ロンドンを拠点に世界で活躍する日本人シンガーソングライター、リナ・サワヤマ。今夏、3年ぶりに帰国し、サマーソニック2022で日本初のパフォーマンスを披露した彼女をキャッチ。多忙を極める中、15分だけ話を聞くことができたので、彼女のインスピレーションの源にフォーカスを当て、インタビューをしてみました。
リナ・サワヤマのひらめきの在処。怒れるロンドンっ子がクィアでパワフルなクイーンオブポップになるまで。
──新曲「Hold The Girl」もそうですが、リナさんのMVは非常に映画的だったり、ユーモアのセンスにあふれているものが多いですよね。
音楽を作るとき、映画や本からインスピレーションを得ることはすごくあって。だから、曲を書いている段階で、どういう映像にしたいかはクリアに見えているんです。「Hold The Girl」に関しては、私自身がコンセプトを考えましたが、ロンドンの映像作家アリ・カー(Ali Kurr)と作っていて。彼女とはもう何本も一緒に組んでるんです。「This Hell」もそうだし、「Bad Friend」なんかも。すごく信頼を置いているので、関係性も充実したものになっていて。私の頭の中にあるストーリーを映像に落とし込むときには、彼女が組み立ててくれるんです。
──「Bad Friend」のMVは昔の日本映画へのオマージュですよね。石原裕次郎的な日活アクションを彷彿させる内容で、しかも、リナさんが、かなりくたびれたヨレヨレの中年男を演じているのが面白くて。これはリナさんのアイデア?
アリが提案してきたんです。「これをやったらすごく面白いと思う」と。私、日本映画はまったく詳しくないし、あんま白黒映画が好きじゃなくて(笑)。でも自分の中にはない、まったく別のキャラクターになりきるのはすごく面白かったし、実はあのMVが、映画のキャスティングにつながったんです。
──そうだったんですね。キアヌ・リーブス主演の人気アクション映画シリーズ『ジョン・ウィック』の4作目(2023年3月アメリカ公開予定)に重要な役で出演されるというニュースを聞いたとき、すごい!と思いました。どんな経験でしたか?
演じるのは難しかった。今も自分の演技を観るとちょっと恥ずかしい(笑)。MVでもキャラクターを演じてはいるけれど、それは「リナ・サワヤマ」の映像だし、結局、自分自身だったりするじゃないですか。でも、映画で俳優として演じるのは、自分とはまったく関わりのない別人を演じるということなので、全然違う。いつもは絶対にしないような、自分の中にはない表情も見せなくちゃいけなくて。その“プロレス”自体は、ハードだったけど楽しかったですね。
──映画作りにも興味が湧きましたか?
うん、めちゃめちゃやりたい。
──ちなみに、普段はどんな映画を観るのが好きですか?
いわゆるハリウッドものではなく、自分の人生とつながるような映画が好き。アジア人としての、あるいはクィアとしてのアイデンティティに共感できる作品に反応するみたいで。最近だとミシェル・ヨー主演の『Everything Everywhere All at Once(原題)』(日本では2023年3月公開予定)。破産寸前のコインランドリーを経営する中国系アメリカ人の女性が、マルチバースにトリップしてしまうというSFコメディで。それと、『フェアウェル』(19)もよかった。ニューヨークで暮らす中国系アメリカ人の若い女性が、末期がんのおばあちゃんを訪ねて中国に向かう話だったんです。あと、『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』(18)。シャイで不器用な女の子が自分を変えようとがんばる話なんですが、10代のときの自分を思い出すなって。
──アメリカのエイス・グレード=8年生といえば13〜14歳の頃で、日本では中2ぐらい。ロンドン育ちのリナさんの当時はどんなふうでしたか?
マジ反抗期だった(笑)。母親を困らせてばかり。出歩いてお酒飲んだり家出したり。すべてのことに対して反逆したいという思いがあって。それに、生理が始まったり、ホルモンの影響で体が変化していく時期でもあったからかもしれない。でも、あの頃が今の自分自身を形成したと思いますね。
──音楽を作るようになったのもその頃からですか?
いえ、それは17歳ぐらいから。ただ、歌うのはずっと好きだった。小っちゃい頃、ピアノを習ってて。レッスンが嫌いで、毎回泣いてたんですが、そしたら先生が「じゃあ、レッスンの最後に一緒に歌いましょう」って、日本の童謡を歌うようになって。そこから歌が好きになったと思う。歌いたくて嫌なレッスンにも頑張って耐えるっていう(笑)。楽器が続かないタイプなんですよ。でも、歌だけはそこからずっと続いてて。
──じゃあ17歳の頃からバンド活動のようなことを始めたんですか?
