「自分をごまかさないで、正直に生きたい」家入さん自身が今感じる心の内面を丁寧にすくった連載エッセイ。前回は、vol.112 水蜜桃と夏。
家入レオ「言葉は目に見えないファッション」vol.113
宇宙の塵
vol.113 宇宙の塵
1年は12ヶ月で、12ヶ月は1年。
空に浮かぶ月が満ち欠けを約12回繰り返すと地球の1年は終わる。
冬は1番好きな季節で、12月は1番好きな月。
華やかさや煌めきの奥に感じる寂しさや物哀しさが私を安心させる。
苦楽を共にした人たちと「無事に今年を走り終えたね」と、明日のことなんてなーんにも気にせず、飲んだり食べたり喋ったり、豪快に!心がシクシク泣いた日もあったっけ。無理もないねって傷口を猫みたいに舐めて治して。あの日鉄の味が広がった舌で今迎える黄金の卵を潜らせたすき焼きの牛。泣き笑いみたいな、ありがとう。みんなのほっぺが薄っすらピンク色。「ビールまだ飲む?」と賑やかな部屋から立ち上がりキッチンへ。
暗がりの中、冷蔵庫の扉を開けるとオレンジ色の光の中に〆のうどん麺が人数分。その光景が平和でありふれていて私はしばらく言葉を失う。パタンと冷蔵庫の扉を閉めたら、私の世界まで閉じそうな気持ち。窓の外には北風がビュービュー吹いて。小さい頃仲良しだったあの子は結露したガラスに指で絵を描くのが好きだったよねって急なノスタルジー。今がずっと続いて欲しい。こんな風に毎日を生きられたら良いのにって願ったと同時に、毎日じゃないから今日がこんなに楽しくて特別なんだ、と随分物分かりの良い大人になってしまったなと苦笑い。そして私は、永遠じゃないものにしか、永遠を願えない自分を知っている。いつか終わってしまうから大切にできる。形を変えるから、この目に、体に、心に、全てを焼き付けようと必死になれる。なんて思いながら、手に持った缶ビールがぬるくなってしまうではないか、と賑やかなあの部屋に急ぐ。椅子に座り、今夜は何度でも乾杯する。小気味良いグラスの音。キッチンで頭に巡ったこと全部、宇宙の隅でもう既に塵になってる。手酌の会なんて言われても、私は大好きな人たちに今夜はお酒を注ぐ。
2024年をそんな風に終えられていたらいいな。2025年は30歳の年。何度でも生まれ変わる。
Text_Leo Ieiri Illustration_chii yasui