ポップな色にグラフィカルな線……湯浅政明監督のめくるめく世界にようこそ。chelmicoの2人や中田クルミなど、湯浅作品ファンにお気に入り作品と魅力を聞きました。
湯浅政明作品の魅力とは? ファンに一問一答!

湯浅作品ファン chelmicoに一問一答!
生の肯定、グルーヴ、色彩のお祭り!
Q 最初にふれた湯浅作品は?
A 『マインド・ゲーム』。色彩とリズム感がやばい! 初めて観た時の衝撃は、今でも忘れられません。
©2004 MIND GAME Project
Q 好きな湯浅監督作は?
A 『映像研には手を出すな!』。アニメーションにするのが難しい作品だと思っていたけど、素晴らしい出来だった!あと、ウチらが曲やってるし!(OPテーマソング「Easy Breezy」) もちろん、『マインド・ゲーム』もね。
©2020 大童澄瞳・小学館/「映像研」製作委員会
Q 特に好きなシーンは?
A 『マインド・ゲーム』のカーチェイス。 『映像研〜』で、頭の中(空想のアニメ世界)と作品が融合するところ。
Q お気に入りのキャラは?
A 『映像研〜』の浅草氏!なんといっても表情が可愛い! そして、やっぱり西くん(『マインド・ゲーム』)も!しょうもなさがいい!
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chelmico
Rachel(左)とMamiko(右)の友達2人組で結成されたラップユニット。CMソングやドラマのテーマソング、アーティストへの楽曲提供、客演など、さまざまな方面で活動中。
湯浅作品ファン 中田クルミに一問一答!
観終えた後に、即もう一周したくなる
Q 好きな湯浅監督作は?
A 『四畳半神話大系』
私が湯浅監督を好きになったきっかけの作品です。脳にイナズマが走ったような衝撃を覚えています。主人公「私」の言葉の多さにまず圧倒され、版画のような、落語のような、夢の中の途切れ途切れの世界のような……自分の中に存在するアニメの概念がタコ殴りに遭い、気づいたら瞬きすら忘れて見入っている私がいました。 「何故このようになってしまったのか、責任者に問いただす必要がある。責任者はどこか!」 「ファーストコンタクトでありワーストコンタクトである」 反復したくなる台詞の数々も面白い。
©四畳半主義者の会
Q 特に好きなシーンは?
A 『四畳半神話大系』の第10話、永遠と四畳半を彷徨う展開から最終話にかけての流れが本当に好きです。各所にちりばめられていた意味があるようで無いようなものが伏線としてしっかりと回収され、自分にとっての心の拠り所に気づく「私」。人生は見る視点によって捉え方がまったく変わるというシンプルなメッセージがダイレクトに伝わってきます。最後「私」のセリフ「俺なりの愛だ」によって視点を反転した巧妙さにグッときます。
Q そもそも湯浅作品の魅力とは?
A 独特なヴィジュアル表現や奇抜な世界観、癖のあるキャラクター。湯浅ワールドはまるで毒気のようで、気づいたら脳をクラクラさせる魅力があります。なによりハッピーエンドなんて関係なく、作品や絵柄を通して〝解放〟を教えてくれるのが好きです。《四畳半から世界に飛び出す「私」》《奮起するマイノリティ》《君の〝好き〟は僕を変える》。くだらない、ままならない自分の人生をなんとか生き抜こうと拳を掲げるような、力強いメッセージを感じます。
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中田クルミ
役者。カルチャーに強く、音楽や漫画などへのコメントにも定評あり。出演したABEMAオリジナルドラマ『30までにとうるさくて』配信中。
Instagram→ @kurumi_nakata
湯浅作品ファン 豊﨑由美に一問一答!
原作解釈の深さが素晴らしく
そのリスペクトが絶品アニメへ昇華
Q 湯浅政明さんを知ったきっかけは?
A 初体験は『四畳半神話大系』で『ピンポン〜』も観ましたが、監督が誰か気にしていませんでした。湯浅監督の名前を意識したのは『映像研には手を出すな!』です。
Q 好きな湯浅監督作は?