というより、学校にいろんな音楽クラブがあって、参加してたんです。ゴスペルクワイヤーとか、アフリカの太鼓を叩くクラブとか、ダンスクラブとか。日本的な、“Club is Life”のような部活動とは違って、もっと軽い感じのクラブ活動。キリスト教系の学校だったので、教会がすぐ隣にあって、そこのステージで歌ったり踊ったりすることがよくあったんですね。だから、人前でパフォーマンスをするのは、子どもの頃から好きだったし得意だったんです。
──リナさんのサマソニでのステージを拝見しましたが、パフォーマンスがカッコよかったのはもちろん、LGBTQ差別撤廃のスピーチにシビれました。「日本はG7の中で唯一、LGBT差別を禁止する法律がない国であり、同性婚のプロテクションがない国。私は日本人であることを誇りに思っていますが、これはすごく恥ずかしいこと」だと。「LGBTの人たちは人間です。LGBTの人たちは日本人です。愛は愛。家族は家族です」と。リナさん自身がバイセクシャルである、クィアであると自覚したのも、高校生の頃だったんですか?
いえ、20歳ぐらいになってから自覚しました。それまでもずっとそうだったんだけど、バイセクシャルが許されるということを知らなかったんです。通っていたのは女子校で、レズビアンを恐れるようなホモフォビア的な空気感があったし。そんなふうではいけないんだと、ずっと自分の中に抱え込んでいたんです。でも、20歳になった頃、「今までの自分は間違っていなかった。恥ずかしがらなくてもいい。困惑しなくてもいい」と思えるようになった。それは、周りに友だちやChosen Family(血縁的なつながりにこだわらず、自分自身で選んだ家族)や、クイアな仲間たちがいたからこそ。そこで自分をさらけ出すことができたのは、幸運だったなって。
──音楽以外に好きなことはありますか?
読書が好き。ちょうど今読んでいる本が、シャネル・ミラーの『私の名前を知って』(和訳は河出書房新社より刊行)。スタンフォード大学のキャンパスで起こった、レイプ事件の被害者女性が書いた本なんです。加害者は白人のエリートで水泳選手の男子学生だったことから、裁判で証拠がちゃんと出てきているのに、罪を負わないという。ひどい話ですが、被害者自身の思いがしっかりとつづられていて。めちゃくちゃおすすめです。多くの女性に読んでもらいたいなって。
──数年前、日本でもあったんです。若い女性ジャーナリストがレイプされ、でも加害者が名の知れた男性ジャーナリストであったために、結局逮捕されなかったという事件が。民事訴訟で性被害認定はされたんですが。
ホントひどいですよね。エリートであることや有名であることを盾に逃げおおせてしまう。非常に理不尽だし、弱い立場の人は、結局「これが現実だ」と突きつけられる。だから、私の曲もそういう内容が多くなってしまうのかも。
──エンパワーメントされる曲揃いですよね。ところで、セカンドアルバム『Hold The Girl』がリリースされますが(現在発売中)、これはどんな内容のアルバムでしょうか?
ロックダウン中に書いた曲を集めたアルバムで。その間、みなさんも同じだと思うけど、内省的に自分を振り返ったんです。特に過去の、自分があまり向き合ってこなかった部分と対峙することになって。「自分を大事にする」という考えから生まれてきた曲たちなんです。ぜひ、聴いてみてください。
リナ・サワヤマ 2nd Album
『Hold The Girl』
2022年9月16日発売
日本盤CD / POCS-24015 / ¥ 2,750
輸入盤LP / 579-6285 / オープン・プライス
リナ・サワヤマ来日公演概要
2023年1月17日(火)
名古屋:ダイアモンドホール
2023年1月18日(水)
大阪:Zepp Osaka Bayside
Open 18:00 / Start 19:00
2023年1月20日(金)
東京:東京ガーデンシアター
企画・制作・招聘:Live Nation Japan・Creativeman Productions
協力:Universal Music Japan
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リナ・サワヤマ
1990年生まれ。ロンドンを拠点に活動する新潟県出身の日本人シンガー・ソングライター。2017年にインディ・アーティストとしてデビューEP『RINA』を発表し、英ガーディアン紙や米音楽メディアのピッチフォークなどに絶賛される。2020年には、イギリスを拠点に世界的にインディ・ミュージックシーンを席巻する音楽レーベル〈Dirty Hit〉と契約し、満を持してデビューアルバム『SAWAYAMA』を発表。米ニューヨーク・タイムズ紙、英ガーディアン紙、米ローリング・ストーン誌をはじめ、50を超えるメディアが選出する年間の「Album of the Years」のリストにその名を連ね、世界的な成功を収める。高い音楽性のみならず、アイデンティティや平等性を大切にする彼女の姿勢は大きな話題を呼んでいる。2023年には大人気映画シリーズ『ジョン・ウィック』4作目への出演も決定しており、多方面における活躍ぶりが期待される。
Photo: Norberto Ruben Styling: Jordan Kelsey Styling Assistant: MAO MIYAKOSHI Hair: TOMI ROPPONGI Make-up: Haruka Tazaki Text: Izumi Karashima Edit: Milli Kawaguchi