世界的にメガヒット中の『RRR』が、日本で公開されて早10日。『バーフバリ』のS.S.ラージャマウリ監督による新作として注目を集め、公開約1週間で日本での興業収入は1億1,000万円を記録。これはインド映画史上初の快挙だそう。このヒットを一際盛り上げたのが、監督・キャストの来日です。主演のNTR Jr.さんとラーム・チャランさんを直撃しちゃいました!
大ヒットインド映画『RRR』主演ペア対談!「理屈では飲み込むのが難しいのに、それでも納得してしまう映画が好き」
──イギリス植民地時代のインドを舞台に、友情と宿命で結ばれた二人の英雄、NTR Jr.さん演じるビームと、ラーム・チャランさん演じるラーマの活躍を描いたアクション超大作『RRR』。2018年にクランクイン後、コロナ禍で撮影が2度も長期間にわたって中断し、クランクアップまで3年近くかかったと伺いました。集中力を保つのは大変ではなかったですか?
NTR Jr.: 肉体面ではものすごいストレスにさらされたよ。映画を観た人ならわかってくれると思うんだけど、僕ら二人ともこれまでのキャリアで一番と言っていいほど、身体を作り上げたんだよね。役柄上、チャランは身体をものすごく絞っているし、僕は僕でガタイをよく見せなくてはならなくて。その状態を維持し続けるのが大変だったんだ。
チャラン: 3年間ずっと、ハルクみたいな体型でいなくちゃいけなかった(笑)。
NTR Jr: そうそう(笑)。でも精神面では、(S.S.)ラージャマウリ監督の存在が大きな力になって。
チャラン: 監督のおかげで、僕らは一丸となって、この映画のモードを保てたんだ。撮影が中断している間も、お互いコンスタントに連絡を取り合っていたし。それくらい、この映画には僕らを惹きつけてやまないオーラがあって、4年でも5年でも辛抱できたはず(笑)。パンデミックの間は、世界中が大混乱していたよね。
NTR Jr.: 暮らしが破綻した人もいるわけで、僕らの経験なんてごく些細なことでしかない。逆に、世界中が経験しているこの苦難が、僕らが『RRR』のために団結するモチベーションになったとも言えるんだ。
──映画人の中には、コロナ禍で、創作に費やすための時間の余裕ができたのが、不幸中の幸いだったと話す方もいます。今作においてもそういう面はありましたか?
チャラン: ラージャマウリ監督にとっては、ストーリー全体を見直す機会になったと思う。
NTR Jr.: よりドラマチックに、よりエモーショナルにね。あとはVFXについても、時間があったことが大きな助けになったと思うんだ。クオリティを想像のはるか上まで高めることができたからね。
チャラン: 役者としては、やることはあまり変わらなかったかな。ただタラク(※NTR Jr.のこと)も同じだと思うんだけど、パンデミックを通して自分自身を見つめ直すことができて、よりいい人間になれた気がする。この3年、良いことも悪いこともあったよね。
──今作の見どころの一つといえば、お二人が一糸乱れず踊る「ナートゥナートゥダンス」です。練習に4日間、撮影に12日間かかったそうですね。
NTR Jr.: 正しくは「練習に16日間」だよ! というのは、撮影の合間も練習してたんだ。なんたって、ラージャマウリ監督は99.9%の出来では満足しない人だから。
チャラン: 許されるのは100%のみ。
NTR Jr.: あるいは、101%を出せたら喜んでくれるけど(笑)。
チャラン: 体力を限界まで消耗したよね。相当重いトレーニングだった。
NTR Jr.: 16日間の高負荷トレーニング(笑)。何が大変ってステップ自体ではなく、チャランと動きをぴったりシンクロさせること。つまり、僕らが演じたビームとラーマは親友同士で、心が一つなんだ。わざわざ相手を見なくても、お互いの一挙手一投足がわかるというわけ。そのラージャマウリ監督のこだわりのおかげで、今やこのダンスは世界的に注目されていて。監督はなぜこんなにも観客の心をつかむのがうまいのか、いつも不思議なんだ。
──こうしてお二人の掛け合いを見ていると、とてもハッピーなムードです。ハードな撮影も、今みたいに明るく乗り切ったんでしょうか?
