林遣都と仲野太賀がW主演を務めるドラマ『初恋の悪魔』(日本テレビ)。鈴之介(林遣都)が、シリアルキラー疑惑を抱いていた隣人・森園(安田顕)に監禁された! 果たして友達は助けに来てくれるのか。前半総まとめのような5話を、ドラマを愛するライター釣木文恵と漫画家オカヤイヅミが振り返ります。(レビューはネタバレを含みます)→4話のレビュー
『初恋の悪魔』5話 坂元裕二ドラマにまたもカラオケ名場面。ありのままの自分が過去を救う
重視されない正義や正しさ
3話のレビューでも少し書いたけれど、警察が舞台でありながら、このドラマには正義に燃える人間がほとんど出てこない。唯一、刑事課の服部渚(佐久間由衣)が懸命に事件に向き合うくらいで、ほかの刑事課の人たちはあまりやる気がなさそうだし、雪松署長(伊藤英明)は署をほったらかして馬淵悠日(仲野太賀)の兄・朝陽(毎熊克哉)の死にばかり執着している。
悠日も摘木星砂(松岡茉優)も小鳥琉夏(柄本佑)も、犯罪を追いながらも、正しいことよりも人間関係だとか、まわりの人の気持ちだとかを大事にしている。シリアルキラーに憧れをもつ鹿浜鈴之介(林遣都)に至っては、万引きや横領を「犯罪のうちに入らない」と言うほどだ。
犯罪者は、つねに純度100%の悪人だろうか。いっそそうであった方が、いろんなことがきっと楽になる。5話で描かれた椿静枝(山口果林)は、人を監禁し、法で裁かれた犯罪者だ。その事実は揺るぎない。でも彼女が犯罪に走ったのは、不幸な事故で娘と孫を亡くしたことがきっかけ。その世の中を恨む気持ちが歪なかたちで表出してしまったのだ。
鈴之介にとっては、椿はどこまでもやさしい人だった。椿が彼の気持ちをほぐし、彼が彼らしく生きるきっかけをくれた大切な存在であることも、また彼女が犯罪者であるのと同じくらい、揺るぎない。
正義の乱暴さと、人を救う言葉
隣人・森園真澄(安田顕)から過去のある殺人事件に関する疑いを持たれ、自分の家の地下室に監禁されてしまった鈴之介。何もすることができない、助けが来るとも思えない彼はひとり、過去を振り返る。彼は幼い頃から変人扱いをされていた。
「いつも一人で本を読んでいるので、運動場で遊んだ方がいいと思います」「鹿浜君は挙動不審だからみんなで注意してあげるのがいいと思います」「目つきが悪いところがあるので笑顔の大切さについて知ってほしいと思います」という児童たちに、「そうだね」「やさしいね」と答える先生。カウンセリングという名の、これはもう暴力だ。けれど全員、鈴之介のためを思ってしていること。「正義」の乱暴さと残酷さに気が遠くなる。
そんな境遇のなか、眉間にしわを寄せ続けて大人になった鈴之介は、椿に会ってやさしい気持ちになれる自分を知る。
「世の中は美しいものではないけれど、自分自身を醜くしてはいけないよ」
「私が一体どの口で言うのでしょう」と言いながら彼女から放たれたこの言葉が、鈴之介を、そして彼女自身を助けた。自分が安全圏にいながら相手のためを思って放たれる「正義」より、自分も傷つきながら、同じように傷ついた相手に投げかける言葉のほうが、人に届くのかもしれない。鈴之介に会って世の中を恨む気持ちが消えた椿。「悲しみが消えたわけではありません」と彼女の手帳には書かれていた。傷を抱えながら、それでも歩いていく人生の、そのどうしようもなさと素敵さが、そこにはあった。
友達などいない、助けてくれる人は現れないと思っていた鈴之介を助けたのは、悠日たちだ。だいじょうぶ。シャンプーの最中にトントンされるのはきっと怖いままだけど、彼はひとりじゃない。友達もいるし、助けてくれる人もいる。
4人は鈴之介を監禁した森園を断罪しようとせず、あっさり帰す。こんなところからも、彼らが社会的な正しさを重視していないことが伝わってくる。それよりもいまは友情だ。カラオケだ。
至高のカラオケシーン
『最高の離婚』の「君をのせて」、『花束みたいな恋をした』の「クロノスタシス」、『スイッチ』の「LOVER SOUL」、『カルテット』の「紅」。坂元裕二作品にはカラオケのシーンがとてもよく出てくるけれど、そこに新たに加わった『初恋の悪魔』の「CHE.R.RY」は、この先の人生で繰り返し思い出しそうな美しいシーンだった。
思いを寄せる渚が鈴之介を尊敬しているのを知って嫉妬し、「隕石の衝突を止めることができたとしても彼とカラオケには行かない」と言った琉夏が誘ったのがまた、いい。
4人でカラオケに行ったあと、鈴之介は子どもの自分に語りかける。
「大丈夫。自分らしくいれば、いつか未来の自分が褒めてくれる。僕を守ってくれてありがとうって」「友達もいつかできる」
鈴之介が孤独であってもずっと自分のままでいたことが、その自分を認めてくれた友達がいたことが、過去の自分を救ったのだ。
明かされた森園の正体と新たな謎
4人は晴れて仲を深め、隣人・森園の謎はだいぶ明かされた。妻ズのうち2人は編集者のようだし、不審な行動は小説のため。そして視聴者には、『サザエさん』の伊佐坂先生が恋愛小説家であるというトリビアももたらされた。いっぽう、第一章の総まとめ的な5話のなかで混迷を極めたのは悠日の兄の死と署長の執着、そして星砂の二重人格だ。
4話ラストで階段から豪快に落ちた、と思いきやピンピンしている署長。「上司が部下を誘うのはハラスメントだったか。部下が誘うのは、ハラスメントにならないか」と言いながらじっと目を見るのは、ストレートに誘うよりタチが悪い。5話ラスト、回想で流れた地面に倒れる兄の姿勢と、階段から落ちたときの署長の姿勢がほぼ同じだったのは偶然だろうか。
無事に鈴之介が職場復帰したと思ったら「ヘビ女」な星砂と出会ってしまうし、森園と署長とのつながりも明らかになった。後半は森園が鈴之介を監禁した原因となったらしい、中学生の殺人事件が軸になってくるのだろうか。
脚本: 坂元裕二
演出: 水田伸生、鈴木勇馬、塚本連平
出演: 林遣都、仲野太賀、松岡茉優、柄本佑 他
主題歌: SOIL&”PIMP”SESSIONS『初恋の悪魔』
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Writer 釣木文恵
ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
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