クォーター・ライフ・クライシス。それは、人生の4分の1を過ぎた20代後半〜30代前半のころに訪れがちな、幸福の低迷期を表す言葉だ。25歳の家入レオさんもそれを実感し、揺らいでいる。「自分をごまかさないで、正直に生きたい」家入さん自身が今感じる心の内面を丁寧にすくった連載エッセイ。前回は vol.8 反射せずに
家入レオ「言葉は目に見えないファッション」vol.9 目に見えないあなた

vol.9 目に見えないあなた
死は、この地球に生まれてきた全ての命に、いつか平等に訪れるものだ。それがどういうものなのか、私はまだ知らない。
輪廻転生をはじめとする、様々な宗教や思想に沿って考えてみると、ひょっとして、もう経験済みだったりして、なんて思うけれど。
その記憶はちゃんと消されている。今を生きなさいという神様の愛によって。
その日も、友人宅で曲作りをしていた。
艶めく黒のグランドピアノに映る、演奏する彼女と、すぐ隣で歌う私のシルエット。
一階の防音室に運び込むのがすっごく大変だったって話は…確か…そう!はじめて家に招かれた時に聞かせて貰ったんだ。
少し窮屈そうに防音室に納まっているグランドピアノの姿が、なんとも可愛らしく、愛おしかった。
例によって、その日もメロディやコード進行を、作っては壊し、作っては壊し、の繰り返し。
集中すると、時間感覚がなくなる。
なんとなく形になってきたメロディを忘れないように、と簡易的にボイスメモで録っていると母から電話が入った。
普段、今大丈夫?と先にメッセージをくれるので珍しいな、と思いつつ、切りのいいところまで作業を続けた。
それでも、なんだか気になって、彼女に断りを入れ、折り返しの電話をかけると、いつもと違う母の声音が祖父の死を伝えた。
電話を切った後、動揺している私が彼女にその事実を告げると、寄り添い励まし、力になってくれた。
すぐにマネージャーさんに連絡を取り、スケジュールを調節して貰い、私はその数時間後には飛行機に乗っていた。
私はその日の朝、祖父と電話していたのだ。
受話器に向かって自分の名前を大きな声で何度も伝え、そして、同じように、じいじ!と何度も呼びかけた。
「うん、うん」と微かに返ってきたその声で、ちゃんと伝わってる、大丈夫だって、そう思ったのに。
何の実感も湧かないまま、葬儀場で祖父の亡骸と対面した時、
だけど、私は泣いていた。
泣いている自分に、自分で少しびっくりしてしまった。
人によって時差はあるのかもしれないけれど、悲しいとやっぱり涙が出るんだなぁと静かに思った。
そこには祖父の身体があって、身体しかなくて、眠っているみたいだけど、でも、いないことが、はっきりと分かった。
身体は容れ物でしかない。
思い出が、こんなに嬉しく、こんなに悲しく、私に語りかけてくる夜が来るなんて。
布団を敷いて横になっても、目が冴えて中々寝付けない。
ふと、私は、次祖父にどこかで会ったら、それが祖父と分かるだろうか?と、思った。
今までは、祖父の身体に祖父の魂が入っていたから、それを祖父だと認識できた。
身体の方は明後日には、出棺し火葬場に送らないといけないから、骨になってしまう。
だけど、祖父の魂は消えてない。
この宇宙の何処かに存在していると、私は今も感じていて。
だとすると、身体は滅びるけど、魂はきっとほとんど半永久的なもの。
目に見えない魂こそが、本当のその人自身なはず。
とすると、本当の祖父は、どんな形でどんな色をしているんだろう?
そもそも造形を持たせようとすること、イメージしようとすることが、もう違うのだろうか。
なんて考えていたら朝になっていた。
自分の身体と自分の性格で生きられるのは、長くても100年くらいのことなんだなぁ。
それより、ずっと短いかもしれないし、長いかもしれない。
神様だけが知っていること。
時々、人と比べたり、その輝きに目を細めたりして、自分を大切にできなかったりする。
でもね、もう二度と私は私の形で生まれて来られないんだ。
私が私を忘れてしまって、その魂を違う体という乗り物に入れて、また地球に来ることはあるかもしれないけれど。
そして、今までも、この先も、誰も、君で、あなたで、生まれて来られないんだから、この人生をまずは精一杯生き切りたいな。
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家入 レオ
16thシングル『未完成』(フジテレビ系月9ドラマ『絶対零度〜未然犯罪潜入捜査〜』主題歌)のginzamagでのインタビュー:
家入レオ、愛と憎しみの区別がつかなくなった「未完成」。
leo-ieiri.com
@leoieiri