東京を拠点に活動する4人組バンド・ミツメが、3年ぶりとなるニューアルバム『Ghosts』をリリース。夢で見た景色のように、どこか懐かしく浮遊感のある世界観はそのままに、より多彩な音を使いカラフルな音楽性に仕上げられた今作。以前のインタビューから約1年半。今回は『Ghosts』の制作裏話から海外でも活躍するミツメが感じるアジアシーンについてお話いただきました。
“不在感”が鮮明に描く輪郭とは。なめらかに変化し続けるミツメのニューアルバム『Ghosts』
アルバムのテーマは“不在感”
──早速アルバムのお話を聞いていきたいと思うのですが、真っ先に気になったのはジャケットの写真。このなんともいえない空気感に引き込まれました。
川辺 素(以下、川辺): この写真は、去年のトヤマくん(※1)がやっていた個展の写真集からお借りした写真です。「大きく印刷しているわけじゃないけど、これが好きなんだ」と言われたものですね。
※1 トヤマくん: 写真家のトヤマタクロウ。ミツメのCDジャケットやアーティスト写真はほとんどが彼が手がけたもの。
Photo: トヤマタクロウ
──どのようにしてこのジャケットに決まったのでしょうか?
須田 洋次郎(以下、須田): まず、レコーディング前に川辺から話しがあって、そのときに“不在感”のようなイメージを聞いていました。
川辺: “不在”って、“実在”よりも鮮明な輪郭を見られることがあると思っていて。今回のアルバムでは、どの曲を作るときも、僕の中ではそれが漠然としたモチーフとしてあったんです。ジャケットの相談をしているときもそんなテーマに合うものを考えていて、満場一致で「この写真だね」となりました。
──確かにこの写真には“不在感”が現れているように思えますね。
川辺: アルバムのジャケットを決める前に、カメラマンのトヤマくんにテーマの話をしたときも、「それはよくわかるし、僕が普段写真で表現していることに通じると思う」と言ってもらえましたね。
──ちなみに、右端に見切れているものは何でしょうか?
nakayaan: トヤマくんもあれが何なのかはよく分からないそうです(笑)。
──それはまさしく“ゴースト”ですね(笑)。
『Ghosts』の音と歌詞ができるまで
──では音楽の話に移りまして。2017年にリリースされた先行シングル「エスパー」では、歌詞の割合が多くなったり、サビのようなパートができたりと、ミツメとしても新しい挑戦をしているのかなと思っていました。今回のアルバムでアレンジ面では何か変化はありますか?
大竹雅生: 前回のアルバムはギターを軸に据えていて、ギターの音色も統一していたんです。だから今回はいろいろな音を入れてちょっと色彩豊かな感じにしてみたいなと思って、ヤマハの80年代のシンセサイザーを新しく買いました。例えば、アルバムの4曲目に入っている「エックス」では、これに最初から用意されているプリセット音を何種類か使っています。作り物っぽいペラペラした音なんですけど、それが逆に不気味で面白くなったんじゃないかと思いますね。
──新しいキーボードを導入して、よりサウンドが表情豊かになっているんですね。ミツメの魅力は歌詞にもあると思いますが、川辺さんはいつもどのように歌詞を考えているんでしょうか?
川辺: よくある“歩いていて思いつく”タイプではなくて、集中して粘り強く考えることが多いです。
──どのようなことに着想を得ているのですか?
川辺: あまり何かから引用したり、自分の体験をもとにしたり、というのはできるだけやらないようにしていますね。「いいことを言おう」と人の頭で考えて思いつくものって限界があると思うので、そういうのを超えたところで書きたいんです。考え込んで、たまたま浮かんできたことを膨らませたりとか、そういうやり方ですね。自分でもあとで読んで気付くところがあるくらい方がいいなと思っています。
──なるほど。主観的なものから一つ距離を置いて書いているから、誰でも歌詞の世界観に入り込みやすいんですね。
川辺: ありがとうございます。
ツアーを通じて感じた
「日本だけで生きているわけじゃない」
──最近は日本だけでなく、中国や台湾を中心に、アジアツアーを行う機会が増えましたね。そうした中で感じたことはありますか?
川辺: 3年くらい前から行く回数も多くなって、身近に感じられてきました。「日本だけで生きているわけじゃないのだな」という気持ちはリアルに感じられるようになりましたね。
──アジアのミュージシャンとの交流はありますか?
川辺: ライブ会場で何度か会ううちに段々と話すというのは増えました。落日飛車(※2)と「WWW」で共演してそのまま飲みに行ったり。台湾へ行ったときも打ち上げでたまたま東京でも共演した透明雑誌(※3)の人たちと飲みました。
※2落日飛車(サンセット・ローラーコースター): アジアインディーシーンにおいて注目を浴びている台湾の6人組バンド。
※3透明雑誌(トウミンマガジン): 台湾の4人組オルタナティブロックバンド。バンド名は日本のロックバンド・NUMBER GIRLの楽曲「透明少女」から。
須田: 僕はPARASOL (※4)のベースのジーくんと遊びに行ったり、この前も彼が他にもやっているバンドのスルタン・オブ・ザ・ディスコが来日した時に一緒に飲んだりとか。韓国のバンドとは仲良くさせてもらっています。アジア人同士の流暢じゃない英語のコミュニケーションが好きで。本当はお互いに音楽のことをとても考えていて、拙い言語で頑張ってそれを伝えようとしている。それって“本能的な会話”という感じでいいですよね。
※4 PARASOL (パラソル): 韓国の3人組サイケデリックロックバンド。メランコリックで浮遊感のあるギターサウンドが特徴。
──韓国は今、カルチャー的にパワーがある場所だと思います。
川辺: パワーがあるといえば、ダハムくん(※5)はいろいろなイベントをやっていて、とても面白いです。日本からも遊びに行っている人が多いですね。あと、去年印象的だったのは軍事境界線のイベントかな?
