3月のエンタメをレビュー!GINZA編集部がレコメンドする新刊をご紹介。
G’s BOOK REVIEW 励ましの達人が綴るフレーズに勇気づけられる『ひとまず上出来』etc.

『ひとまず上出来』
ジェーン・スー
(文藝春秋/¥1,595)
筋トレ、笑顔、はたまたトイレットペーパーから見えてくる自意識の姿形を、励ましの達人が絶妙な言葉選びで綴るエッセイ集。「すべてを笑い飛ばす必要はないけれど、すべてをトラウマにしてしまう必然もない」「頑張れないことは、頑張れることと同じで特性みたいなもの」「ジャストフィットは常に変化していく」等々のフレーズに勇気づけられ、頼もしい先輩を得たような気持ちになれる。読者の呼吸をつかむ文章のテンポの良さは流石。
『教育』
遠野 遥
(河出書房新社/¥1,760)
カードの裏面を当てるテストで進級や落第が決まる全寮制の高校。成績を上げるために1日3回は「オーガズムに達すること」が推奨され、監視下に置かれている生徒たちはセックスや自慰に追われている。性交の相手に別れを告げられた勇人は、さほど傷つくこともなく生真面目に鍛錬に励むが─有機体である体に宿る、システム制御されているかのような心。その対比が可笑しくも恐ろしい。本筋とは一見無関係に挿入される物語も濃厚。
『シソンから、』
チョン・セラン
(斎藤真理子訳/亜紀書房/¥1,980)
切実さをユーモアに溶け込ませることに長けた著者の最新長編。果敢に波乱万丈の人生を生きたアーティスト、シム・シソン。彼女がこの世を去って十年、シソンの子どもやその配偶者、孫たちは「一度きりの特別な法事」をするために、ゆかりの地、ハワイに集まる。思い思いに「陽」の弔いをする一族たちが見つけたものは─人にまつわる思い出は人を支え、折々に救うという事実が読み手の胸に温かく広がる。
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Recommender: 北村浩子
フリーアナウンサー、ライター。FMヨコハマ「books A to Z」のパーソナリティを14年間担当。