“可愛い”を追い続ける〈ジルスチュアート ビューティ〉と作家・柚木麻子が紡ぐメッセージ。 エンパワーする女性たちの背中をそっと押してくれる全6話の連載物語。
Sisterhood with JILLSTUART Beauty × 柚木麻子 vol.5『ローズマリーと雪のかおり』

vol.5 『ローズマリーと雪のかおり』
二日前、外に出たのは、自分のためというより、彼女のためだった。私たちの住むそれぞれのビルに挟まれた通りは薄い雪で覆われていて、私はそこを去年買ったブーツで踏みしめた。ピカピカのままずっと靴箱に眠っていたそれが雪水で濡れてしまうのは惜しかったが、そんなことより、今は記憶の中にぼんやり浮かぶ、あの小さな花屋さんを目指すことを優先したかった。久しぶりに髪をアレンジし、赤葡萄色の口紅を塗った。
——クリスマスはお互い何か元気になれるようなものをプレゼントし合おう。
ここ数日で彼女の周辺はこれまでにも増して騒がしくなっている。彼女が振り付けを担当したアイドルの動画がふとしたきっかけでアメリカで人気となり、ここ最近の日本女性の地位がいかに低いか、いかに日々危険な目に遭っているのか、というニュースとも合わさって世界中に拡散されているのだ。
今は花がいいのではないか、と彼女の方から提案した。
——この一年、外に出てないんだよね?植物の香りや手触りがそばにあると、気分が変わるかもしれないよ。
本当にその通りだった。私の部屋にさっき届けられたたくさんのアレンジメントは、薔薇やラベンダーなど暖色系の花を中心に、パチョリやローズマリーの緑がさわやかに差し込まれている。胸いっぱいに吸い込むと、ずっと眠っていたあちこちの感覚が一斉に開いていくような気がした。申し合わせたわけではないのに、向かいの彼女の部屋から見える私が選んだ花は、銀木犀やウィンターコスモスなど白くひんやりした質感のものばかりで、LINEで通話しながら、私たちは笑いあった。
——私はプロに任せたけど、これ自分で選んでくれたの?フラワーアレンジメントの勉強したことある?色の取り合わせとか、バランスがすごくプロっぽい。
彼女がそう尋ねるので、私は驚いた。アパレル接客業という職業柄、カラー診断や素材の知識はあるけれど、花に関して本格的に学んだことなどない。
彼女は急に真面目な口調になった。
——こういう仕事していると、公演の度に自分の名前入りで大きなお花を贈るでしょ?贔屓にさせてもらってるフラワーギフトショップ、たくさんあるんだ。よかったら、関係者を紹介しようか?最近は、オンラインでのギフト需要が増してて、顧客とメールでやりとりしてその人ぴったりのブーケを作るオーダーなんかも増えているんだって。それなら、人に会わなくてもできそうじゃない?
空からひとひら雪が降ってきた。その甘い水と枯葉を合わせたようなにおいは、ローズマリーの香りと溶け合って、なんだかここが深い森であるかのように感じられた。
(次号に続く。第四話はこちらから。)
柚木麻子
ゆずき・あさこ
作家。1981年東京都生まれ。2010年『終点のあの子』でデビュー。『ナイルパーチの女子会』(/山本周五郎賞受賞)、『BUTTER』(17)など、シスターフッドを綴る作品には多くの女性ファンが。母校の創始者・河井道の生涯を描いた最新刊『らんたん』(小学館)発売中。「サイン本をめっちゃ作るとバリカタの豚骨ラーメンが食べたくなります」とTweetより。
みずみずしい7種の草花から生まれたのは
眩いプリズムの香り
15周年という記念すべき年に新しく誕生した、きらめきを最大限に引き出す“光”のフレグランス。ローズ、オスマンサス、ミモザ、ローズマリー、ラベンダー、イリス、パチョリ。7色の草花の香りが重なり合い、柔らかく甘いノートが宝石の ようにあなたを輝かせるはず。ジルスチュアート ブリリアントジュエル オード パルファン 50ml ¥8,800/30ml ¥6,600(ジルスチュアート ビューティ)