A 『映像研には手を出すな!』
原作の漫画が好きなのですが、そのよさをちゃんと残しつつ、特撮やアニメのオタクのあれこれを、詳しくない人にも面白く伝わるようアニメ化していることに感嘆いたしました。絵作りも同様。原作者(大童澄瞳)の個性はそのままに、シャープな線を強調しつつ、原作ファンの「静止画のキャラクターが動いたらこうかなあ」と想像するアクションの上をいくキレのいい動画に仕上げていて、もう、声を失うくらい感激しました。
Q 特に好きなシーンは?
A エピソード8の文化祭で。水崎氏の両親から自分の娘との関係を「お友達?」と尋ねられたとき、浅草氏が「いえ、仲間です」と答えるシーン。胸が熱くなりました。
Q 好きなキャラクターは?
A 金森氏。すべてのクリエイターが「この人に統括してほしい」と願うプロデューサーではないでしょうか。現実と理想の間に横たわる問題を冷静に見極め、お金にもシビアで、それでいながらクリエイターである浅草氏と水崎氏の創造性に水をさすことがない。鼓舞してやまない。あまりにも好きすぎて金森氏リュックのレプリカを買いました。
Q 湯浅監督の特別な点とは?
A 原作がある場合には、その解釈が深いということです。理解が深いからリスペクトが生まれ、そのリスペクトが原作を超えるようなアニメを生み出す。描線と彩色とキャラクターの動きも独特。総じて言うならとてつもなくスタイリッシュ。だけどスカしてない。独りよがりじゃない。観る人へのサービス精神を内に抱えたスタイリッシュさゆえにこれほどまで多くの人に愛されているのだと思います。
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豊﨑由美
書評家として知られるフリーランスライター。著書に『ニッポンの書評』(光文社新書)、共著に『百年の誤読』(ちくま文庫)など。『QJWeb』で月1回更新のネット連載を担当。
湯浅作品ファン デビッド・ジェステッドに一問一答!
ステレオタイプを打ち破る作品群
アメリカでの評判と認知度も上昇中
Q 湯浅作品の魅力とは?
A 湯浅さんのようなアーティストの醍醐味は、ひとつひとつのプロジェクトが非常にバラエティに富んでいることです。彼の新作は、私をワクワクさせるような新しい方向へ導いてくれるという確信がある以外、何が出てくるか予想がつきません。さらに印象的なのは、ストーリーやジャンルの多様さだけでなく、それぞれの作品の雰囲気にフィットさせる彼の感性です。コメディ、ドラマ、アドベンチャー、ファミリー映画など、すべてに秀でている数少ない優れた監督の一人だと思います。
Q 好きな湯浅監督作は?
A この夏、アメリカ公開をお手伝いすることになった作品『犬王』は、湯浅さんにとって最大の功績のひとつと言えるでしょう。描かれているのはとても深いテーマです。アウトサイダーやはみ出し者は、歴史のメインストリームから抹殺されても、常に社会と対峙し変化を促してきたこと。アーティスト特有の力である真の創造力は、時として、敵意(反発)を受けるものであるということ。なんだかヘビーで政治的な映画のように聞こえてしまいそうですが、実際の本作は、素晴らしい演奏と楽しい振り付け、そして二人の主人公の優しい関係性が織りなす、軽快で浮き立つようなミュージカルです。お説教をされているような感覚はなく、でも劇場を出るときにはたくさんの感情や考えを抱えている。驚くべきことです。
©2021 “INU-OH” Film Partners
Q アメリカでの評判は?
A 私は幸運にも、『マインド・ゲーム』『夜明け告げるルーのうた』『夜は短し歩けよ乙女』『きみと、波にのれたら』、そして『犬王』と、湯浅監督の多くの長編作品のアメリカ公開に携わることができました。新作が出るたびに観客層が広がり、アメリカでの彼の評判と作品の認知度は上がり続けています。『マインド・ゲーム』で彼は、限界を突き破る、想像力の豊かな、思いがけないものを作り出す監督としてあっという間に認識され、『DEVILMAN crybaby』『ピンポン THE ANIMATION』など日本のアニメのステレオタイプを打ち破る人と称賛されています。
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デビッド・ジェステッド
小規模でも上質な長編アニメーションを扱うと評判のニューヨークの映画配給会社、GKIDSの社長。日本のアニメ作品に造詣が深く、スタジオジブリの作品の北米向け配給も担当している。