ボリウッドを思わせる伝統衣装に身を包んだ女性たちがファイティングポーズをとる──。そんなインパクトあるポスターも目を引く、型破りなシスターフッド・アクション・ムービー『ポライト・ソサエティ』(8月23日公開)。スタントウーマンを夢見るパキスタン系イギリス人の主人公リアをはじめ、愛すべきズッコケギャルたちが大活躍を見せるエンタメ性満点の一作だ。長編映画初出演にして初主演を飾った新星、プリヤ・カンサラに話を聞いた。
『ポライト・ソサエティ』主演のプリヤ・カンサラにインタビュー
映画の女性像をアップデートする異色アクション「学校一の人気者でなくても優等生でなくてもいい」
——ニダ・マンズール監督は、ドラマシリーズ『絶叫パンクス レディパーツ!』(21)で高い評価を得た方です。この作品は観ましたか?
たしか今回の映画『ポライト・ソサエティ』のオーディションを受ける直前に観て、もう大好きになりました。ニダは新鮮でエキサイティングな脚本を書く人なんだとわかり、一緒に仕事できたらいいなって。このドラマで描かれていたのは、ムスリム女性の多様性です。物語の中心にいるロンドンのパンクバンド「レディパーツ」の個性豊かな面々は、実にさまざまなタイプの女性像を体現しています。群像劇をうまく表現するのって難しいと思うんだけど、ニダは慎重にそれをやってのけました。
——プリヤさん演じる主人公リアは、ロンドンでパキスタン系イギリス人のムスリム家庭に生まれ育った、スタントウーマンを目指す女子高生。姉を守るため、全身全霊で戰いに身を投じるさまなどが、南アジア系の女性キャラクター像として新しいと評価されていますが、ご自身としてはどう捉えていましたか?
脚本を読んだ時、たしかにリアや仲間たちのエネルギッシュな描写を新鮮に感じました。映画の文脈において、こういう女性キャラクターはあまり観たことがなかったから。でも同時に、身近にも感じたんです。なぜって実人生では、リアみたいな女性たちを十分に知っていたので。リアのことは、撮影初日から生き生きしていると感じました。その上、本作にはユーニス・ハサートのような大物も本人役で参加していて。スタントウーマンとして業界に大きなムーブメントを起こした彼女に、リアが憧れるのは当然のことだと思います。
——役に共通点は見出せましたか?
はい。リアがスタントウーマンなら私は俳優と、同じように一般的ではなく安定しているわけでもない仕事を志してきたので。彼女の反抗心や決意は、ある意味で自分と似ていると思うんです。夢を追い、それ以外には何も望まない、そんな姿にとても共感しました。
——リアは学校でイケていないグループに属している上、特に勉強ができるわけでもなさそうだし、スタントの才能があるのかどうかさえ、ラストまで私たち観客にはわかりません。そんなふうに、かなり冴えない主人公がフェミニズムの闘士として立ち上がるところに面白みを感じました。
わあ、そんなふうに考えたことはなかったけど、言われてみたら本当ですね。私たちは誰もが特別で、自分で自分をクールだと感じたり、スーパーヒーローのように捉えたりするのに値する存在なんだということを思い出させてくれる映画だと思います。学校一の人気者でなくても、優等生でなくてもいい。世界一のスタントウーマンになる必要もない。ただ努力してさえいればいい。それだけで自分の人生の主役になれるんだから。素晴らしい見方だと思います。
——リアの唯一の理解者は、アーティスト志望の姉リーナ(リトゥ・アリヤ)。そんな姉が突如、富豪のハンサムな一人息子と結婚することに。彼の一族に不審な気配を嗅ぎ取ったリアは独自調査の末、彼らのとんでもない陰謀を知り、姉を救うべく結婚式を阻止しようと決心します。この過程において、リアがバトルを繰り広げる強敵は全員女性です。そのことはどう捉えていましたか?
