「まだ見たことがないもの」を信条に、作家性を大切にしたフレッシュな作品は公開されるたびに大きな話題をよび、映画界での存在感をますます高めている。現地関係者への取材や新旧のタイトルを考察し、あらためて「A24」の魅力に迫ります。
創業~現在まで。A24のアイデンティティ
2012年に3人の創設者で立ち上げ、イタリアの高速道路の名称を会社名にした彼らが、わずか12年で、一体どのように成長したのか?関係者への取材からわかった、その姿とは。

メジャーな映画が中心の
ハリウッドに見つけた空白
A24が製作・配給する作品というだけで観たくなる。そんな気持ちにさせるインディペンデントな映画製作会社は、とても稀有な存在だ。
これまでに、アカデミー賞62回ノミネート(18回受賞)、エミー賞64回ノミネート(18回受賞)。その数字もすごいが、賞レースを賑わすようになるまでの過程にこそ注目したい。例えば、ワーナー・ブラザーズ100年の歴史で最高の興行成績を記録した『バービー』(23)を監督したグレタ・ガーウィグのデビュー作は、A24配給の『レディ・バード』(17)だった。昨年、アカデミー賞で圧勝したダニエルズによる『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(22)も配給。単なるヒット作ではなく、時代を切り開くような新たなクリエイターを発掘し、アート性の高い優れた作品を150本以上配給してきた。ドラマのヒット作も数多くあり、『タイム』誌が「2023年もっとも影響力のある企業100社」に選んだほどだ。
世界中からクリエイターが集まるグローバルなスタジオへ、いかに成長したのか?A24はインタビューに答えないことで有名なのだが、スタジオ周辺の最新事情に詳しい人から話を訊いた。
A24がハリウッドで歴史に名を刻む偉業を達成したのは、簡単に言えばハリウッド的なあり方を目指さなかったからだ。創設当時から、〝まだ誰も見たことがない〟独自のストーリーテリングができる場所を目指して作られた。創設者3人は、全員がハリウッドで何かしらの経験を積んでいたけれど、質と、これまでにない作品という意味において、まだこの業界には埋められていない「空白」があると感じていた。それが、A24の始まりだ。
Text_Akemi Nakamura