『ミッドサマー』や『へレディタリー/継承』で知られるアリ・アスター監督による新作『ボーはおそれている』(2月16日公開)。いつも不安に怯えている主人公のボー(ホアキン・フェニックス)はある日、ついさっきまで電話をしていた母が突然怪死していたことを知る。母のもとに行こうとアパートを出ると、そこはもういつもの日常ではなかった。現実か非現実かわからなくなるような混沌とした世界の中、ボーは実家に辿り着くことができるのだろうか──。アリ・アスター監督が「悪夢的なコメディとして描いた」という約3時間の壮大な物語を、監督のファンだという俳優の松本穂香はどう体験したのか。
待望の新作『ボーはおそれている』公開!
アリ・アスター監督の大ファンである俳優、松本穂香との初対談が実現
──松本さんは『ミッドサマー』を観てアリ・アスター監督の作品が好きになったそうですね。
松本 はい。映画館でモザイクも入っていないディレクターズカット版を観ました。不快感が一周回って快感に転じるという初めての感覚でした。その突き抜け方に何度も笑ってしまって。『ミッドサマー』は私にとってホラー映画の概念を変えた作品です。
アリ 『ミッドサマー』は僕の失恋をきっかけに、「おとぎ話を作ろう」と思って制作した映画です。ホラー映画として撮っていた自覚はありますが、おとぎ話の物語の運び方を強く意識しました。映画監督であれば誰しもこれまで見たことのない新しい作品を撮りたいと思うものなので、そういった感想をいただけるのはとても嬉しいです。僕は観客が没入して我を忘れるような映画を作りたいんです。『ボーはおそれている』はとても広大な映画を作ったつもりで、劇中を徘徊する感覚で観てほしいと思っています。
松本 『ボーはおそれている』を観ている間、ずっと口が開きっぱなしで体が動かせなかったんです。初っぱなからフルスピードで、違和感や不快感、不安感がずっと追いかけてくる気がしました。『ミッドサマー』を観た時に感じた面白さに通じるものがあり、二回観てしまいました。
アリ それは良かったです。ありがとうございます。僕としては観客に常にバランスを欠いた状態で映画を観てほしいという気持ちがあります。「次はこうなるだろうな」と展開が予想できるものを作ると、観客が受け身になってしまいます。できる限り観客が不安定になるように、地面に張ってる根っこを根こそぎ取ってしまうような感覚で映画を作っています。そうすると、自ら身を乗り出して見るしかなくなってしまう。
松本 まんまとそういう状態になりました(笑)。
アリ (笑)ありがとう。
松本 まず、何が起きているのか整理ができないまま物語が進んでいき、そのうち全然予想もしなかった違うジャンルの怖さみたいなものに襲われました。時々、「えっ!」って声が出てしまうようなスリルもあって。1回目はただその衝撃に耐え続けていた感じだったのですが、2回目は笑いながら楽しめました。
アリ そもそもダークコメディとして作った作品なので、笑ってもらえて良かったです。隅々までこだわった作品ですが、一番難しかったのは最後のシークエンスです。ボー以外は全部CGなので、すごく時間がかかりました。予算的な制限もあり、ハードな制作でしたね。あと、アニメーションの場面にも時間がかかりました。 ありものを一切使わず 、すべてゼロから作っているんです。
松本 そうなんですね!私が一番気になったのが現場の空気感でした。例えばボーが裸で外に飛び出していくシーンは、リハーサルをしていく中で「いや、これはちょっと(笑)」みたいな感覚があったのかどうなのかとか。現場の空気感が全く想像できなかったんです。
アリ ホアキンが裸で走り回っているシーンはなかなか難しかったです。屋外でヌードのシーンを撮るのはとてもセンシティブです。回数を何度も重ねず必要最低限にしました。ホアキンはシリアスでピンと張り詰めた空気感を放っていることもありましたが、愉快な人でもあるので、様々なシーンでけたけたと笑っていましたよ。難解さがありながらも、ちゃんとコメディとして笑わせられるかどうかもひとつのハードルでしたし、逆に笑いながら撮っている中で、「これはシリアスな映画だよね」と再認識することもありました。
松本 笑いながら撮ってたんですね(笑)。
【松本穂香さん着用衣装】ジャケット ¥92,400(アワー レガシー)、ジャンプスーツ ¥68,200(チカ キサダ)、ネックレス ¥49,500(ボーニー | 以上エドストローム オフィス)03-6427-5901/リング ¥15,400(ソワリー)06-6377-6711
Photo_ Sakai De Jun Styling_Ayano Nakai(Honoka Matsumoto) Hair&Makeup_Izumi Omagari(Honoka Matsumoto) Text & Edit_Kaori Komatsu