常に新たな才能とコラボレートし、アートコレクターでもあるジョナサン。渋谷パルコでの〈JW アンダーソン〉の店舗オープンを機に来日した彼に突撃取材を敢行。惹かれる作家と、クリエイターを支援する理由を聞いた。
ジョナサン・アンダーソンさん、いま気になるクリエイターは誰ですか?
「私にとってアートとは、デジタルに対する解毒剤のようなもの」

〈JW アンダーソン〉や〈ロエベ〉において、その類稀なクリエイティビティで常に私たちを驚かせてくれるデザイナー。ジョナサン・アンダーソンはまた、若手クリエイターとの積極的な協働でも知られている。2016年に始動した、気鋭作家を表彰する「ロエベ クラフト プライズ」も、クリエイティブ・ディレクターのジョナサンが旗振り役となったプロジェクトだ。彼個人も、今年ロンドンのギャラリーで展示をキュレートするなど、ファッションの枠を越えて活動している。
取材現場に現れた彼は、まず、〈コーニッシュウェア〉とのコラボレーションのカップでブラックコーヒーを一杯。連日のハードスケジュールで疲れ気味にも見えたが、「今注目しているクリエイターは?」と一言投げかけると、まさに才気煥発。スラスラと、そしていきいきと答えが返ってくる。
「気になっている作家で真っ先に思い浮かぶのは、パトリック・キャロル。ニットに文字を編み入れ、言葉の意味を再構築している人です。それからメアリー・ステフェンソン。彼女の作品は素晴らしくて、私的に購入したこともあります」
Patrick Carroll
ニットを表現媒体にして
言葉の意味を問い直す
〈JW アンダーソン〉の2023年春夏コレクションのショーでインスタレーション(写真1枚目)を行ったのが、1990年生まれのパトリック・キャロルだ。手編みもしくは1970年代の編み機で制作し、アメリカ文学や詩に着想した文字をニットにのせる。ジョナサンとのコラボレーションをきっかけに制作スタイルの方向転換をし、ニットをキャンバスに見立てたフォーマットの作品を手がけ始めたという。壁かけされるピースには、服とはまた違う緊張感が漂っている。
Mary Stephenson
巧みな構図とポップな色で
新シュールリアリズムへ
メアリー・ステフェンソンは1989年ロンドン生まれ。みずみずしい感性で、一度見たら忘れられない世界を展開する。誰もいない食堂に取り残された椅子(写真1枚目)といった、既視感がありそうなシーンを描くこともあれば、おとぎ話風の家々(写真2枚目)を登場させたり、長い髪を濡らす女性や布の下を通る腕といった少し奇怪なモチーフ(写真3枚目)も取り上げたりもする。かわいらしい色使いに油断していると魂を持っていかれてしまいそうだ。
Photo_Kenya Sugai (Jonathan) Text_Motoko Kuroki