オスカルのように、信念をもって挑戦し、かっこよく生きるには?25歳でベルばらを描き上げ、現在は声楽家としても活躍する、レジェンド・池田理代子先生に話を聞いた。
『ベルサイユのばら』著者池田理代子先生が明かす、ベルばらな日々の秘訣とは?

──ベルばらではオスカルは軍人でしたが、今の時代に生きていたら、どうなっていると思いますか?
「雄々しく部下を率いるリーダーとして仕事で活躍して、部下に慕われているんじゃないかな。政治家は…今の日本の政界だとどうでしょうね。イギリスのサッチャー元首相やメイ首相はかっこよくて、ああいう形はあるかもしれないけれど」
──部下を率いるオスカルは目に浮かびますね。パンツスタイルで颯爽と。最近ファッションはどんどんジェンダーレスになっています。
「フェミニンなファッションを求められる時代はベルばらの頃に通り過ぎたと思っています。〝脱ロザリー〟してオスカルのように生きていいのだと、思っていただけたんじゃないかと。だからジェンダーレスでいいし、自分が着たくて、似合っていればどんな服装でもいい。女性が社会で働く本物の人間として進化している証拠だと思います。〝女性的〟であることにとらわれず、男とか女とか関係なく、自分の信念にしたがって働けるようになった。男性がスキンケアやネイルを気にするという傾向もいいと思いますよ」
──池田先生は漫画家として活躍されているだけでなく、40代から声楽の道に入り、豊かな人生を送っていらっしゃいます。心豊かに生きるためにはどうしたらいいでしょうか。
「たとえ同じことをしていても、心が満たされる人もいれば、たえず何かを渇望する人もいますし、とにかく自分が打ち込める好きなことを仕事にできればいいと思います。途中苦しいときの息抜きは必要だとしても、好きなものにチャレンジするのはいいことだし、それはひとつでなくてもいいと思います。はじめは何が好きなのかわからなくても、自分で見つけるしかない。偶然ポスターを見てバイオリンを始めてみたり、思いつきでバレエの体験教室に行ったらのめり込んだり」
──何かを始めるのに遅すぎることはない、ともいいますよね。
「とはいえフィジカルな年齢制限はあるから、その言葉を過信せず、気になることには早めに挑戦したほうがいいと思います。お友達に、定年の10年前からお金を準備して、スケッチ旅行に行って描き続けている人がいて。『絵は売れないけど心は豊か』と言っていました。豊かさの基準を自分で持つことは大事ですね」
──豊かな人生の要素のひとつに恋愛もあるかと思いますが、アンドレのようないいパートナーと出会うにはどうしたらいいですか?
「恋愛はご縁ですからねぇ…すぐにどうこうしようと考えず、自分を偽らずに一生懸命生きていれば必ず良い人に巡り会えると思いますよ」
──ベルばらに出合ったおかげで人生が充実した、という人は少なくないと思います。
「先日ロシアで講演をしたんですが、ロシアではまだベルばらが翻訳されていないのに、ファンがたくさんいて。しかも男性も多くて驚きました。歴史や創作についての鋭い質問もあって、〝たかが漫画〟ではなく、文化の一環としてとらえてくれていることがわかりました。初めて海外に呼ばれたのはイタリアの文学祭だったんですが、前年はノーベル文学賞の受賞者だったから、なぜ私なのか聞いたら、『中堅の作家でベルばらの影響を受けていない人はいない』と。フランスでは元大統領オランド氏に随行していた方が『僕はフランス革命をベルばらで勉強した』と言っていたし、現フランス大統領マクロン氏がベルサイユ宮殿での晩餐会に皇太子様をお迎えした時もベルばらの話をしていました。ベルばらの舞台の近くにいる人々にとって、日本の作家がフランスについての大作を描いたということの衝撃も大きかったようです」
──それに比べると、日本では漫画が文化として扱われづらいところがありましたよね。
「海外で受けたものがやっと認知される。画家の池田満寿夫さんにしても若冲にしても、逆輸入ですよね。そうなってしまうのは、自分たちの価値基準や評価基準を持っていないから。それを持つためには、良いものにたくさん触れることが大事だと思います」
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池田理代子
1947年生まれ。漫画家、声楽家。東京教育大学(現・筑波大学)哲学科在学中から漫画を描き始め、24歳から25歳まで『ベルサイユのばら』を連載。99年に東京音楽大学声楽科を卒業後、ソプラノ歌手として活動。オペラの演出も手がける。2009年、日本においてフランスの歴史や文化を広めた功績に対し、フランス政府よりレジョン・ドヌール勲章を贈られた。
漫画: Riyoko Ikeda Photo: Kenta Tsunashima Styling: Naho Nakako Edit: Sayuri Kobayashi