チャラン: タラクが撮影の生命線だったんだ。いつだって現場をハッピーでエネルギッシュに保ってくれるから。みんな口を揃えてそう言ってたよ。
NTR Jr.: いや僕はただ、みんなにちょっとしたいたずらを仕掛けてただけ(笑)。僕はすぐ見つかるのに、チャランのいたずらはバレないんだよなぁ。僕らは元々長年の友だちだから、現場にはたくさんの笑いと喜びが生まれたんだ。それにラージャマウリ監督も、チャランとは『マガディーラ 勇者転生』(09)を撮ってるし、僕とも3つ映画を撮ってるから、僕らのことをよく知っていて。大家族が集まったような雰囲気で、体力的にはキツかったけど、精神的なストレスはまるで感じなかった。
──ナートゥナートゥダンスは、イギリス総督公邸でのパーティというシチュエーションで行われます。ヨーロッパの俳優たちが、インド映画ならではの世界に入り込んだ姿が新鮮でした。
チャラン: ビームが恋に落ちるイギリス総督の姪、ジェニー役のオリヴィア(・モリス)らイギリスの俳優陣は、かなり長いこと振付を練習して撮影に臨んでくれたんだ。
NTR Jr.: あのシーンはロケ場所がウクライナ・キーウだったから、周りで踊っているのは現地のバレエダンサー。素早いステップもお手のもので、とにかくプロフェッショナルだった。
──ウクライナ戦争の前ですよね……。
NTR Jr.: そう。だからニュースを観るたび余計に辛いんだ。
チャラン: イギリス総督公邸として使われた建物は、キーウ中心部にある、大統領府のマリインスキー宮殿。宮殿は幸い今も無事だけど、周辺は破壊され、景色がかなり変わってしまったみたいで。
NTR Jr.: チャランは優しい心の持ち主で、撮影に協力してくれた現地の警備担当者とすぐ連絡を取って、支援したんだよ。その行為は素晴らしいけど、今ウクライナに起こっていることはひどすぎる。だから、ナートゥナートゥを観ると少し複雑な気持ちになるんだ。世界中の人たちが楽しんでくれているのはうれしいんだけどね。
──ラージャマウリ監督は以前、「なるべくリアルな映画を撮りたい一方で、アクションは過剰なほどに作っている。つまり、そのアクションが当然と思えるほど、登場人物の感情を高める必要がある」というふうに話していました。その点で気をつけたことは?
チャラン: たしかにセットだったりアクションだったり、僕らを取り囲むものはぶっ飛んでいて、撮影まで「これをどうやったら理屈の通ったシーンにできるんだろう?」と信じられないときもあって。でも僕らの演技について言えば、大げさではなく、ごく自然なんじゃないかな。そのバランスが取るのが、自分たちの役割だと思うんだ。
NTR Jr.: 超大作であると同時に、すごく繊細な作品でもあるんだよね。
チャラン: 個人的にも、理屈では飲み込むのが難しいのに、それでも納得してしまうような映画が好きなんだ。ラージャマウリ監督の作品は、いつも必ずそれに成功してて。
NTR Jr.: まるで魔法みたいだよね。まさにアルフレッド・ヒッチコックが言う、「Where drama begins, logic ends.(ドラマが始まったところで、理屈は終わる)」のいい例。ところでこれだけの予算があれば、最高のスタントマンを用意できるはずだけど、そんなことはなかったね(笑)。
チャラン: スタントマンいてほしかったなぁ、なんて(笑)。
NTR Jr.: ラージャマウリ監督は僕らをスタントマンのように扱ってさぁ……、っていうのは冗談! 監督はこだわりが強い一方、俳優の安全性をすごく重視しているんだ。実は僕らより先に、スタントを一通り監督自身が試して、安全を確かめてくれていて。だからこそ、監督はいつも僕らに自信をもって「君ならできる。心配するな。何も起こらないよ」って言うんだよね。
──その「君ならできる」という言葉を聞くと、お二人はスーパーマンになるわけですね。
二人: (笑)
チャラン: そのとおり!
NTR Jr.: いやいや、僕らは元々スーパーマンなんだ。ラージャマウリ監督はそのことを知っているんだよ。
──インド映画の表現スタイルは、ハリウッドをはじめ他の地域とは全く違った形で発展していてユニークです。そのことをお二人は、どのくらいから認識していましたか?
