パリのオペラ座、ボストン市政府、ニューヨーク公共図書館など、あらゆる組織を“ナレーションなし、音楽なし、インタビューなし”の一貫した手法で、カメラに収めてきたフレデリック・ワイズマン監督。最新作『至福のレストラン/三つ星トロワグロ』(8月23日公開)の主題として白羽の矢が立ったのは、フランスの小さな村にある三つ星レストラン、トロワグロ。なんともお腹のすく傑作ドキュメンタリーを通して、孤高の映画作家による映画づくりの真髄に迫る。
映画『至福のレストラン/三つ星トロワグロ』フレデリック・ワイズマン監督にインタビュー
94歳の巨匠が見つめた料理芸術の極致。「アーティストこそプロフェッショナルなんです」
――5週間ほど撮影を行っていた間、トロワグロでそこのスタッフと、70回分の食事をともにしたそうですね。特に気に入ったメニューはありましたか?
毎日が驚きの連続で、全部気に入りましたよ。彼らが自分たちのために作るまかないをなんでも食べる、というような感じで。正確な料理名は覚えていないけど、いつもとてもおいしかった。魚、肉、野菜、すべてが素晴らしかったです。
――60年ほどに及ぶキャリアにおいて、初めて“料理”というテーマにフォーカスすることで、これまでと勝手が違った部分はあります?
いいえ。この映画の製作が決まる前、プライベートで友人と食事をしに来た時に厨房の中を見たことはあったし、スタッフはとにかく注文されたメニューを調理するのに集中していて、撮影のために何か特別なことはしてもらっていないから。
――“手元の調理”と“レストランの風景”や“地域の生態系”という、ミクロとマクロの世界を行き来するのが興味深かったです。内容が生態系にまで及ぶことは、撮影前から予測していましたか?
いや、そうなるとは考えていなかった。というのも、3代目オーナーシェフであるミッシェル・トロワグロが「私たちはこれから朝のうちにマルシェへ行きますが、一緒に来ますか?」というふうに、毎回誘ってくれたからなんです。行き先は牧場、ブドウ畑、エコフレンドリーな農園など多岐に及びました。マルシェには週1、2回、農園には週2、3回通っていた。映画の方向性はそんなふうに、被写体によるところが大きくて。何か面白いことに誘われるたび、同行するようにしていました。
Text&Edit_Milli Kawaguchi