ディーン・フジオカや岸井ゆきの、ユースケ・サンタマリアらが最新科学で事件を解き明かす『パンドラの果実 ~科学犯罪捜査ファイル~』(日本テレビ系)が6月11日放送の第8話から最終章に突入する。不老不死や蘇生を扱うドラマの奇妙な魅力をライター、むらたえりかが考察する。(レビューはネタバレを含みます)
攻めてるドラマ『パンドラの果実』考察。ディーン・フジオカと岸井ゆきの、超えてはいけない一線
「不老不死」と「死者の蘇生」
ディーン・フジオカと岸井ゆきの。2018年放送のドラマ『モンテ・クリスト伯-華麗なる復讐-』(フジテレビ系)では復讐者とその仇の娘の関係だった2人が、『パンドラの果実』ではバディとして科学を武器に事件を解決していく。
ディーンが演じる「知力」の警察官僚・小比類巻祐一、岸井が演じる「ひらめき」の天才科学者・最上友紀子。そして、彼らの現場経験の少なさをカバーする「体力」としてのたたき上げ系捜査官・長谷部勉をユースケ・サンタマリアが演じ、常識にとらわれては解決できない奇妙な事件に、彼ら「科学犯罪対策室」が挑む。
ロボットによる殺人、脳に埋め込むマイクロチップの発火、生き返った遺体、VRゲームが引き起こす自殺、ウイルスによる急激な老化、幽霊の存在証明、ナノマシンによる殺人。6月4日に放送された第7話までに、小比類巻たちは様々な事件を「科学」で解明してきた。そして、最新の科学技術に関連するそれらの事件はすべて「人間の不老不死」や「死んだ人間の蘇生」のヒントとなるものだった。
小比類巻は、亡くなった妻・亜美(本仮屋ユイカ)を冷凍保存している。科学技術と医療が発達し死人の蘇生が可能になったとき、彼女を生き返らせようと考えているのだ。事件を解き明かしながらも、その引き金となった技術が叶える「永遠の命」や「遺体の蘇生」に惹かれていく小比類巻。彼とは反対に「科学には、超えちゃいけない一線がある」といさめる最上。科学の進歩による希望の光と倫理とのせめぎ合いが描かれる。
ディーン・フジオカと岸井ゆきののせめぎ合い
今年の1月から放送されていたドラマ『恋せぬふたり』(NHK)では、アロマンティック・アセクシャルという性的マイノリティの女性を演じていた岸井。あっけらかんとした明るいキャラクターでありながら孤独や深い悩みを抱えた役柄は、今回の最上と似ているように思う。
最上は、過去に不老不死を現実のものとできる可能性を秘めた未知のウイルス「プロメテウス・ウイルス」を発見、研究していた。しかし、不老不死の代償として、その生物は膨大なエネルギーを必要とする。ウイルスを投与された実験動物は、同じ種の動物を共食いしてしまった。不老不死は、開けてはいけない「パンドラの箱」だった。そう確信した最上は、科学者を辞めた。
そんな過去を持っていると感じさせないほど、最上は誰にでも遠慮なく気取らず接する。10歳以上年上の小比類巻には「こっひー」、長谷部には「はせどん」と勝手にニックネームをつけ、小比類巻の娘・星来(鈴木凛子)や義母の聡子(石野真子)ともすぐに打ち解ける。ドラマ『モンテ・クリスト伯』や『シャーロック アントールドストーリーズ』(2019年、フジテレビ系)などで、掴みどころがなく他者を振り回すような役柄が続いたディーン・フジオカ。小比類巻もまた冷静な人物に見えるが、岸井演じる最上の天真爛漫さにあっけに取られたり調子を乱されたりしてしまう。その様子は、人間の生死を扱う深刻なドラマの中で息のつけるポイントになっている。
また、現在公開中の映画『鋼の錬金術師 完結編 復讐者スカー/最後の錬成』では、ディーン・フジオカは主要キャラクターのひとり、ロイ・マスタングを演じている。『鋼の錬金術師』シリーズもまた、死んだ人間の蘇生(錬成)や永遠の命の是非を問う作品だ。もし、亡くなった大切な人に会える術や、どんなに傷付いても死なない身体があったら。そんな仮定について考える上で、ディーン・フジオカの出演するこのドラマと『鋼の錬金術師』を見比べても面白い。
食べてはいけない禁断の果実
「ウイルスは人間とともに進化している」
第5話で、ウイルスを怖がる長谷部に、最上はこう言った。科学に関する知見の少ない長谷部は、コロナウイルスの広がりで「ウイルス」に漠然とした恐怖を感じるわたしたちの代弁者のようだ。しかし、本来ウイルスは人間の身の回りや体内に多数存在し、身体に必要なウイルスもあれば、病気を引き起こすようなウイルスもあると解説する最上の言葉にハッとする。
「ロボットの殺人をどう裁くのか」
「不老不死でも、弱い者は生き残ることができない」
「あなたはどこで生きているの」
科学が進歩して、もはや最新の技術にはついていけない人もいる。VR空間や人体に関する科学実験の進歩があり、それに関する倫理の判断に法律も追いついていないという現状がある。そんな時代の中で『パンドラの果実』は、小比類巻と最上それぞれの切実さと、長谷部の素直さを持って、見る者ひとりひとりに考えるきっかけとヒントを与えるドラマとなっている。
キービジュアルやドラマのオープニングに登場する「果実」はリンゴである。旧約聖書でアダムとイブが食べた「知恵の実」は、絵画などではリンゴの形で描かれることが多い。開けてはいけないパンドラの箱、食べてはいけない禁断の果実。それでも人間は、希望と知恵を求めて箱を開け、果実を食べてしまう。この二重の罪を小比類巻たちがどのように背負っていくのか、第8話以降の最終章で描かれていくことだろう。
そして、6月25日からは動画配信サイトHuluにて、新キャストを迎えてのシーズン2の配信が決まっている。最終章、そしてシーズン2と、深く掘り下げられていくであろう科学の罪と倫理。登場人物たちはもちろん、脚本を担当する福田哲平、関 久代、土城温美ら、監督の羽住英一郎の解釈と彼らが出す結論を楽しみに待っている。
日本テレビ×Hulu共同制作ドラマ『パンドラの果実 ~科学犯罪捜査ファイル~』公式サイト
脚本:福田哲平、関 久代、土城温美
監督:羽住英一郎
出演:ディーン・フジオカ、岸井ゆきの、佐藤隆太、西村和彦、本仮屋ユイカ、安藤政信、板尾創路、石野真子、ユースケ・サンタマリア
原作:中村啓『SCIS 科学犯罪捜査班 天才科学者・最上友紀子の挑戦』 (光文社文庫)
主題歌:DEAN FUJIOKA 『Apple』
音楽:菅野祐悟
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Writer むらたえりか
ライター。国内・韓国ドラマやアイドル写真集のレビュー、インタビュー記事などを執筆。宮城県出身。
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Illustrator pon3
イラストレーター・デザイナー。物語を大切に、印象に残るイラストを目指してます。日々の疲れはサウナが癒し。
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