NTR Jr.: それはもう、物心がついたときから。というのは、僕ら二人とも芸能一家の生まれなんだ。チャランの父のチランジーヴィも、僕の父のナンダムーリ・ハリクリシュナや、祖父のN.T.ラーマ・ラオも、テルグ語映画界(※テルグ語を公用語とする、南東部のハイデラバード近郊が拠点の映画産業。「トリウッド」の通称で知られ、インドの映画産業としては、ムンバイが拠点のボリウッドに次いで2番目の規模を誇り、近年はラージャマウリ監督の活躍で名高い)のスターで、各時代で業界の発展に貢献してきた。そして今、僕らもその足跡をたどっていて。
“グローバルシネマの黄金時代”とでも言うべき、この時代に生まれたことは、本当に幸運だった。VODで幅広い作品を観られるわけだし、もう「ボリウッド」とか「ハリウッド」とか、映画を分けて捉えるのはやめよう。僕らが日本に来られたのは、日本のみなさんが寛大な心でドアを開いてくれたおかげ。逆に言うと僕らにとっても、日本映画は異質な存在ではないんだ。
チャラン: 本来は、“ワールドシネマ”がある。ただそれだけなんだよね。でも一方で、それぞれ独自のスタイルも持っていることも大事。真似し合うんじゃなくて、それぞれオリジナルの領域から、お互いの作品を楽しみ、体験し合うべきだと思うんだ。
NTR Jr.: アン・リー監督の『グリーン・デスティニー』(00)が東から西へのドアを開いたなら、ラージャマウリ監督の『バーフバリ』前後編(15・17)と『RRR』がインド映画を東西に進出させたといえる。こうしてインドの豊かな文化遺産を引き出すことができたのは、彼という偉大な監督がいてこそだね。
チャラン: 日本にも偉大な監督がいるよね。たとえば、『七人の侍』の黒澤明監督。実は、僕の従兄弟は彼にちなんで「アキラ」って名前なんだ。それくらい、家族ぐるみで大ファンなんだよ。日本に来られて本当にうれしいんだ。
『RRR』
舞台は1920年、英国植民地時代のインド。英国軍にさらわれた幼い少女を救うため、立ち上がるビーム(NTR Jr.)。大義のため英国政府の警察となるラーマ(ラーム・チャラン)。熱い思いを胸に秘めた男たちが“運命”に導かれて出会い、唯一無二の親友となる。しかし、ある事件をきっかけに、それぞれの“宿命”に切り裂かれる二人はやがて究極の選択を迫られることに。彼らが選ぶのは、友情か? 使命か?
A.ラーマ・ラージュ(1897 or 1898 – 1924)と、コムラム・ビーム(1900 or 1901 – 1940)。この実在したインド独立闘争の英雄同士がもし出会っていたら?という大胆な発想から誕生したスーパー・エンタテインメント巨編。
監督・脚本: S.S.ラージャマウリ
原案: V.ヴィジャエーンドラ・プラサード
音楽: M.M.キーラヴァーニ
出演: NTR Jr./ラーム・チャラン
配給: TWIN
2021年/インド/テルグ語、英語ほか/シネスコ/5.1ch
絶賛公開中
©2021 DVV ENTERTAINMENTS LLP.ALL RIGHTS RESERVED.
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NTR Jr.
1983年生まれ、現テランガーナ州ハイダラーバード出身。祖父も父も著名な俳優で、なおかつ政治家でもある芸能一家に生まれ育つ。1991年、祖父の監督・主演作で子役としてデビュー。2001年、S.S.ラージャマウリ監督のデビュー作『STUDENT NO.1』で主演しブレイクのきっかけをつかみ、同監督と再び組んだ主演作『SIMHADRI』(03)でテルグ語映画界のトップスターに仲間入り。『RRR』は29本目の主演作。
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ラーム・チャラン
1985年生まれ、タミルナードゥ州チェンナイ出身。父はテルグ語映画界のメガスター、チランジーヴィ。2007年に主演作『CHIRUTHA』で映画デビュー。S.S.ラージャマウリ監督と組んだ主演作『マガディーラ 勇者転生』(09)が、上映日数1000日を超える大ヒットを記録し、数多くの演技賞を受賞。一躍人気スターに。ヒンディー語映画『ZANJEER』(13)でボリウッドにも進出。『RRR』は13本目の主演作。
Photo: Asami Minami Text&Edit: Milli Kawaguchi