主演・西島秀俊さん×監督・大森立嗣さんのクライム・エンタテインメント・ムービー『グッバイ・クルエル・ワールド』。この映画で、赤い髪がトレードマークのワケあり青年を演じているのは、宮沢氷魚さんです。まるで静かな水面のような、いつものイメージとは真逆の、パンキッシュで破れかぶれな姿を見せています。その演技には、普段、国内外のニュースを観ながら抱いていた、あるもどかしさも反映されているそうです。
宮沢氷魚『グッバイ・クルエル・ワールド』に込めた思い。「ひどい現実も知った上で考えていかないと」
──まず、今回の映画に惹かれた部分を教えてください。
普段は僕、台本は時間をかけてゆっくり読むんです。何ページか読んで、ちょっと休んで、「こういう話なのかなぁ」って考えて、また次に行くみたいな。でもこの作品だけは、気付いたら読み終わっちゃってて。「ああ面白かったなぁ、やりたい!」と思いました。
それと、バイオレンス映画をやるのが初めてだったので、銃撃戦をどういうふうに撮るのかだけはイメージが湧かなかったんです。もちろんフェイクの銃に火薬を詰めてやるんですけど、「どれくらいうるさいんだろう? 意外と反動くるのかな?」とか考えて。その辺りが未知数だった分、新しい挑戦をできるのがすごく楽しみでした。
──宮沢さんが演じたのは、暴力団の資金洗浄現場として使われている、ラブホテルの従業員の青年・矢野です。
矢野はほとんど生きる希望を失っていて、別に怖いものもないし、もうどうにでもなれみたいな感じですよね。でもたぶん、すべてを諦めてはいなくて。だからこそ「生きたい」って思う瞬間もあると思ったんです。そこをどう表現しようかと考えました。
──トレードマークは赤のヘアカラーですね。
初めてのルックスだったので、多分びっくりする方も多いんじゃないかな?(笑)
──あのヘアカラーはどういうふうに決まったんでしょう?
衣装合わせのときに、(大森立嗣)監督から「矢野は言葉が立たなくて、自分の正直な気持ちをうまく口に出せない。でも何か主張したいことがあるから、髪を赤くしているんだという設定にしたい」と言われて、すごくいいなぁと。矢野の反抗心が、もちろん表情などからも窺えるんですが、パッと目に入った容姿からも感じ取れるわけです。
──今少し挙がった表情というのは、どういうふうに作っていましたか?
一番気を付けたのは、目のお芝居。何もかも諦めた人の目って、きっと輝きがないですよね。でも矢野を演じる中で、「彼は、この先の人生では報われるんじゃないか」って信じている自分もいて。だから目の奥に、強い輝きというか、意志みたいなものは持っていたいなと。監督に感謝したいんですけど、試写を観たら、矢野や、彼と結び付きがある美流(玉城ティナ)の瞳に寄ったカットを結構長めに残してくれていて。言葉がなくても、二人の憎しみや恨みや、「でも救われたい」という願いが感じ取れる。監督とも話しながら意識的にやっていた部分だったので、残してもらえていたことに喜びがありました。
──何か、「輝きがない目」のモデルはありましたか? たとえば映画のキャラクターとか。
「この人を参考にしよう」っていうのは、これと言ってなかったです。でもニュアンスは違うんですけど、撮影中に一つ考えていたことがあって。ニュースで、重犯罪を犯した人が拘置所に移送されるのを観ているときとか、一番気になるのは目なんですよね。それだけ目は多くを語るんだっていうのはずっと思っていて。そういった、いろんな要素を組み合わせてやってみました。
──終盤に、矢野がカーステレオからEDMを流して踊りながら、雄叫びを上げるシーンがありますよね。宮沢さんご自身は落ち着いた雰囲気なので、ギャップで印象に残っているんですが、ああいう激しさも自分の中にはあると思いますか?
んー、ありますね。たまりにたまって爆発させたくなることもあるし。できる限り自分で解決したいほうだから、あんまり誰かに全部を話したり、助けを求めたりはしないんです。だからそれがたまってきて、ワーってなるときはあります。
──だからってもちろん、矢野のように非行に走るわけじゃなく(笑)。
全然、そういうことではないです(笑)。
──そうなると今回見せたような演技を通して、たまった感情を発散できたりも?
や、いいですよ(笑)。ああやって思いっきり叫んだり、銃をバンバン撃ったり、日常生活では絶対にできないようなことができるので。役者の醍醐味の一つじゃないかなって思います。
──今回の映画は、ファンクやソウルをフィーチャーした音楽もかっこいいですね。
かっこいいですよね。オープニングでファンキーな曲(Bobby Wamack『What Is This』)がかかる中、車が角を曲がってこっちに走ってくる感じとか。要所要所でファンクやソウルが流れると、心なしか絵もよりスタイリッシュに見える。目だけじゃなくて耳も楽しいというか、いろんな感覚が刺激されますよね。
──はい、気持ちが上がります。
上がりますね。全然上がるようなシーンじゃないのに、音楽が流れると「おっ」となったり。キャラクターたちの心の叫びが、音楽からも感じ取れるので。
──音楽じゃなくても、映画や小説でもいいんですけど、反骨精神を感じて好きな作品はありますか?
