時代の顔となる俳優やモデルたちのヘアスタイルを作ってきた松浦美穂さん。一方で、真摯に環境問題に取り組み続けている。その原動力や新たな挑戦、私たちが今すぐできることについて聞きました。
パンクな精神とともに取り組むサーキュレーション
TWIGGY.松浦美穂さんに聞く

🗣️
松浦美穂
まつうら・みほ>> 「TWIGGY.」主宰、〈YUMEDREAMING〉クリエイティブ・ディレクター。福岡県出身。1990年に現在の礎となるヘアサロン「TWIGGY.」を始動。ヘアスタイリストとしてサロンワークをベースに雑誌・広告・映画、ドラマなどを手がけるほか、地球環境に配慮したオリジナルのヘアケア製品を展開。
作りたいのは自然と人の
調和を探求できる場所
神宮前のサロンの電力は100%自然エネルギー。率先してアクションを起こしてきた松浦さんが環境や社会問題に目を向けるきっかけは、80年代後半、28歳でロンドンに渡ったことだった。
「当時からイギリスはあらゆる面でサステイナブル。ボロボロの〈ドクターマーチン〉を何回も修理したりして、みんながものを長く使う生活を送っていました。また、さまざまな人種が暮らすダイバーシティだったため、人権問題や性差などのボーダーをどう乗り越えるか、常にディスカッションがなされていました。その頃の日本はバブルに差しかかっていて、なんでも捨てて新しく買ってという風潮。個人の権利もあまりフォーカスされていなかったのでギャップに驚きましたね。いろんな意味で人間らしいライフスタイルに触れ、出産を経験し、こういう暮らし方こそ真っ当なのかもしれないと考えるようになりました」
帰国後にオープンさせたサロンは、「TWIGGY. your sanctuary」と名づけた。サンクチュアリは本来、聖域の意味だが、飛び回っていた鳥が最後に帰る場所(bird sanctuary)のように、美しいものを求める人が戻ってきたくなる場所、また自分の原点に戻りたいときや旅立つ勇気が欲しいときの聖地でありたい、そんな想いが込められていた。美容院といえばバリバリに装う場所と認識されていた90年代初頭の東京にあって異例のコンセプトといえる。
「ヨーロッパで体感した、みんなが幸せではじめて自分もハッピーでいられるんだという感覚から、お客様も働くスタッフもホッとできて、自然と人、心と体、頭皮と髪の調和を探求できる場を作りたかった。今、サロンのビルの屋上にソーラーパネルを設置して自家発電を始動しています。また、併設の『ツイギー・カフェ』ではオーガニックメニューを提供し、ウィッグが必要な子どもたちに向けヘアドネーションなどに取り組んでいますが、どれもまったく同じ意図からです」 無農薬で始めた米作りは今年で15年目。サロンの屋上でも野菜やハーブ、四季の花々をはぐくんでいる。土と向き合い、植物を栽培する行為を、肩肘張らずに日常に取り入れてきた。
「見えてきたのは土壌がよくなければ、植物は元気に育たないという事実。しっかりと耕さず、化学物質が蓄積してしまった土からは、生き生きした美味しい野菜は生育しないのです。つまり、〝育てる〟ためにまず必要なのは浄化。そしてそれは、頭皮と髪の関係にもよく似ています。多くのお客様に接してきましたが、カットラインが生きる美しい髪は、土台となる頭皮が健康でないと成り立ちません。では、スカルプを整えるとはどういうことか?まず大切なのは、毛穴に詰まりやすく、地肌に栄養分が浸透するのを阻害するシリコンやカラー剤を取り除くこと。そこでデトックス効果がある素材を探し、専門家の意見も取り入れた末に私たちがたどり着いたのは、ベントナイトなどの天然のミネラルでした。有害なものを吸着する力が期待でき、東日本大震災後、汚染された土壌を浄化する目的でも注目された物質です」
プロダクトには国内での消費量の低下によって廃棄が問題となっている、米の粉やもみ殻、たけのこの皮、国産ハーブなどの天然由来成分を積極的に取り入れている。生産者をサポートし生態系にも負荷を与えない製品を目指してきた。
「ハーブを栽培してくださっているファームにも足を運んでいますし、なるべく自分の目で確かめられる身近なものを使いたいと思っています。また、2020年からは、米粉を配合したヘアワックスとヘアクレンジングクレイなどの売り上げの一部を『特定非営利活動法人・ジャパンハート』に寄付しています。この団体は、乳児死亡率が高い東南アジアの子どもたちを救うべく、医療を届ける活動を行っている。さらに、メディカルケアに携わる現地の人材を育成したり、日本国内での災害時には率先して医療従事者を被災地に派遣するなど、多面的にポジティブな循環を生んでいて、共感できる点が多くあります」
Photo_Hikari Koki Text&Edit_Chihiro Horie