ミュージシャンから直オファーが絶えない服部昌孝は、どんなことを考えてMVと向き合っているか。普段は語られない、あの曲の、あのシーンを解説。
スタイリスト服部昌孝のMV×ファッション考察 菅田将暉編

菅田将暉
「星を仰ぐ」
①70sのダックジャケット
②50sのミリタリーのオールインワン
③シルバースニーカー
「ゾンビドラマ『君と世界が終わる日に』の主題歌だったこともあり、ビル屋上での避難生活というストーリー。味の出た古いワーク服を軸にすることで、退廃的な世界観にもなじむ装いにしています。過去とも未来ともとれる作品だったので、足元にはフューチャリスティックなシルバースニーカーを合わせて、時代設定をぼかした着こなしに。まず日常ではやらないチグハグなコーディネートですが、ファンタジーな画面の中では、むしろリアルに映ります」(服部さん)
「いつも服部さんの解釈をふんだんに入れてもらっています。この作品ではツナギ。壮大なテーマをお伝えして生まれた複数候補のうちの一体でした。僕もアーティストも含め3人の直感が一致して、こちらを選びました」(監督 山田健人さん)
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菅田将暉
日本アカデミー賞主演男優賞に3年連続選ばれた日本の名優。2017年「見たこともない景色」でソロ歌手デビュー。19年には「まちがいさがし」を引っ提げ、NHK紅白歌合戦にも出場。
短所を隠すなんてもったいない
服部さんがMVのスタイリングで常に考えているのは、被写体の短所は消さずに、それもすべてさらけ出すこと。
「本人がコンプレックスに感じていることが、実はいちばんの武器になる。顔のホクロとか、大きいお尻とか、人それぞれ抱えている悩みはいろいろあるけど、そのほとんどがまわりとは違う自分だけの個性。それをウィークポイントと捉えるかどうかの違いなだけ」
武器となるものを客観的に伝えたうえで、お互いが納得できるスタイルを仕上げていくのが服部さんの進め方。
「ファッションアイコンをつくるのだってスタイリストの仕事です。どこかに提案があったり、今っぽかったり、真似したかったり、目に留まる要素をスタイリングに忍ばせることもしています。時には、業界でタブーとされることにも挑んできました。たとえば、メンズ服を女性に着せたのも、そう。今では、当たり前の文化として街にまで浸透していますが、それもアーティストを通じて、そこそこ時間をかけて発信し続けてきたこと。世の中に対して、新しい価値観をどうブーストさせるか。その答えが、今の時代はMVだと思い取り組んでいます」
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服部昌孝
2016年yahyelのMV「Alone」をきっかけに音楽シーンでもスタイリングを担当。制作会社「服部プロ」では作品の製作総指揮をとる。