※5 ダハムくん: パク・ダハム。DJやミュージシャン、定期イベント『No Club』などのオーガナイザー、レーベル『Helicopter Records』の主催など、多方面で活躍している。
──それはなんでしょう?
川辺: 韓国と北朝鮮の国境にあるコソクチョンという街で開催された『DMZ Peace Train Music Festival』に、以前呼んでもらいました。ゴルフをやるためのリゾート地みたいな場所で、大きな川が流れていたり、寺院とかもあったり。日本とはまた違う、のどかな田舎の風景でした。そういうところでライブをできるのは嬉しいですね。
──アジアで活動をしていて、日本の音楽や、音楽シーンの見え方が変わることはありましたか?
須田: 僕たち自身、“日本らしさ”を意識していないのであまりないのですが、唯一挙げるとすれば、自分たちがいいなと思うものを好きに作っていれば、向こうでも面白いと思ってもらえることが分かりましたね。日本人としてではなく、そういうキャラクターとして受け入れてもらえるというか。
──何かが変わった、というよりは逆に「今のままでいいんだ」と言ってもらえた感覚?
須田: そうですね。
似ているようで少し違う、アジア滞在事情
──ツアーで中国や韓国に滞在する中で、日本との違いを感じたことはありますか?
須田: 同じように見える建物でも、入ってみると内装や間取りは違ったりしますね。
──それは例えば?
須田: 日本とはまた違う角度で、西洋からの刺激を受けているように感じます。そこに日本人の感覚で行くと新鮮に見えて、「かっこいいな」と感じる瞬間も多くて。あと、ちょっとしたところだと、日本だったら扉が付いているであろう場所に何もなかったりとか。それを見ると「だから解放的に見えるのか」と納得できますね。
川辺: ホテルとかも日本とはやっぱり違うよね。
nakayaan: 基本、お風呂のドアが透けてるとか。
川辺: (笑)。
須田: 中国のツアーの時はそういうところも多いです。普通のホテルの二人部屋なのに「シャワー透けてるなぁ」って。
──ちょっとバスルームの前が通りにくい(笑)。
nakayaan: メンバー同士でまだ慣れているからまだいいですけど、突然そういうところに行ったらびっくりしますよね。
──初めて見たときは驚きますね(笑)。
5月からはじまる
「mitsume tour Ghosts 2019」
──今後、日本全国と中国、台湾を巡るツアーを控えているそうですね。
須田: はい。前回大掛かりなツアーをした時はDYGL(※6)とツーマンだったんですけど、今回はワンマンなので。前とはまた違ったハプニングがあるだろうなと思います。
※6 DYGL(デイグロー): 2012年結成の4人組インディーロックバンド。東京やアメリカ、イギリスなど、幅広い拠点で活動する。
──ハプニングというと?
須田: 機材が届かなかったりするんですよ。
──そんなことがあるんですか!?
須田: 中国の国内線でロストバゲージされてしまって…。前回はツーマンだったのでお互いに助け合えたのですが、今回はワンマンだからハラハラしています。
──海外ツアーにそんな背景があったとは…。ツアーや今後の制作を見据えて、考えていることはありますか?
須田: とにかくツアーでいい演奏をする、それが全てだと思います。今回のアルバムは、重ね録りをしている曲や、演奏が難しい曲が多いので、それを生演奏でやるのは大変ですね。なるべく元のアレンジを活かして、アルバムの曲をやりきりたいです。それはハードルが高いことだと思いますが、今はとにかくそれに全力を注ぎたいなと。次の制作についても、ライブをしていく中で、自分たちの中でも湧いてくるものはあると思うので。
──ありがとうございます!あとは機材がちゃんと届くことを祈るだけですね。
須田: そうですね(笑)。それは切実に願いたいです。
【NEW ALBUM】
『Ghosts』
2019年4月3日リリース
CD :
¥2,800 (+Tax)
MITSUME-020 / PECF-1168
1. ディレイ
2. エスパー
3. ゴーストダンス
4. エックス
5. ふたり
6. セダン
7. なめらかな日々
8. クロール
9. タイム
10. ターミナル
11. モーメント
LP :
¥3,000 (+Tax)
MITSUME-021 / PEJF-91025
A1. ディレイ
A2. エスパー
A3. ゴーストダンス
A4. エックス
A5. ふたり
B1. セダン
B2. なめらかな日々
B3. クロール
B4. タイム
B5. ターミナル
B6. モーメント
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ミツメ
2009年、東京にて結成。4人組のバンド。オーソドックスなバンド編成ながら、各々が担当のパートにとらわれずに自由な楽曲を発表し続けている。