2月のエンタメをレビュー!GINZA編集部がレコメンドする新刊をご紹介。
G’s BOOK REVIEW 岸本佐知子が心を奪われた、文字のない、美しい絵本『旅する小舟』etc.

『皆のあらばしり』
乗代雄介
(新潮社/¥1,650)
高校の歴史研究部に籍を置く《ぼく》は、地元の城址でひとりの男に出会う。歴史、古文書、植物や鉱物にまで異様に詳しい関西弁の男は信頼に足る人物なのか? 何が目的なのか? そもそも誰なのか? 毎月の素数の木曜日午後4時に待ち合わせをすることになった二人は、ある種の共犯関係のもと、歴史の一端を手繰り、書かれたものを探り、謎多き現在と未来について視線と言葉をたびたび交わす。学び、読み、書くことの面白さを重層的に描き出す中篇小説。
『夜の声』
スティーヴン・ミルハウザー
(柴田元幸訳/白水社/¥2,750)
グリム童話に登場する姫と王子、魔女それぞれの心にズームにして胸の高鳴りや表情の陰りなどを描く「ラプンツェル」。旧約聖書に材をとりながら少年と老作家の声に耳を傾け、夜の願いに迫っていく表題作。街の建造物や人々の身体を彩る流行の変化を活写して、消費社会のもうひとつの顔を見せてくれるような「近日開店」に「マーメイド・フィーバー」。幻想が、言葉によって緻密に組み立てられ姿を露にする8つの短篇を収める。
『旅する小舟』
ペーター・ヴァン・デン・エンデ
(求龍堂/¥3,080)
二人がかりで折られた紙製の小舟が太平洋を南下してゆく。鳥、亀、魚、珊瑚に海藻、半魚人、ヒレをパタつかせる陸上生物のような奇妙な生き物たちに囲まれ、遺構や潜水艦にぶち当たり、海底に、オーロラに、眩い夜空にもでくわす冒険活劇。陸と海と空、有機と無機の境界を遠くおしやりながら、黒いペンの線が面を生み、闇を広げ、世界が奥行きを増していくのを見つめる。翻訳家の岸本佐知子が心を奪われ日本に紹介した、文字のない、美しい絵本。
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Recommender: 鳥澤 光
ライター、編集者。祝!!川賞ノミネート!乗代雄介『掠れうる星たちの実験』刊行も楽しみです。