日本でも話題に上がることも多くなってきたサステイナブル(※持続可能なという意味)。私たちも傍観しているわけにはいきません。
大好きなファッションをいきなり全部サステイナブルなものに切り替えるのは中々難しいですが、日々の生活で出来ることから始めようと決心しました。不要なものを削ぎ落としていくことでミニマルなライフスタイルにもなるし、一石二鳥です。まだまだ勉強中ですが、私が取り組んでいることを皆さんにシェアしたいと思います。前回の記事:vol.13 なぜオーガニックなのか。
スタイリスト・木村舞子さんと一緒に、サステイナブルライフへの道!vol.14 なぜオーガニックなのか 2
スタイリスト・木村舞子さん
木村舞子的、サステイナブルライフへの4か条・不要な包装を断る
・プラスチック製品を極力避ける(プラスチック製品の中には健康に害があるものも!)
・より環境や身体に優しいものを選ぶ (切り替える)
・菜食を心がける
Vol. 14 なぜオーガニックなのか vol.2
前回の記事で食に関するオーガニックの話をしましたが、もう一つ忘れてはいけない、農産物がありますよね?そう、コットンです。特にファッション業界で仕事をしている私にとっては身近な素材です。
環境問題への意識が高いブランドでは早々にオーガニックコットンを取り入れているし、最近ではオーガニックコットンを目にする機会が増えたとも思っていました。ですが実際のところはあまり広まっておらず、これまでと変わらない一般的な慣行栽培で作られたコットンの割合がほとんどなのだそう。
今回は”YAGIthical”というエシカル活動に取り組む部門を持っている繊維商社YAGIの杵淵さんにお話をうかがって、学んだ内容を皆さんにシェアしたいと思います。
まず、根本の話をしたいと思います。コットンがオーガニックである必要があるのかどうか。コットンというのは食べ物と違って私たちの健康に必ずしも直結しないので、私自身も“まぁオーガニックの方がいいとは思うけど、そうでない製品でもあまり気にせずに買う“という場合がほとんどでした。
ですが、コットンも野菜や穀物などと同様に慣行栽培の工業的な栽培方法では、単作による土壌の劣化(砂漠化)や、農薬・化学肥料などによる環境汚染、水の大量消費が深刻な問題になっています。地域によっては灌漑のために地下水を過剰に汲み上げるため、地下水の枯渇を招いています。また、アメリカやトルコなどは大規模な農場での栽培を行っていますが、インドなどでは小規模な農家が多いため、農薬による生産者への健康被害や児童労働、低賃金などの問題もあります。
慣行栽培のコットンの種は農薬への耐性や収量を増やすため、ほとんど遺伝子組み替えなんだそうです。そして種子と農薬はセットで売られています。ただ、その種子自体が非常に高価で、農薬や化学肥料も買わなければいけないのでコストが非常にかかります。そのため農家は十分な対価を得られていないのが現状です。
しかしながら、慣行栽培で作ると収量が多いということに加え、地域によっては市場にオーガニック種子が出回っておらず、入手が容易ではないため、世界中で生産されているコットンの殆どは未だ慣行栽培なのです。
オーガニックコットンならば農薬や化学肥料を買う必要はなく、種子も遺伝子組み替えのものに比べて安価なんだそう。農薬や化学肥料を使わないので、同じ土地で農家の食料や収入源となる作物も育てることができます。また前回紹介したROのように土壌環境を回復していく農法で育てれば様々な利点も得られます。さらにコットンはものすごく水を使うというイメージがあると思いますが、それはかなり古いデータに基づく話で、今やオーガニックコットンの多くは雨水のみだったり、非常に少ない量の灌漑で栽培できているそうです。
食べ物同様、オーガニックだと高いというイメージがあるかもしれませんが、実はコットン自体の市場価格は一部の特殊な種類の綿以外、オーガニックも通常のコットンもほとんど変わらないんだそうです(これに関してはオーガニックの農家を支援するために価格を上げるべきだとは思うのですが)。
写真は夏にパタゴニアで買ったROのコットンTシャツ。
Patagoniaはいち早くコットンの生産背景の問題に気づき、1996年からコットン製品の全てをオーガニックに変えています。2018年からはROでのコットン栽培を150の農家と共にスタート。現在では2200を超える生産者が参加していて、引き続き成長し続けています。しかしその一方で、予想以上にオーガニックコットンの広まりが薄いことから、最近では他の企業や業界全体に働きかけるためコンバージョンコットン(有機栽培はされているかまだ認証を受けていない変換中もの)なども使用するようになったそうです。
