働いていた高校生が、うつと業務ストレスで自殺した事件をモチーフにした本作。2022年の「カンヌ国際映画祭:批評家週間」で話題になったことをきっかけに世論を動かし、韓国で封切り後に「職業教育訓練促進法」の一部改正案の議決を後押ししたことでも知られている。少女ソヒの死に違和感を覚え、事件の真相に迫ろうとする刑事ユジンを演じたペ・ドゥナに話を聞いた。
映画『あしたの少女』主演、ぺ・ドゥナにインタビュー
次の世代に、よりよい環境で幸せになってほしいという願い
──『私の少女』とは違う物語ではありますが、同じ監督で、再び刑事の役で仕事をすることで、ご自身の内側や意識の変化など気づくこともありましたか?
8年ぶりに、チョン・ジュリ監督から刑事の役の話をいただいたときは驚きました。大きな変化ということではありませんが、私自身が、歳を重ねて経験値も増えて、社会的な問題に対して、以前より自分なりにいろいろと考えるようになっていたんですね。なので、この映画に参加したいという思いも強くなりました。また、チョン・ジュリ監督と『私の少女』を撮れたことは非常にいい記憶として残っていたこともあり、監督がくれた役ならなんでもやろうと思っていました。以前は、ヨンナムという刑事の役でしたが、監督もたぶん、その延長線上にあるものとして、今回、同じ俳優である私を起用してくれたんだろうと考えましたし、8年という時間を経て、ヨンナムも新作『あしたの少女』の刑事ユジンくらいの歳になったのだろうなと想像して、自然に役を受け入れることができました。
──チョン・ジュリ監督の作品の力について、どんなふうに考えていますか?
すごく穏やかで静かな印象だけれどとてもシャープで、大きな波が押し寄せてくるような怖さもある。言いたいことを遠回しにすることなく、落ち着いた語りでありながら、まるで人の心に矢を突き刺してくるような。シナリオも、余白が多めで説明はあまりないのですが、率直なんですよね。ストレートにダイレクトに心を動かされるので、映画を観た人が、あっと驚くようなそんな力があると思います。
──本作の主人公、ソヒの物語は、実際に起こった事件をモチーフにしています。担任の先生の紹介で、実習生としてコールセンターで働いていた女子高生ホン・スヨンさんの投身自殺のニュースについて知ったとき、どんな感情が沸きましたか?
この作品のお話をいただくまでは、実際に起きた事件のことは知りませんでした。それから、韓国の時事教育番組『それが知りたい』の中で、ホン・スヨンさんと同じように高校生で実習生として働く中で、挫折をしたり、体が不自由になったり、事故で亡くなったりしてしまった方たちのドキュメンタリーを観ました。シナリオを読んだときと同じように、非常に胸が痛みました。
私が演じたユジンは、ソヒが死んだ後、社会の様子をじっと見つめる役でしたよね。読み進めていくうちに、私のようにある程度、年齢を重ねた人たちは、年下や弱い立場にいる人たちを保護すべきなのに、それができていない。その現実がとても辛いと思ったんです。どうしてこの社会は、こんなに冷たいんだろう。お金は人間よりも大切なものなのか。そう問いながら、世の中に対して疑いの念を抱くようになりました。
──若く、立場が弱い人たちが、さらに厳しい立場に置かれていく環境になってしまうというのは、大人の責任ですもんね。
そうなんです。希望を持って、これから幸せになるべき人たちであるはずなのに。これからを担う若者たちが、よりよい環境の中で幸せになってほしい。この作品を撮りながら、そう思っていました。私よりも演技が上手な俳優さんはたくさんいますし、この役は私でなくてもよかったかもしれないけれど、少しでも役に立ちたい、と身に染みて思ったんですよね。この映画が世に出ることで、話題として取り上げてほしいし、世界にこの出来事を知ってほしいという気持ちがあったので、出演することができて少しだけ気持ちが軽くなりました。
Edit & Text: Tomoko Ogawa