音楽を軸にしながら、アート、舞台、広告などで自由自在な活躍を見せる蓮沼執太さんのプレイリスト&コラム連載。毎回、知っているようで知らないちょっぴりコアなテーマを深堀り。蓮沼さんと一緒に、あたらしい音楽の扉を開きましょう。
蓮沼執太のMUSICKING|Playlist vol.3「メッセージ」
プレイリスト「メッセージ」を
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「音楽には必ず、何かしら訴えかける想いが込められています。ときに作詞・作曲家、演奏家、歌い手が抱く、社会体制への反発や弱い立場にいる人への共感が、歌詞や音に現れることも。そんな世界中にある、メッセージ性の強い楽曲から9曲を選びました。どれも有名で、音楽的にも素晴らしいのはもちろん、切実な叫びが感じられます。生まれた背景を知ってから聴くことで、さらに深く入り込めるでしょう。このプレイリストが少しでも、音楽を通して社会を理解していく手助けになると嬉しいです」
#1 Marvin Gaye /
Mercy Mercy Me (The Ecology)
「マーヴィン・ゲイが自ら作詞作曲し、1971年にリリース。『エコロジー』という副題が指すように、環境問題について訴える曲。大気汚染、海をダメにする水銀、生物に悪影響を及ぼす放射能を挙げていき、『地球は人間の酷使に、あとどれだけ耐えられるのだろう?』と問いかけます。2021年の現代でも状況はまったく同じで、胸に刺さるメッセージ」
#2 The Smiths / Meat Is Murder
「ザ・スミスを代表する名曲。10代の頃から菜食主義を貫くボーカル・モリッシーも手掛けた歌詞で、動物の権利に言及。ストレートな言葉を使って、肉食による不条理な屠殺に反対し、人間の身勝手さを訴えます」
#3 Fela Kuti / Water No Get Enemy
「ファンクとジャズの流れを汲み、1960年代後半に広まったアフリカ音楽のジャンル『アフロビート』。その中でも特に有名な、フェラ・クティの代表曲。『水を敵にはできない。いつも水が必要。洗い物、スープ、暑い日の水浴び、子供を育てる時、あるいは水に子供を殺された時でも。水がなければ死んでしまう』という示唆的な歌詞。思わずノリノリで踊り出したくなるビートも素晴らしいです」
#4 Billie Holiday / Strange Fruit
「1930年代のアメリカにおける人種差別、リンチを告発した名曲。どこまでも悲壮な世界観。数多くのミュージシャンがカバーしています(個人的にはロバート・ワイアットが秀逸)。カニエ・ウェストがニーナ・シモンのカバーをサンプリングしたこともあり、近年のBLM運動においても改めて、この曲の意味が捉え直されているようです」
#5 James Brown /
Say It Loud (I’m Black And I’m Proud), Pts. 1 & 2
「ソウルのゴッドファーザーによる超有名曲。1968年リリースといえば、キング牧師の暗殺と絡めずにはいられません。世の中が崩れかけた危機的状況でも、ジェームス・ブラウンは大衆の前に立って、毅然とパフォーマンスしました。貧困エリアから参加した30人の子どもたちによる掛け声も印象的な、人種や宗教を超えて愛される曲」
#6 Bob Marley & The Wailers /
I Shot The Sheriff (Live)
「誰もが耳にしたことがあるギターリフ。エリック・クラプトンのカバーでより知られるようになった曲です。僕は、ボブ・マーリーの『LIVE!』というライブアルバムで初めて聴きました。ボブ・マーリーやコーラスに合わせて、オーディエンスも歌詞を叫んでいたのが印象的。歌詞に描かれているのは、保安官からわけもなく、別に犯人がいる殺人事件の容疑を着せられた男の物語。その姿を通し、社会に対する嘆きが伝わってきます」
#7 Kendrick Lamar / Alright
「ケンドリックはロサンゼルスに隣接し、ギャング犯罪の横行により危険な街とされるコンプトン出身。2015年リリースのこの曲は、フックで『We gon’ be alright(僕たちは大丈夫)』と繰り返し、『今は辛いことばかりだけど、未来には良き日々が待っているから、頑張ろう』という前向きなメッセージを発信します。ファレル・ウィリアムスがプロデュースし、サンダーキャットがバックボーカル。テラス・マーティンのサックスも素晴らしい。BLMのアンセムにもなっています」
#8 Mstislav Rostropovich /
J.S. Bach: Cello Suites
「旧ソ連で生まれ、反体制的姿勢により亡命した伝説的チェリスト・ロストロポーヴィチ。ユネスコ親善大使に就任するなど人道的活動に従事し、芸術・言論の自由を擁護し続けた人物です。彼はバッハの無伴奏チェロ組曲を、反体制亡命芸術家としての同志である映画監督のアンドレイ・タルコフスキーの葬儀や、ベルリンの壁崩壊時に崩された壁の前でなど、人生の節目ごとに演奏しました」
#9 Caetano Veloso & Gilberto Gil /
Medley: Alegría, Alegría / Hino do Esporte Clube Bahía / Aquele Abraço (Live)
「1960年代後半のブラジルで、音楽を中心に起こった芸術運動『トロピカリア』。その中心にいたのがカエターノ・ヴェローソとジルベルト・ジル。彼らは1968年12月にブラジル軍事政権により逮捕され、釈放後、翌年7月にロンドンへ亡命するまでの間にライブを行います。その模様が収録されたアルバム『Barra 69』より締めの1曲を。録音状態は万全とは言えないが、かえってビシバシと伝わってくる攻撃的な空気感。保守的な社会に抵抗していた姿が、音として現れています」
Extra
Underground Resistance / Fury
「サブスクリプションになかったので番外編として、1990年にデトロイト出身のマッド・マイクとジェフ・ミルズが結成したテクノユニットの曲を挙げておきます。ノイジーなサウンド、ハードなリズム、ザラついた音質。耳障りがするような音作りのわけは、デトロイト都市部に住む貧困層を抑圧するアメリカ政府や市警察を、曲を通して批判していたからだそう。背景を知れば、その音が鳴る理由もわかってくるのです」
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蓮沼執太
音楽家・作曲家。1983年生まれ、東京都出身。蓮沼執太フィルを主宰し、国内外でのコンサート公演をはじめ、映画、演劇、ダンス、CM楽曲、音楽プロデュースなどを多数手掛ける。また作曲という手法を応用して、彫刻、映像、インスタレーションを発表し、展覧会やプロジェクトを活発に行う。最新アルバムに、蓮沼執太フィル『FULLPHONY』(2020)。個展『 ~ ing』(東京・資生堂ギャラリー 2018)では、『平成30年度芸術選奨文部科学大臣新人賞』を受賞。
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Design & Illustration: Kohji Fukunaga, Mana Yamamoto Edit: Milli Kawaguchi