ベストなのはROやオーガニックコットンですが、コンバージョンコットンやベターコットン(オーガニックでは無いが、減農薬などで環境負荷を極力抑えているもの)などの選択肢もあるのです。
オーガニックコットンを広めていくには地域や農家の支援も重要だそう。
YAGIthicalも参加しているPEACE BY PEACE COTTON PROJECT(以下、PBP)はインド産のオーガニックコットンを使用したアイテムに基金をつけて販売し、現地で生産者支援を行うNPOのChetna Organicを通じて農家への有機農法への転換支援や子供たちの就学、奨学をしている財団です。2008年からスタートし、2019年までに約1万5000世帯の有機農法への転換支援を実現しました。
その中で支援地域のコットンに寄付金をつけて購入し、紡績したオリジナルの糸(PBP yarn)を展開するYAGI独自の支援も行なっています。この寄付金はオーガニックコットンの種子を買うためと、生産者支援に活用するものです。
コットンの質についてはどうでしょうか?私は何となくオーガニックの方が肌に優しく、ナチュラルなカラーのものが多くて、柔らかくて繊細な素材というイメージがありました。ですが実際はそこは加工の問題でコットン自体の質はオーガニックも慣行栽培もほとんど変わらないんだそう。
つまり“オーガニックコットンだからこの風合いは出ない”とか、“オーガニックだと色が(デザインに)合わない”というようなことはないわけです。
実際にステラマッカートニーは2008年からオーガニックコットンを採用していて、その他のメゾンブランドでも積極的に使用されるようになってきているので、オーガニックコットンであってもラグジュアリーブランドで採用できるような上質な素材を作ることができます。
ただ、せっかくオーガニックコットンでも、加工の段階で大量の化学薬品を使う場合も。たとえばYAGIのグループ会社のツバメタオルでは、化学薬品を使うのが一般的だったタオル製造の工程を見直し、1998年からより環境や安全面に配慮した「有機精錬加工」というものを採用しています。有機精錬加工では生地を織る前の糸の段階で使用する糊にじゃがいもの成分を使った天然糊を使用したり、織り上げた生地を洗う際には酵素と植物性石鹸を使用しています。漂白には過酸化水素漂白剤を使い、仕上げには柔軟剤として大豆イソフラボンを用いることで自然環境と人体に配慮しています。
YAGIではこのツバメタオルと協力してPBPのオーガニックコットンをメインに使用したUNITO ORGANICというタオルを作っています。
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オーガニックコットンを選ぶ利点が多くあるのにも関わらず、現状生産されているコットン全体の中でオーガニックはたった1%以下しかありません。やはり需要をもっと高める必要がありますよね。
実は洋服についている品質タグにはオーガニックであるかどうか記載する義務はないので、いずれもコットンとだけ表記されています。見分ける目印の一つとしてはGOTS(Global Organic Textile Standard)というオーガニックテキスタイルの世界基準があります。これは製品の原料の70%以上がオーガニック。さらに加工・製造・流通の全てにおいて環境的かつ社会的に配慮がされていることを表します(マークにはいくつか種類があり、記載されている内容によってオーガニック繊維のパーセンテージが異なります)。
あとはもし気に入っているブランドがどんな素材を使っているかわからなければ、「コットンはオーガニックですか?」と問い合わせることで消費者の需要を伝えることができるかもしれません。
コットンにおいてオーガニックを選ぶかどうかは、消費者である私たちがどのくらい環境や人のことを考えられるかにかかっています。オーガニックコットンのことを調べる中でNudie Jeansの取り組みを見つけたのですが、Nudie Jeansの製品に使用されているコットンは全てオーガニック。HPにこんなことが書いてありました。「どちらを選ぶかは、考えるまでもありません。常識をわきまえればよいだけです。」
量や利益を重視するあまり、いつの間にか工業的に大量に作られるコットンが私たちの“普通”になってしまっています。でもそれをいつまでも続けることはできないと思います。買い物は投票。買う側が正しい知識を持って選ぶことでオーガニックを私たちの“普通“にしていけるのではないでしょうか?
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木村 舞子
百々千晴氏に師事し、独立後は雑誌や女優のスタイリングを手がける。ベーシックアイテムを主軸としたスマートなスタイリングが得意。
Instagram: @maiko.mu