クォーター・ライフ・クライシス。それは、人生の4分の1を過ぎた20代後半〜30代前半のころに訪れがちな、幸福の低迷期を表す言葉だ。25歳の家入レオさんもそれを実感し、揺らいでいる。「自分をごまかさないで、正直に生きたい」家入さん自身が今感じる心の内面を丁寧にすくった連載エッセイ。前回は vol.11 お母さんは魔法使い
家入レオ「言葉は目に見えないファッション」vol.12 今ここ、を生きる

vol.12 今ここ、を生きる
今年の夏は、日本全国、本当に暑かった。
東京も例外ではなく、日が高いうちは、買い物に出かける気持ちにもならない程だった。
夕方、食卓で流していたニュースで、9月半ばまでこの気温が続くことを予想していて。
いよいよ秋がなくなってしまうのかしら、と思わず箸を止め、その特集が終わるまでの間、テレビ画面を見つめていた。
その日は、どうしても完了させておきたい作業があり、事務所のスタジオに向かった。
太陽が1番高い場所に位置している時刻を避けてもこの暑さ。
肌に軽い痛みを感じるくらいの強い日差し。
家を出る前に塗った日焼け止めも、もう流れてしまっているかも。
肌も目も色素が薄いわたしには、中々辛い。
マスクにプラスして、サングラスに日傘、というスタイルに、どうしても馴染みきれず、飲む日焼け止めに頼ってしまいがち。
「おはようございますー。」とクーラーの効いた室内に入り、貰った水を飲むと、また汗が。
「これじゃあ、いたちごっこだ!」と、マネージャーさんと笑い合って、やっぱり人に会うのは良いなぁと思った。
スタジオに入り、ハッとして、時計を確認すると、かなりの時間が経っていた。
お礼を伝え、先々のスケジュールを確認し、外に出る。
夕暮れと夜の真ん中。
マジックアワー。
向かいのビルの窓にオレンジがキラキラと反射して、わたしに笑いかけてくれる。
大きく伸びをして、空を見上げる。
ちょっと散歩して帰ろう。
2020年。
わたしの中で何度も革命が起こり、多分それは、年末まで続くのだろう。
「今日も、1日分だけ、ちゃんとがんばれた。」
その充足感に満たされたわたしは、こころの宝箱から、大切にしている言葉や記憶を取り出しながら、てくてく歩く。
すれ違う人たちが不思議そうにわたしを眺めるのは、一人なのに楽しそうに笑っているからだろう。
久しぶりに行ったリハーサル。
久しぶりに会った大好きなライブスタッフの皆さん。
現場の数が減って、大変なはずなのに、笑顔を絶やさない姿勢に学ぶべきことがたくさんあった。
長年お世話になっている方が休憩中に、話してくれた気持ちは、わたしの心の宝箱に今もしまってある。
「以前はね、ちょっと、いや、かなり無茶なスケジュールを組みがちだったんだよね」
「好きだからやってる。だからそういうもんだろう、って。実際そうだったし」
「現場が飛んで、参ったし、参っているけれど、でも、家で子供と遊んだり、今できることとちゃんと向き合って、これが生活だよなって」
「こういう状況になって、もうああいった無理を続けることはしないだろうなぁと思ったんだよ」
エナジードリンクを飲んで、体力の前借りを続けていた日々や人たちを思って、わたしはじっと考えた。
世界がこういう状況になって、いつかは分からないけれど、事態が終息した時。
以前の生活に戻ろうとするのか、しないのか。
一人一人に選ぶ権利があって。
そのどちらも正解なんだとわたしは思う。
毎週のように楽曲がリリースされ、映画が上映され、コレクションが発表される。
賑やかで、それはそれで良い時代なのかもしれないけれど。
本当は、次から次に新しいものが生まれ、生まれた瞬間に古くなってしまうサイクルにみんな疲れてもいた気がする。
目の前のことは身体に任せて、頭では明日のことを考えているのは、本当に生きている、と言えるのだろうか。
今、「ここ」を大事にできる自分でありたいなと思う。
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家入 レオ
16thシングル『未完成』(フジテレビ系月9ドラマ『絶対零度〜未然犯罪潜入捜査〜』主題歌)のginzamagでのインタビュー:
家入レオ、愛と憎しみの区別がつかなくなった「未完成」。
leo-ieiri.com
@leoieiri