高級クラブから喫茶店まで、遊び場はたくさんある。男たちにとっての銀座とは、どのような街であるのか。銀座を知り、街を愛する5名に語ってもらった。
銀座を知り、街を愛する。音楽家、谷村新司さんが語る「憧れの大人たちがいる銀座に “粋”を教えてもらった」

谷村新司
Shinji Tanimura
音楽家
1948年生まれ。アリスとして数々のヒット曲を生み出し、ソロとしても「昴」「いい日旅立ち」「サライ」などの曲を世に送り出す。3枚組の45周年記念アルバム『STANDARD 〜呼吸(いき)〜』が発売中。5月13日から全国ツアーも開催。www.tanimura.com

60歳になったら銀座に住もうと、かみさんと決めていたんです。銀座をマイタウンのように普段着で歩きたいね、って。銀座が持つ空気感、他のどの街とも違う大人たちがいる心地良さに憧れがありました。それで、7年前に銀座に引っ越して3年間。事務所も4丁目のそばの三原小路に移しました。僕はいつも地下鉄に乗るので、銀座はとても便利でしたよ。買い物をする店もたくさんあるし、食べ物もデパ地下でそろうし。銀座って表向きは生活感があまりしないと思いますが、裏路地に入ると、そういう一面も結構あるんです。それを見つけるのが大好きで、住んでいた頃にほとんどの裏路地は歩き尽くしました。表通りから2本くらい裏の外れにひっそりといい店があるんですよね。そうやってリラックスして銀座で過ごすことができました。
僕はもともと大阪育ちで、谷村のなかでの三都物語に、住むのは大阪、お遊びは京都のお座敷、デートなら神戸というのがありました。20歳を過ぎてから東京に出てきましたが、東京はそのどことも似ていなくて、ものすごく新鮮に映りました。特に、銀座にいる人たちは着る服も違うから、彼らのファッションを眺めるだけでも楽しかった。おしゃれな大人のカップルを見て、自分も大人になったら銀座をあんな感じで当たり前のように歩きたいなと憧れを抱いたものです。
当時の銀座は、僕には少し格式が高い印象でしたけど「山野楽器」へ行ったりね。山野さんは先代からのお付き合いで、日本の音楽文化をきちんと考えて発信している人。さすが銀座のお店だなと思わせる大人の心意気がある。「和光」もそう。自分たちよりキャリアも経験もある人に、若い自分が目一杯背伸びして何か贈りたいと思った時に「和光」に探しに行こうと思う。そういう気持ちを包み紙が語ってくれるんですね。僕は基本飲まないのですが、〈ニッカ〉の竹鶴政孝さんのお供をして銀座のクラブを回ったこともありました。次から次へ6軒くらい店を移動するから、1軒に10分くらいしかいない。そんな遊び方をしたのは初めてでしたが、自分のウイスキーを置いてくれている店に、普通に客として一杯飲みに行って、ありがとうを言って帰るんですよね。その素振りに、格好いい素敵な大人っているんだなと思いましたね。野暮で品のないのは嫌だなと。銀座でそういう粋も教えてもらいました。
今も週に1度くらいは、刺激を求めに銀座へ行きます。当時はビシッと言われそうな大人がいて身が引き締まったけれど、最近は銀座らしい雰囲気があって堅苦しくない喫茶店で過ごすのが好きです。「茜屋珈琲店」のマスターの話を聞いたり、「どんパ」で本を読んだり、「銀座みゆき館」でクロックムッシュとココアを頼んだり。この歳でようやく自分も、銀座を歩いていて不自然ではなくなったのかなと思いますね。
銀座みゆき館 銀座本店
銀座に5軒ある喫茶店。本店は2015年にケーキショップを併設してリニューアル。
中央区銀座6-5-17 みゆき館ビル1F
☎03-3574-7562
🈺9:00(土10:00)〜23:30、日祝10:00〜23:00
㉁無休