東京の街を舞台に、人が恋に落ちる瞬間をスクラップしたショートストーリー。
江本祐介が東京の恋を描く『QUIET TOWN OF TOKYO Vol.9』――女友達と深夜ドライブ
深夜1時、なぜか僕は助手席に女友達を乗せて246号線を走っていた。ナビを見るともうすぐ多摩川を越えるぐらいだった。横では楽しそうに東京の夜景をiPhoneに収めている。一体なんでこんなことになったのか……。
早めに仕事が終わり、家でぼーっとテレビを観ていると女友達のTから電話があった。久々の連絡だなと思い電話に出てみると「今から車で迎えに来て」と急な注文だけ告げてすぐに電話は切れた。そのあとすぐにLINEで「荻窪のロータリーんとこにいるからよろしく」とだけ送られてきた。まぁ別に明日休みだしいいかと思い上着を取り家を出た。
吉祥寺の家から荻窪までは夜中なのもあって15分もかからずに着いた。ロータリー沿いをゆっくり走っているとすぐにTの姿を見つけた。
「お、思ってたより早かったねー。はいこれSにお土産ね」
お茶をコンビニ袋から取り出して僕に手渡し、助手席に乗り込むTは明らかに酔っ払っていた。
「まだギリ終電あるでしょ?何?家まで送ればいいの?」
「んーっと、とりあえずどっか適当にドライブしよ」
「は?まぁいいけどさ。明日仕事は?」
「休み。ひとまずさ外苑前のイチョウ並木んとこ行こう!車で行ってみたかったんだよね」
ナビの目的地に外苑前駅と入れると荻窪駅前のロータリーを出て青梅街道を新宿方面へ向かった。TはカバンからiPhoneを取り出してカーステに繋ぎ音楽を流し始めた。
「この車久々に乗ったけどやっぱ狭いね」
「うるせー。っつーかこんな時間までなにしてたのよ?」
「彼氏と会ってたんだけどフラれちゃった」
「え?まじで?あんな仲よかったのに」
「ちょっと!ちょっと待って!あれ何!?」
スーツ姿の男女がぴょんぴょん飛び跳ねながら道路に出てヒッチハイクしているのが見えた。
「手にビール持ってたし、もうただの酔っ払いだろ」
「こんな時間に何やってんだー。我々は車があってよかったねー」
「お前が呼んだんだろ!」
あっという間に高円寺辺りまで来てナビの言う通りに環七を右折した。
「昔ここら辺のライブハウスにSのバンドのライブ見に来なかったっけ?」
「学生ん時な。懐かしいなー。あいつらみんな元気してるかな?」
「ギターの人こないだ飲み会で会ったよ!金髪のイメージしかなかったから最初誰かと思った!もうみんなすっかりサラリーマンになっちゃってねー」
「あの時はスーツなんか着て働くなんて考えもしなかったな。とはいえバンドで食ってけるとも思ってなかったけど。でもまぁ楽しかったな」
学生時代の思い出話をしてるうちにあっという間に外苑前のイチョウ並木まで着いた。車を路肩に停めて僕らは少し歩くことにした。
「夜中でも街灯ついてんだねー。超久々に来た!」
「あれ?前にもTと来なかったっけ?確か昼間だったような」
「そう!あの時も私が彼氏と別れた時で。あの時は秋だったからイチョウの絨毯だったの、覚えてる」
「あーめっちゃ銀杏くさかった!お前、はしゃいで転んで最悪だったな」
「うるさいなぁ……次はもうちょいハッピーな時に来たいな。また連れて来てよ」
「次来る時は良い知らせがあった時な」
イチョウ並木を歩いて往復して来た僕らはまた車に乗り込んだ。
「そんじゃあもういい時間だし帰るか」
「もうちょいドライブしよ!明日休みでなんも無いんでしょ?海いこ海!」
「はぁー?まぁ別にいいけどさ。俺まだ飯食ってないから奢れよー」
「オッケーオッケー!」
青山通りに向かって僕はゆっくり車を走らせた。
Inspired song
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江本祐介
1988年生まれ。作曲家。ENJOY MUSIC CLUBでトラックと歌とラップを担当。emotoyusuke.com