生きていく苦悩も初めて描いた
聖子POPの金字塔

1983年10月28日発売。ダイアモンドのアはヤではなく「長調的な響きが聖子っぽい」と若松さんがあえて「ア」に。B面『蒼いフォトグラフ』はテレビドラマ『青が散る』の主題歌。「B面だけ集めてベストアルバムを出せたのは、それくらいどの曲もクオリティが高かったから」。
M 『蒼いフォトグラフ』はシングル『瞳はダイアモンド』のB面ですが、今もファンに人気が高い曲です。
W いい歌ですよね。私も大好きです。テレビの主題歌で、宮本輝さんの青春小説を映像化したドラマでね。
M 歌詞に「みんな重い見えない荷物、肩の上に」という言葉が登場し、聖子さんの歌に若さの苦悩が描かれて歌単独でも映画のようなストーリー性を感じました。
W でしたね。詞も曲もアレンジも実にいい。歌の主人公が少しずつ成長していく感じも。
M 『瞳はダイアモンド』はシングル初の失恋ソングでした。♪愛してたって言わないで〜という部分は、Aメロの一部なんですよね。
W 松任谷正隆さんとユーミンならではの展開ですよね。なかなかないよね。
M サビのしゃくる部分はもしかしたら、それを見越して作られたのかと思うほど構成にピタリとハマっています。
W いやいや。聖子も直感人間だからそんなに考えたり分析しながら歌ってはいないんですよ。もちろん歌詞カードに自分だけにわかるメモはしていましたが、あれは計算じゃなく、もっと本能的。ポップスは計算や分析してちゃダメ。娯楽だから感覚が何より大事だから。私は「あさはか」という言葉が大好きでね。
M あさはか!??!?
W そう。本当にあさはかな考えで何でもやってちゃダメだけど。直感を大事に、面白いほう、楽しいほう、気持ちいいほうを選ぶ。すると、だいたいなんでもうまくいくんです。深く考えてちゃダメ。
M 直感が大切なんですね!ブルース・リーも「Don’t think,Feel」と言ってましたからね。では図々しくあさはかな質問を思い切って。このアルバムは聖子さんの作品の中でも一番シティポップ的なクールさがあり、もしかしてその先に山下達郎さんとの組み合わせもあったんじゃないかと思ってしまうのですが。
W 達郎さんも優れた方ですからね。でも私がいつもアーティストの方に細かい曲の調整をお願いしていたので、申し訳ない気がしてオファーできなかったのが本音です。例えば大滝詠一さんも直してくださらなかったけど、松本隆さんとはっぴいえんどをやっていた信頼関係があったから思い切って任せられた。ユーミンも細野晴臣さんも財津和夫さんも、みなさん私が納得がいくまで直してくださいましたから。
M では竹内まりやさんにオファーするというアイデアは?
W 既にユーミンにお願いしていたので、まりやさんにも頼むと、どちらにも申し訳がたたなくなりますから。
M なるほどです。聖子さんが作曲した『Canary』も素敵です。
W これは私が歌手としての幅が広がるから、鼻歌でも譜面でもいいから作曲してみたら?と言って。タイトルは私が付けてアルバムタイトルにもしました。
M その後、聖子さん作曲で『時間旅行』などの名曲も生まれました。
W でもね。誰でもプロデュースまで全部一人でやるのは大変です。一人だと自分が好きなメロディや歌いやすい曲調に流れて客観性がどんどんなくなる。その結果、聞き手はワンパターンに飽きて離れていく。これは何でもそう。会社もあえて少し苦手な部署に行くとその人が輝いたりするでしょう。いい上司や同僚がいて初めて自分の能力が発揮できますから。ソロアーティストも、実はアレンジャーやプロデューサーなど厳しいパートナーがいますからね。
M 確かにマドンナもユーミンも、プロデューサーの存在があって輝き続けています。ビートルズでさえフィル・スペクターと組んで世界が広がりましたよね。最後に、このジャケットはカナリアを意識していますか?
W (笑)してないよー。カメラマンにはもしかしたら意図があったのかな。
M 少しだけ見える服がカラフルでリップも唇より小さく塗ってあり、そこはかとない小鳥感があります。
W 確かに。でも私が位置を決めてトリミングしちゃってるから。
M この写真は表裏同じですか?
W いや違います。裏には微妙な憂いがある、瞳の奥にね。何百カットからこれだと思う1枚を私が選んでますから。
W そうなんですね! 憂いかぁ…それがアルバムの内容とちゃんとリンクしていますね。今日ウチに帰ってじっくり確認してみます。今回もありがとうございました。次回は燃えるような赤いジャケットの『Tinker Bell』について。お楽しみに。
