見過ごしてしまうような風景も、作品の中ではいつもとは異なる表情に映るもの。GINZAでおなじみのライター陣が紹介するのは、実在の場所が登場するおすすめの作品。思わずロケ地巡りに出かけたくなる、あのシーンの舞台、ここなんです!
🎨CULTURE
移動しながら見える東京の駅模様。あのMVの舞台になったのは? 吉澤嘉代子『残ってる』

「残ってる」(18)
吉澤嘉代子
代々木八幡駅踏切(東京都渋谷区代々木5丁目)
街を歩く、走る、車や電車の車窓から景色を眺める。MVの中ではよく人が移動する。そして多くの人々が音楽を聴きながら移動し、映像と自分の体験を重ねる。
吉澤嘉代子が発表した「残ってる」でも、主人公を演じるモトーラ世理奈が代々木八幡駅周辺を歩く。早朝の人気のない改札をくぐり、踏切を渡り歩道橋を登って、空が白んで夜が終わっても駅のあたりをぐるぐるしている。朝帰りをして昨日のワンピースのままの主人公は、ともに夜を過ごした「あなた」を想う。季節が夏から秋に変わっていくのを、露出した腕で実感する。でも「わたし」はまだ昨日を生きていたい。そんな心情が“歩いているのに移動しない”ことで切実に伝わってくる。
小田急線沿線の工事によって、八幡駅もこの数年で様変わりした。ガード下の壁画も当時とは違うものになったが、目まぐるしく変化する街と、過去に“残ってる”自分とのコントラストは今訪れても感じられるはずだ。
「残ってる」(18) 吉澤嘉代子 日本クラウン
Illustration: Toshikazu Hirai Selection&Text: Reira Okuhama Edit: Tomoko Ogawa