フォルムの美しさと素材の個性。注目される作家の椅子を集めたら、二つの共通点が浮かび上がってきた。ならばと試みたのは、同じ魅力をもつファッションとの競演。いま話題を集める椅子と服との邂逅から、時代が求めるデザインが見えてくる。#気鋭な椅子と
気鋭な椅子と春のファッション。木工作家WANによる、ワンダフルな犬型ベンチ

ワンダフルなベンチは、犬型ランプで人気の作家、WANの作。タオルのような肌触りの張地は、グレーのほか青やレンガ色など11色から注文可能。カラフルでハリのあるウール地のルックと同様、愛らしい佇まいだ。〈Doggy Bench〉*受注品 H98・SH43×W150×D51cm ¥605,000〜 (WAN WAN WONDERLAND)/ジャケット ¥426,800、スカート ¥352,000、シューズ*参考商品(以上マーク ジェイコブス | マーク ジェイコブス カスタマーセンター)
木工作家、デザイナーWANのクリエイションの源とは
フレッシュな椅子を生み出している作り手は、何から刺激を受け、どんなクリエイションを目指しているのだろう。その発想の源や大切にしていることを聞いてみた。

理想は可愛さとクールの中間
動物好きならずとも、思わず「可愛い!」と頬がゆるむ〈Doggy Bench〉。木工作家でデザイナー (もちろん大の犬好き)のWANさんによる作品だ。以前から犬をモチーフにしたオブジェやテーブルランプで人気だったが、2024年春、ベンチ作りに挑戦した。「以前から自作のランプを見ては“これを大きくしたら座れるかも”と思っていたんです」。本体は木製で、WANさん自身が制作。その上にウレタンを巻き、タオルのようにモコモコした生地で覆っている。ほどよい弾力性があり、長く座っていても疲れないのがうれしい。顔の向きを変えられるのも愛嬌がある。

「犬種は決めていません。“胸のポコッとした部分がたまらないよね”というような、日常的に犬を見たり触ったりしている感覚を、アウトプットしているだけなんです」
と同時に、常に気をつけているのは、可愛くなりすぎないようにすること。幾何学デザインを取り入れているのも、顔の表情を一切つけていないのもそのためだ。
「目を入れるとキャラクターっぽくなるし、家具ではなくオブジェになってしまう。犬が何を考えているかなんてわからない、くらいのほうが、居住空間にはなじむと思います。直線を意識しているのは、エットレ・ソットサスや倉俣史朗など、ポストモダンのデザイナーが好きなことと関係あるかも。仕上がりはあくまでもクールにしたいんです」
ハンドメイドゆえの葛藤もあるという。
「作り手である私自身のクセが出すぎるのは本望じゃない。丹精も愛情も込めて、可愛いなあと思いながら作ってはいますが、その想いが乗っかりすぎないように、バレないように(笑)、と自分を律しています」
🗣️

WAN
ワン>> 東京都出身。武蔵野美術大学で映像を学んだ後、職業訓練校で木工技術を習得。現在は家具修理の仕事をしながら、〈WAN WAN WONDERLAND〉の屋号で作品を制作。
Photo_Masaya Tanaka (TRON) Styling_Tomoko Iijima Hair&Make-up_Shinya Kawamura (mod’s hair) Model_FLORENCE Text_Masae Wako Special Thanks_Yusuke Takeuchi