3年後に米・ロサンゼルスで開催されるオリンピック。野球とソフトボールの復活はうれしいことだけど、初めて採用される新種目についても今から知っておきたい。近代五種もリニューアルを経て、新たな競技「オブスタクルスポーツ」が導入される。そんなNEXT競技に挑む女性アスリート、才藤歩夢さんにアレコレ聞いてみた。
新種目「オブスタクルスポーツ」に挑むアスリート、才藤歩夢を訪ねて

近代五種で鍛えた体で、
反り立つ壁に挑む
都内の公園で待ち合わせた才藤歩夢さんは、爽やかなトレーニングスタイルで現れた。長い髪をぴしっと結び、トラックへ。今日はランを中心に練習するという。
「全部で5種目あるので、別のコーチに練習メニューを組んでもらっています。大会がある場合は日程を考慮しながら、どこをどう鍛えるかスケジュールを立てています」
才藤さんが挑戦する競技は「近代五種」。射撃、フェンシング、水泳、馬術(パリ五輪まで)、ランニングの5種目をひとりでこなす複合競技だ。種目ごとに使う筋肉が違うため、バランスよく体を鍛えなければならない。調整が大変そうに思えるが、才藤さんにとっては当たり前のこと。小さい頃からさまざまな競技に取り組んできたのだ。
「父が近代五種の選手だったので、その影響もあってスポーツが身近な環境だったんです。水泳に陸上教室に、小学校高学年の頃はバトンを習いに行ったことも」

高校ではフェンシング部に入り、並行して水泳や陸上は教室で習った。ちょうどその頃、父である才藤浩さんがロンドン五輪で近代五種の監督を務める姿を見た。かねてから「いつか自分も」と思っていたけれど、早稲田大学進学を機に本格的にオリンピックを目指し始めたという。父の背中を見てきたとはいえ、近代五種のどんなところに夢中になったのだろう。
「バラバラの5種目をひとりでこなさないといけないので、選手によって得意不得意が大きく出る競技なんです。負けていても得意な分野で挽回できるから、順位が大きく入れ替わる。観ている方も白熱すると思います。練習内容も自分で管理しなければいけないのですが、日々違う種目に取り組むから飽きないし、楽しいんですよ」

近代五種のホットトピックは、2028年のロサンゼルス五輪から馬術に代わって「オブスタクル」(障害物)が採用されることだ。「走る」「跳ぶ」「登る」「つかむ」などの動きを駆使し、さまざまな障害物をクリアしてタイムを競う。日本のテレビ番組『SASUKE』を参考に作られた種目のため、高さ3・5メートルの「フィニッシュウォール」も存在する。番組が好きでよく観ていたという才藤さんは、過去に『SASUKE』やその女性版『KUNOICHI』に出場。手応えを感じているという。
「好きだった馬術がなくなることはショックでした。でもまずは慣れることが大事。6個のリングをうんていの要領で進む種目やモンキーバーは自重の扱い方が重要なので、ボルダリングを取り入れるなどできることから練習を始めています」
2024年10月に行われたオブスタクル日本選手権女子シニアクラスでは準優勝を記録。3年後のロサンゼルス五輪に向け練習に励んでいる。プライベートの楽しみを聞くと「体を動かすことです」と笑う才藤さん。モデルとしても活動しているが、最優先は競技だからしっかり食べる。颯爽と走る姿は発光するみたいに美しかった。オブスタクルに挑む姿を、全力で応援したい。
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才藤歩夢
さいとう・あゆむ>> 1996年生まれ、東京都出身。父・才藤浩(ソウル五輪で近代五種競技選手として活躍)の影響で近代五種を始める。2016年、フェンシングアジアジュニア選手権(個人)3位、全日本選手権で個人優勝、17年、近代五種ワールドカップ混合リレー2位。五輪出場を目指し、トレーニング中。
Photo_Ryohei Ambo, Aflo Text_Neo Iida