音楽とかかぁ。これと言って思い付かないんですけど……。
──1976年にイギリスで結成されたロックバンド・ポリスがお好きだそうですね。反骨精神とは少しズレるかもしれませんが、ヴォーカルのスティングは政治的なメッセージを積極的に発信してきた人ですよね?
たしかに、曲の中に強いメッセージを残しているということにおいて、ポリスにしても、ソロのスティングにしても、すごく影響を受けてます。昔の音楽や映画って、今よりもずっと強いですよね。貧しい時代や地域ほど、市民が革命を起こそうとしたり、政治に興味を持つもの。今の日本では、経済が比較的安定しているせいか、若い人に昔ほど社会への不信感みたいなものがない気がして。今回の映画が、そういう現状を考えるきっかけになればいいなと思います。
──今の社会に向けたメッセージも読み取れる作品でしたね。
三浦友和さん演じる、元政治家秘書で肉体労働者の浜田が言う、「なんで誰も逆らわねぇか分かるか? 金を吸い上げてる連中は国とつるんでるからだよ。政治家なんか『格差、格差』って騒ぐだけで、実際はなんにもしねぇだろ?」っていうセリフがありますよね。そういうことが実際に起きているのに、多くの人は見て見ぬふりをしていて。この映画が、改めて今の社会について考えるきっかけになるといいなっていうのも少し思います。
──そういえばさっき「輝きがない目のモデルは?」と聞いたとき、ニュースの映像を挙げていましたよね。つまり宮沢さんは演技のインスピレーションを、音楽や映画などカルチャーからというより、ニュースなど現実から得ているんですね?
ああ、そうですね。ニュースは結構リアルタイムで観てます。やっぱり僕たちも“今”を生きていますし、それが一番スッと自分のものになるような気がして。特に僕は海外のニュース番組、CNNとかBBCとかも日常的にチェックしていて。たとえば戦争のニュースだと、中にはとてもじゃないけど直視できないような、生々しい映像もあるんです。それでも努めて観るようにしています。せっかく最新の情報を追える時代になったんだから、観られるんだったら観たいと思って。ニュースですべてを取り上げているわけじゃないのも分かってるんですけど、今でも世界各地でひどいことが起こっていると知った上で、個人としても俳優としても、いろいろ考えていかないといけないと思ってます。
『グッバイ・クルエル・ワールド』
夜の街へとすべり出す、水色のフォード・サンダーバード。カーステレオから流れるソウルナンバーをBGMに交わされるのは、「お前、びびって逃げんじゃねーぞ」と物騒な会話。互いに素性を知らない、一夜限りの強盗団が向かうのは、さびれたラブホテル。片手にピストル、頭に目出し帽、ハートにバイオレンスで、ヤクザ組織の資金洗浄現場を“たたく”のだ。仕事は大成功、大金を手にそれぞれの人生へと戻っていく。──はずだった。ヤクザ組織、警察、強盗団、家族、政治家、金の匂いに群がるクセ者たち。もはや作戦なんて通用しない。クズ同士の潰し合いが始まる。最後に笑うのは誰だ!
監督: 大森立嗣
撮影: 高田亮
出演: ⻄島秀俊、斎藤工、宮沢氷魚、玉城ティナ、宮川大輔、大森南朋、三浦友和、奥野瑛太、片岡礼子、螢、雪次朗、モロ師岡、前田旺志郎、若林時英、青木柚、奥田瑛二、鶴見辰吾
配給: ハピネットファントム・スタジオ
9月9日(金)全国公開
©2022『グッバイ・クルエル・ワールド』製作委員会
🗣️
宮沢氷魚
1994年生まれ、アメリカ出身。ドラマ『コウノドリ』(17/第2シリーズ)で俳優デビュー。以後、ドラマ『偽装不倫』(19)、NHK連続テレビ小説『エール』(20)などに出演。初主演映画『his』(20)にて数々の新人賞を受賞、また映画『騙し絵の牙』(21)では、第45回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞した。現在、NHK連続テレビ小説『ちむどんどん』に出演中。今後は映画『エゴイスト』(2023年2月公開予定)、『THE LEGEND & BUTTERFLY』(2023年1月27日公開予定)の公開が控えている。
Official Web: hio-miyazawa.com
Photo: Wataru Kitao Stylist: Masashi Sho Hair&Makeup: Takuma Suga Text&Edit: Milli Kawaguchi