CMで大ヒットしても
全く色褪せないエタニティが。

『Rock’n Rouge』1984年2月1日発売。カネボウ化粧品「レディ80BIO リップスティック」のイメージソングとしてオンエアー。シンセサイザーを駆使したポップなサウンドが春っぽさをさらに盛り上げた。B面の『ボン・ボヤージュ』も作詞・松本隆、作曲・呉田軽穂。初めての二人旅がテーマで、山間の線路にたとえた恋の描写にファンはシンクロ率100%超え。女子人気をさらに後押しした。
M 『Rock’n Rouge』は詞の調整が大変だったと聞いたことがあります。歌詞違いの途中バージョンが存在するという噂も。
W あの頃、化粧品CMの注目度はハンパなくて、コマーシャルソングに賭ける業界の気迫がすごかった。広告代理店の方もワンフレーズ、ワンフレーズにナーバスになって、確かに何度も調整しました。東銀座の試写室で映像と音楽を合わせたテストパターンを繰り返しチェックした記憶があります。タイトルは、広告代理店の方から「ルージュ」というキーワードをリクエストされて松本隆さんに相談したところ、「じゃあ若松さん、ロックン・ルージュはどう?」と。
M おしゃれですっ! しかし聖子さんはそれまで資生堂のCMが多かったのに、急にカネボウに変わったのは驚きました。
W そこは事務所の采配だと思いますが、サンミュージックはみなさん優しくていい方たちばかりなので、あの頃いろんなオファーがあって本当に断り切れなかったんだと思いますよ。それで契約期間が切れると次に。
M この曲はメロディの上下がすごくて。でも大ヒットして1984年のシングル年間売り上げでも上位。
W 確かに低いところから入って最後に一気に高くなるけど、ちょっと本人が歌いづらいくらいのほうが売れることも多いんです。音域の指定はあるけど、それよりあえて低かったり高かったりすると、不思議といい色合いが出る。このシングルはB面の『ボン・ボヤージュ』も人気が高くて、聖子も歌いっぷりがいい。聖子は全体のテイストを一瞬で掴んで表現力が爆発するのでね。歌詞の細かい部分まで読み込むというよりは、もっと直感的な感じ。アルバム最後の『Sleeping Beauty』もしっとりした世界がいいですね。
M 『ボン・ボヤージュ』は、「アリバイ」とか「ママ」という言葉もハマっていておしゃれでした。
W 細かい部分まで感情移入するわけではなく、あえて淡々と歌う部分もあったり、その距離感が聖子の才能。完全に同化しちゃうとフレッシュさが無くなりますから。
M なるほどー。先ほど出た南佳孝さんも2曲『ガラス靴の魔女』『不思議な少年』を提供されています。
W 佳孝は松本さんと組んでヒットを連発していましたよね。ジャジーなメロディがアルバムでも生きていますね。
M やはりソニー同士のほうが、オファーしやすかったんですか?
W いやいや、そんなことはない。所属レーベルや事務所は関係ないですよ。私がお願いしたいと思った方にオファーしていただけなんです。
M 今の時代アルバム全体の流れで聴くことも減りましたよね。聖子さんのアルバムはぜひ1枚通して聴いてほしいです。
W 本当にそうですね。曲順も全て私が決めていました。流れで心地いい展開になるようにね。シングルを先に持ってきたほうがいいという声もありましたが、シングルこそ後半にして新鮮な曲を頭にしていました。『Tinker Bell』について、どうして9曲だったのかとよく聞かれるんですが、並べたらこの流れが自然だったんです。当時はほとんどのアルバムがA面B面各5曲の10曲でしたが、聖子が忙しくて録音できなかったわけでも、何かをボツにしたわけでもないんです。
M そうなんですね。あと『いそしぎの島』の作曲で尾崎亜美さんが初めて起用されています。
W 亜美ちゃんはマネージャーから売り込みがあって。このときの出会いが半年後の『天使のウィンク』につながっていくわけですが、『天使のウィンク』はあまり時間がなくてね、「引っ越しの準備してますけど、いいですか?」と言われて、ダンボールだらけのお部屋で打ち合わせしたのをよく覚えてます(笑)。亜美ちゃんが思うそのときの聖子の印象を話してもらってね。
M 『天使のウィンク』はワクワクする曲なので、それこそ引っ越しや掃除のときにも聴いちゃいますね。
W ありがとうございます。亜美ちゃんらしい元気が出る作品ですからね。