“可愛い”を追い続ける〈ジルスチュアート ビューティ〉と作家・柚木麻子が紡ぐメッセージ。 エンパワーする女性たちの背中をそっと押してくれる全6話の連載物語。
Sisterhood with JILL STUART Beauty × 柚木麻子 vol.4『ライトアップ合戦』

vol.4 『ライトアップ合戦』
通りを挟んだベランダがぱっとイルミネーションで輝き、私は彼女に見えるようにエッグノッグのマグをひょいと掲げた。ネオンで形作られたツリーやトナカイ、Merry Christmas!の文字。昨日より断然、色数が多い。ふと思いついて、私はずっと触っていなかった化粧ポーチを引き寄せ、頰にチークをのせてみる。誰に見せるわけではなくても、私の顔にも明るい色を足してみたくなったのだ。
女性に大人気の「アングリーダンス」を手がけた振付師の彼女が向かいの部屋に越してきて、五ケ月が経つ。
直接言葉を交わしたことはないものの、彼女とはネット上で二週間前、繫がった。
―もしかして、うちのお向かいに住んでいる人ですか?
実名で立ち上げたブログにそんなメッセージが届いた。「アングリーダンス」に触れた回は別に話題になったというほどではない。あれだけでよく私だとわかったな、と驚いたが「失業してから外に出ていない」「自分が何もできない時は、遠くで踊っている誰かを見るだけでもいいのかも」という文章、あとベランダから撮った街並みが少し写り込んだ空の写真にピンときたんだそうだ。
私たちは何度もメッセージをやりとりし、LINEを交わすようになった。
―ねえ、せっかくだから、ホリデーは盛り上げよう。お互いうちの中でできる範囲で。
我々はネット通販でせっせとイルミネーションを買い漁った。私は大人っぽいシャンパンカラーにしたが、彼女は見た目よりずっと無邪気な人らしく直球の赤や緑を選んだ。私たちが競い合うように互いのベランダを飾り立てているのが、近所ではちょっとした名物になってきたようで、通りからスマホを向ける人もいる。事務所ばかりかと思っていたこのビルに案外、子どもやカップルが多く住んでいることに驚いた。自粛が続く中、みんな娯楽に飢えているのか、イルミネーションが灯ると同時に、通りから歓声が聞こえるようになった。
その時だった。向かいのベランダのネオンがふっと消え、全ては闇に沈んだ。
背筋がぞくりとした。なにしろ、彼女は有名人だ。アングリーダンスを「女らしくない」「なんだか傷つく」と批判する連中もいる。もしかして今、怖い目に?慌てて「大丈夫?」とL
INEを送りながら、私は目についたニットをひっつかみ、夢中で玄関に走った。このマンションにはエレベーターがないので、足をもつれさせながら階段を駆け下りる。エントランスから飛び出したのと彼女からLINEが届いたのはほぼ同時だった。
―ブレーカーが急に落ちたみたい。もうなんでもないよ。
胸をなでおろしたその時、私はようやく、通りの真ん中に立って、隣のビルを見上げている自分に気付いた。約一年ぶりに家の外に出たのだ。
きんと冷たい外気が肌を刺す。彼女の部屋はあたたかな色の洪水に守られていた。
(次号に続く。第三話はこちらから。)
柚木麻子
ゆずき・あさこ
作家。1981年東京都生まれ。2010年『終点のあの子』でデビュー。『ナイルパーチの女子会』(15/山本周五郎賞受賞)、『BUTTER』(17)など、シスターフッドを綴る作品には多くの女性ファンが。最新刊『らんたん』が小学館より10月27日発売。「構想5年、母校、恵泉女学園の創始者河井道の生涯を描きました!」。渾身の新作は必読。
夢の中のラナンキュラスのように
光にきらめくチークカラー
5色の花びらが広がる1輪の花をイメージ。ラベンダーピンクにハイライトカラーを加えることで、血色とツヤ、肌の奥から光を放つ仕上がりに。砂漠の宮殿を思わせる限定レリーフのパッケージ入り。ジルスチュアート ブルーム ミックスブラッシュ コンパクト パレスドリーム*全2種 17ドリーミーラナンキュラス ¥4,620*11月12日発売限定品(ジルスチュアート ビューティ)