表参道「GYRE」のワンフロア全体を使った話題のレストラン「ジャイル フード」は、大人気の日本人建築家の新作。原始と未来が入り混じるような空間で、自由に食を楽しめます。
原始の記憶へ誘うレストラン「ジャイル フード」:東京ケンチク物語vol.11

GYRE.FOOD

表参道沿い、キャットストリートの入り口に、2007年に誕生した商業施設「GYRE」。オランダの建築ユニットMVRDVの設計による建物は、5つの平らな箱を回転しながら積み上げたような形だ。見た目のインパクトが抜群な一方で、回転によって生まれる隙間がテラスや階段になっていて、室内にいてもテラスや窓越しに周囲の街並みが目に入る居心地のよさもある……。つまりはスター建築家ならではの手腕が発揮された空間で、オープン当初は建築界隈でも大きな注目を集めた。それから10年以上が経った今、この建物がまた話題の的になっている。それが4階にオープンした「ジャイル フード」。1000㎡のフロアを丸々使って、フレンチ、カジュアルダイニング、バー、グローサリーショップを展開するこちら、躍進めざましい若手の日本人建築家・田根剛がインテリアを手がけているのだ。
20代で「エストニア国立博物館」の国際コンペを勝ち抜いてデビューを飾り、現在はパリを拠点に活動する田根。世界での活躍を逆輸入するようなかたちで、日本でも作品が続く。田根は、敷地の歴史や特性を綿密に掘り起こし、土地に根ざした作品をつくり上げる手腕で知られるのだが、ではそれが「表参道」の「商業ビル」なら、どんな空間になるのだろう?キーワードだけを見るとさぞ都会的な感じ……?なんて思っていたら、かなり予想を裏切られる。エスカレーターで上ると広がるのは、循環をテーマに床や壁に焦げ茶色の土が塗り込められた中に、緑の植物がわさわさと生い繁る空間。思い出すのはむしろ原始の洞窟だ。広々とした中は、植物の連なりや、無垢木を寄せた木の切り株のような椅子、天井からつられた有機的な形の木製棚などで緩やかに区切られていて、訪れた人は、目的に合わせて自分の居心地のいい場所を見つけることができる。なかでも、バーカウンターの前に広がる、木で組み上げたピラミッドは圧巻だ。段差を椅子にしたりテーブルにしたり、こんなに自由な使い方のできる飲食店は、見たこともないはず。遠い遠い未来、都会がこんなふうに緑と土に覆われて、自由に動き回れる場所になったらいいのに!原始の記憶が未来の食文化を創るニュープレイスなのだ。