長生きしていたら、いつの間にか37歳の化け猫になっていた猫のあんずちゃん。いましろたかしさんの同名コミックを原作に、アニメーション作家・イラストレーター・漫画家として活躍する久野遥子さんと、2024年は『カラオケ行こ!』、『水深ゼロメートルから』、『告白 コンフェッション』と公開作が続く山下敦弘さんがW監督を務める日仏合作アニメ『化け猫あんずちゃん』(公開中)。猫耳カチューシャをつけた森山未來さんらが演じた映像をトレースするアニメーション手法「ロトスコープ」を使用し、すこしふしぎでちょっとおかしい夏休み映画が誕生した。それぞれの分野で活躍する久野さんと山下さんに、実写とアニメーションを組み合わせる楽しみについて聞いた。
久野遥子×山下敦弘監督。映画『化け猫あんずちゃん』インタビュー
異なる強みを持った、実写とアニメだからできた表現
──お二人は、日中韓文化事業「東アジア文化都市2019豊島」プロモーションの短編映像でコラボレーションされていますが、『化け猫あんずちゃん』の話の方が先に来ていたのでしょうか?
久野遥子(以下、久野) そうですね。8年くらい前にプロデューサーの近藤慶一さんからお話をもらって『化け猫あんずちゃん』の企画が進んでいた途中に、土居伸彰さんからお声をかけていただき、「東アジア~」をあんずちゃんと同じ手法とチームで制作することになりました。
山下敦弘(以下、山下) あんずちゃんもあるから、ぜひやりましょうとなったんですよね。まず、久野さんの作品を観せてもらったときはすごいなと思って、でもロトスコープでどういうふうにアニメになるのかはよくわかっていませんでした。それで、「東アジア~」でご一緒して、久野さんがどういう感覚の方なのかがわかって、僕らの撮った実写の映像をアニメーションにするとこういうふうになるんだと、面白かったし、楽しかったんですよね。久野さんと一緒につくるとこうなるんだ、というのが掴めたという意味では大きかったですね。
久野 私も、山下さんの映画は役者さんが生きているというか、実在感があると思っていましたが、実際に「東アジア~」の現場に行かせてもらったときに、本当にお芝居を大切にしているんだなと感じました。役者さんが考える役の印象が、すごく自然なものに近づくまで見届けてからカメラワークなどを決めていくやり方などは、現場で知ったことですね。
──「東アジア~」のときと、あんずちゃんの制作のプロセスはほぼ一緒だったのでしょうか。
山下 大まかには一緒ですが、「東アジア~」は演技未経験のお子さんが主演だったので、まるでコントロールできない動物を撮っているようなところがあったんです。そうしてできた実写の印象を、久野さんがもう一回演出してくれたものを観たときに、アニメーションが入って作品として完成するんだ!ということを初めて体感できた。絵として加えていくところと、減らしてくところの久野さんの匙加減も少しわかったので、自分の中で逆算して実写を撮ることもできるなと思えたんですよね。
久野 アニメーションだとコントロールができるので、「東アジア~」の制作を通じて、お互いにどこまでができてどこからはできないかを擦り合わせられたんですよね。実際はお天気が悪くても、アニメで描けるから大丈夫ですよ、みたいなところも含めて。
山下 そうそう。例えば、映画だと、本番の撮影をしたくても、天気待ちをしなくちゃいけないことも多くて、現場で起きていることとの駆け引きが生じるけれど、アニメの場合は、天候も照明も関係ないから、いいタイミングでちゃんと芝居を撮ることができるんです。だから、実写で完パケするもののときよりも、若干余白がつくれる感じがあって、「これくらい余白を残しといたから、あとは久野さんお願いします!」みたいなことも言えちゃうというか(笑)。
久野 「東アジア~」のときはアニメをつくっている最中も、山下さんが色味や人物の表情などの提案をしてくださったので、意見交換しながら反映していましたが、あんずちゃんのときはあまりなかったですよね。
山下 実写の撮影と編集までは一緒にして、アニメーションの部分は久野さんにお任せしました。1分に2~3ヵ月もかかるような途方もない作業であることはわかっていたので、自分が細かくいろいろ言ったらさらに大変になるなと思って。何割か仕上がったタイミングで見せてもらえればいいから、後は頼んだ!みたいな感じでね。その間、他の作品を2本ほど撮って、撮影が終わってまた合流して。
久野 制作過程で何度かお見せする機会があったのですが、その都度山下さんは、撮影でめちゃくちゃ日焼けして戻ってくる、みたいな感じでしたよね。
──本作はロトスコープの手法を取り入れたアニメーションですが、キャスティングはどのように進めていったのでしょう?
山下 オーディションもしましたし、プロデューサーと久野さんとみんなで決めていきました。森山未來さんに関しては、自分が言い出したのかな。「『苦役列車』(12)と同じ座組だね」とも言われましたが、森山くんがいいなと思ったんですよね。迷いなく、「いただきまんにゃ!」とか言ってくれるので。
久野 あと、キャラクターとしては妖怪が多かったけれど、人間のキャラに関しては、シルエットがそのまま出るので、キャスティングする上で役柄と合う姿形かどうかは大事だと思っていました。特に、かりん役の五藤希愛さんは、中学に入る前の小学生の高学年にしかないような、手足がまっすぐで長細い感じも決め手になったのかなと。
山下 かりんちゃんに関しては、あんずちゃんとのバランスもあったし、一番みんなで決めたよね。
久野 オーディションで候補を3人くらいに絞れてきたところで、3人とも絵に起こしてあんずちゃんと並んだ印象を見たりもしましたよね。
──現場も、お二人で監督するというかたちだったんですか?
久野 実写部分の監督は山下さんですが、現場はわりと一緒にいさせてもらっていました。
山下 僕はお芝居ばかり見てしまうタイプなので、久野さんには一緒にモニターの前で、全体をチェックしてもらっていました。実写では楽なことが、アニメの場合は大変なときもあって、その逆もあるので、撮影に入る前からそのあたりに関しては話してはいたけれど、現場でも確認しながらやっていきました。
久野 撮影しながらいろいろ聞いてくださったので、ありがたかったです。また、役者さんたちの生の熱量みたいなものを目の前で見れたのは、すごく大事なことでした。
──映像だと楽でアニメだと大変なことは、具体的にどのような部分だったのか気になります。
山下 あまり手持ちカメラはよろしくないとか。僕は元々手持ちは好きじゃないけれど、例えば、震えが増えると、ロトスコープでアニメーションにするときに相当難しくなってしまう。
久野 手持ちカメラで撮った映像をトレースすることは難しくて。あえて手ブレにしてます、というものにはできても、自然なブレ感を出すには、背景も3D的に動かす必要があるので、かなり手間がかかってしまいますね。
Photo_Wataru Kitao Interview &Text_Tomoko Ogawa