“可愛い”を追い続ける〈ジルスチュアート ビューティ〉と作家・柚木麻子が紡ぐメッセージ。 エンパワーする女性たちの背中をそっと押してくれる全6話の連載物語。
Sisterhood with JILL STUART Beauty × 柚木麻子 vol.3『“ムーンライト伝説”ふたたび』

vol.3 『 “ムーンライト伝説”ふたたび』
十三夜、実家から大量の皮つき栗が段ボールで送られてきた。毎年そうであるように、母からの指示でいっぱいの手紙が添えられている。いつもなら面倒で、マメな人に配りまくるところだが、出歩く勇気はまだ湧かなかった。夕暮れのベランダに椅子を引っ張り出し、手元を照らすためにアロマキャンドルを灯した。ナイフで渋皮をむきながら、夜を待つことにした。そういえば、手間のかかる料理をするのは久しぶりである。マロンシャンテリーを作ってみようかな―。
秋になるとカフェ巡りをして栗のおやつを食べるのが好きだった。そんな時はいつもコートや爪の色もこっくりと濃い色を選んだ。もう長いこと服を買ってない。ネイルも塗っていない。
向かいの部屋で彼女が踊っている。私をみとめると、しばらく姿を消して、同じようにキャンドルを手にして戻って来た。ゆらゆら揺れる炎が、彼女の白い顔を一瞬、浮かび上がらせた。何しているの、というように首を傾げてみせるので、栗の入ったザルを掲げた。幅十メートルを隔てている上、薄暗くなってきているせいで、よく見えないようだ。彼女は両手を広げて、肩の高さまで持ち上げるというジェスチャーを返してきた。ダンスを生業とするせいか、彼女は感情を身体で伝えるのが上手だ。一度もしゃべったことがないのに、長時間話し込んだことがある気がするのは、ネットで偶然彼女の正体を知ってしまったせいだけではない。
そんな仕草につられて、私は普段なら絶対にしないことをした。立ち上がると、幼稚園の頃に習った「大きな栗の木の下で」を踊ってみせたのだ。恥ずかしかったが、できるだけわかりやすいように、大きく手を広げ、頭の上で三角を作ると、肩から太ももにとんとんと下ろしていく。すると彼女はいいね!というように親指を突き立てて、身体をぐんと斜めに反らせてみせた。私はそれに勇気を得て深呼吸すると、彼女がいつも踊っているあのダンス―。アイドルファンばかりではなく、いまや小学生から高齢者まで女性の間で爆発的な広がりをみせ、社会現象とまで呼ばれている「アングリー・ガール」の激しい振付を自分なりに踊ってみた。
彼女は著名な演出振付家だったのだ。女性を狙った犯罪が多発する昨今、このダンスを踊るだけで、社会にNOを突きつけることができる。彼女は彼女にしかできないやり方で今、革命を起こそうとしているのかもしれない。
渦中の女性は今、私の目の前で「大きな栗の木の下で」の続き、「あなたとわたし たのしく遊びましょう」の自分と相手を順に指差すパートを軽やかに踊っている。
私たちの上にはいつの間にか、満月が輝いていた。
(次号に続く。第二話はこちらから。)
柚木麻子
ゆずき・あさこ
作家。1981年東京都生まれ。2010年『終点のあの子』でデビュー。『ナイルパーチの女子会』(15)、『BUTTER』(17)など、シスターフッドを綴る作品には多くの女性ファンが。小学館「WEBきらら」にて『らんたん』連載中。「最近、昔つくったスクラップブックを眺めているのですが、雑誌の切り抜きを見てると、好きなものが変わってないことに驚きます」とか。
ピュアなホワイトフローラルが香る
アロマキャンドル
満開の花のブーケが部屋中を満たす癒やしの時間。甘く、あたたかなホワイトフローラルの香りに包まれながら、秋の夜長をロマンティックに灯してくれる。中央のダイヤモンドを囲うように花冠をあしらった、心くすぐるキャンドルデザインもスウィートな空間にぴったり。ジルスチュアート フラワーキャンドル ホワイトフローラル 170g ¥4,950(ジルスチュアート ビューティ)