実力派の脚本家たちにより優れた作品が次々と生み出されている、 近年の日本ドラマ界。書き手の名で番組を選ぶという人も少なくない。今回はなみいる名手の中から、オリジナル脚本を得意とする人物をピックアップ。テレビドラマに造詣が深い岡室美奈子さんに、 各作家の見どころとおすすめの作品について語ってもらいました。
『アンナチュラル』で、あのシーンを流す覚悟とは。脚本家・野木亜紀子の心に残るドラマ

野木亜紀子
ここがスゴい!
☐膨大な取材を経て
練られた物語の力強さ
☐今までになかった
“働く女性”の姿を描く
☐気持ちがこもった
リアルな台詞
『アンナチュラル』第5話の緊張感あふれる場面。鈴木は逮捕されて しまうが、このことがきっかけで中堂は復讐を思いとどまる。
「今、調べなければ、調べなければ、永遠に答えの出ない問いに、一生向き合い続けなきゃならない。そういうやつを一人でも減らすのが、法医学の仕事なんじゃないのか」中堂 系
───────『アンナチュラル』5話より
多くの女性たちから絶大な支持を得ている脚本家が野木亜紀子さんです。『アンナチュラル』は、主人公の法医解剖医ミコト(石原さとみ)がさまざまな事件で亡くなった遺体の死因を追及する物語。このドラマの意気込みを感じたのが第5話。婚約者を失った鈴木(泉澤祐希)が犯人を見つけた時、周囲の制止を振り切って刺してしまう。しかも二度。あのシーンをお茶の間に流すというのは、野木さんをはじめ制作陣一同、相当な覚悟だったと思います。不条理な死で大切な人を失った人の憎悪の深さを痛切に描写し、その後の展開にも結びつく名場面となりました。
登場する女性たちが魅力的なのも野木作品の見どころ。『獣になれない私たち』の晶(新垣結衣)はこれまでドラマでは取り上げられてこなかった部類の女性像です。優秀で気配りができるばかりに、会社でパワハラを受けても笑顔で受け流し、結婚間近の恋人にも強いことが言えない。そんな晶ですが、最後は仕事でも男でもない、新しい居場所を見つけていく。現代の働く女性たちに新たな価値観を提示しました。
『アンナチュラル』(18)
不自然死究明研究所(UDIラボ)を舞台に、三澄ミコト(石原さとみ)や中堂系(井浦新)らが“法医解剖医”としてさまざまな死に直面する1話完結の物語。各々の事件と並行してミコトの一家心中で家族を亡くした過去や殺された中堂の恋人の未解決事件が浮き彫りになりクライマックスへと突き進む。*Paraviなどにて視聴可
『獣になれない私たち』(18)
深海晶(新垣結衣)は仕事もできて恋人の花井京谷(田中圭)と結婚間近で一見幸せそう。だが、内実はパワハラを笑顔で受け流し、結婚をじらす恋人に強く言えず鬱々とした日々。近所のビールバーで根元恒星(松田龍平)と出会い徐々に思考が変わる。働く女性のモヤっと感を体現したドラマ。*Huluなどにて視聴可
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野木亜紀子<br />
1974年生まれ。東京都出身。2010年に脚本家デビュー。主な作品に『逃げるは恥だが役に立つ』(16)、『フェイクニュース』(18)などがある。
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Navigator:岡室美奈子
早稲田大学文化構想学部表象・メディア論系教授。早稲田大学坪内博士記念演劇博物館館長。専門は現代演劇やテレビドラマなど。演劇博物館で『大テレビドラマ博覧会』という展覧会を開催したり、ツイッターで発言するなどドラマ論に定評がある
Illustration: Tetsuya Murakami Text&Edit: Keiko Kamijo