『記憶の盆をどり』
町田 康
(講談社/¥1,700)
奇妙な生き物を愛でたい、時代劇のような世界を歩きたい、ドッカンドッカン迫力満点の戦場に行ってみたい、美少年を暗がりで見つめたい。それ、全ッ部、叶います。異世界ファンタジーにホラーにBLに、名作絵本へのトリビュートまで。言葉を遊ぶ天才作家・町田康の節回しにのせられ揺られするうちに、本を持つ手も文字を追う目も皺々の脳みそも存在することをやめて、気づけば物語の中をプカリプカリ泳いでいる。9編を収めた8年ぶりの短編作品集。
『メインテーマは殺人』
アンソニー・ホロヴィッツ
(山田 蘭訳/創元推理文庫/¥1,100)
自身の葬儀を手配した老婦人にメインテーマたる殺人が降りかかるところから物語は始まる。事件を追うのは探偵ホーソーン、彼とともに行動する語り手はアンソニー・ホロヴィッツ、つまり作家自身。彼以外にも実在の人物や作品がたびたび登場して(スピルバーグ!タンタン!)虚構と現実の境界線は軽やかに乗り越えられていく。《すべての断片があるべき場所に収まっていく感覚》の圧倒的な甘さ美しさに絡め取られる愉悦のミステリ。