女性と女性が戦うアクション映画なんですよね。このジャンルで男性が活躍する作品はもう十分にありますから。これも、女性の在り方がいかに多様であるかを示す素晴らしいショーケースだと思います。女性、とりわけムスリム女性は長い間、社会の言うとおりに生きる、繊細で善良な人たちとされてきました。ニダはすべての固定観念を切り離し、「いいえ、そうではない」と宣言したんです。女性だってスーパーヒーローにもヴィランにも、何者にだってなれる。そんな一本筋が通った物語ながら、楽しいアクション・エンタテインメントとして成立しています。
——特に難しかったアクションはありますか?
正直、初めての経験だったから、全体的に難しかったです。とりわけ回し蹴りには苦労しました。うまくできるまで練習を繰り返したりして。あとは劇中で断片的に描かれている、リアが空手道場で男子を相手に試合をおこなうシークェンス。唯一ワイヤーなしのアクションだったし、1テイクごとに丸ごと演じ直さなければならなくて。かなり激しい撮影でしたね。
——リアが姉の伴侶の母親で、最大の敵であるラヒーラ(ニムラ・ブチャ)と初めて全面対決するシーンが印象的です。まさかのスネの脱毛をさせられるさまが、痛そうですが笑えました。
半分冗談ですけど、これが自分の仕事だなんて信じられない、そんなシーンでした。実際の脱毛ワックスを使うのではなく、ハチミツで代用したんだけど、それでも粘着性はあるから、撮影後は脚がベタベタして気持ち悪かった……。と同時に、私も演じていてホントにおかしかったです!
——姉の結婚式でリアが踊る場面があります。元ネタはインドの恋愛映画『デーヴダース』(02)のダンスシーンで、使われるのは「Maar Dala」というヒンディー語の楽曲です。元ネタをどう参考にしましたか? あるいはそこからどう変わりましたか?
『デーヴダース』でダンスを披露したマドゥリ・ディークシットは、素晴らしい女優でありダンサーです。表情や仕草が、実に豊か。こっちの作品でも同じように、リアの表情がとても重要でした。彼女は姉の結婚相手サリム(アクシャイ・カンナ)を威嚇し、姉を奪還しようと決意していて。両作で描かれる感情はまったく別だけど、ダンスのスタイルや表現は鏡写しになっています。異なる部分でいえば、リアのダンスにはマーシャルアーツの要素が取り入れられていること。彼女は武道家なので、優雅に踊ることよりむしろキックを好むし、サリムに向かって頭に銃を突きつけるようなポーズさえとります。そして最後は、映画『マトリックス』(99)を思わせる手つきで締めくくるんです。きっとこの映画はリアにとって大切で、アクションスターの真似をしたかったんでしょうね。
——『デーヴダース』のマドゥリ・ディークシットと同様、結婚式のシーンでプリヤさんはグリーンの伝統衣装を身にまとっています。彼女の姉リーナもグリーンエメラルドのウエディングリングをはめていますが、南アジアにおいて特別な色なんでしょうか?
リングについては多分、たまたまじゃないかな。ドレスについては今言ってくれたように、リア自身が『デーヴダース』のダンスシーンを完璧に再現したかったからだと思いますね。だって、彼女は映画に目がないから。南アジア系のコミュニティでは、特別な日には必ずカラフルな衣装を着て、ブラックなどの暗い色は避けます。劇中でも、結婚式のシーンにはあらゆる色があふれていますよね。その中でもグリーンは目立つし美しい。宗教的に神聖な色だし、パキスタンとインドの国旗にも使われていて、いろんなつながりが考えられるとは思うけど、正直なところ今回は『デーヴダース』が主な理由でしょうね。
[衣裳クレジット] ドレス ¥132,000(アツシ ナカシマ|ザ・PR tel_03-6803-8313 )/イヤリング、ネックレス*ともに参考商品(ブルータワン|ブルータワン instagram_@blueta1handmade)/ブレスレット*参考商品(ユー|ユー web_selectyuu.thebase.in)/その他*スタイリスト私物
Photo_Eri Morikawa Styling_Yasuhiro Chiba Hair & Make-up_Yoko Yoda Text&Edit_Milli Kawaguchi