東京に数多くある古今の建築名所を紹介するこの連載。今回は、日本一というほどに華やかな、数寄屋橋交差点そばに建つ、ハイブランドのメゾンのお話。
風景を刷新した銀座メゾンエルメスのすごみ:東京ケンチク物語vol.2

Ginza Maison Hermès
〝ビッグシティ〟東京ならではのおすすめの景色を挙げるとしたらどこだろう? 東京タワーからの眺め、夜の歌舞伎町、オリンピック新会場の建設現場なんてのも面白いかもしれない。そのリストに今、ぜひ入れたいのが銀座・数寄屋橋の交差点。もともと銀座らしい華やかさのあったこの交差点の風景が、一角が銀座ソニーパークという公園になり、とある建築が交差点からもよく見えるようになって、さらに特徴的なものになったのだ。その建築とは「銀座メゾンエルメス」。11階建て、高さ約45mの建物を、1万3000個(!)のガラスブロックでくるんだような外観が圧倒的な作品だ。
完成は2001年。設計は、現代建築界の巨匠の一人であるイタリア人建築家レンゾ・ピアノ(1937年〜)が手がけた。ピアノにとって、この「銀座メゾンエルメス」は、やはりド級の存在感をもつパリの「ポンピドゥーセンター」などと並ぶ代表作のひとつといっていい。ピアノは設計当初から、都市を照らす〝提灯(ランタン)〟のイメージをこの建物に託したという。外観を半透明のガラスブロックに覆われた建物は、昼間は太陽の光を受けて薄青色にきらめき、夜になると内部からの光が漏れだして、建物全体が優しいオレンジ色に光る。銀座というきらびやかな街全体を照らす、これは確かに、とびきり大きく美しいランタンだ。基本は45センチ角のこのガラスブロックは、イタリアの工房で特注して運んだもの。地震に耐えるよう構造には独自の工夫が凝らされていて、単に積み上げられているように見えるガラスブロックは、実は上からつり下げるようなかたちで支えられている。大きな揺れにはそれぞれのブロックがほんのわずかな幅で揺れ動き、揺れを逃すという仕組みだ。
揺らいだような表情のあるガラスブロックを作ったのも、それを複雑な構造を実現しながら精緻に組み上げたのも熟練の職人の技。さらに、180年以上の歴史を誇るエルメスの製品をつくりだすのもまた職人の手仕事だ。超華やかで超現代的な建物に見えて昔ながらの手仕事の妙に支えられているというのが、この建物の本当のすごみだ。職人技の結晶のような崇高な美しさを交差点から眺めてみてほしい。