東京の街を舞台に、人が恋に落ちる瞬間をスクラップしたショートストーリー。
江本祐介が東京の恋を描く『QUIET TOWN OF TOKYO Vol.4』

仕事が終わり、駅から家までの道のりはいつもコンビニに寄ってその日の気分に合ったホットスナックと酒を買っている。コンビニから線路沿いに十分ほど歩き、寂れた歩道橋を過ぎた少し先に家がある。ここ最近はだいぶ涼しくなって来たがこの微妙な距離を夕日に照らされ歩いているとまだじんわりと汗ばんでしまう。
ある日いつものようにファミチキと氷結を二本買い、線路沿いに家路を辿ると歩道橋の上にゆらゆらと揺れている女の人影が見えた。怖い!と思ったが少し考えてるうちに心配になってきたので階段を一気に上がり一心不乱に揺れている女性に声をかけた。
「あのー」
「あ、え?なんですか?」
女性はイヤホンを外して恥ずかしそうに答えた。
「いや、落ちたら危ないなぁと思って」
外したイヤホンをくるくるとiPhoneに巻きつけてカバンにしまいながら彼女はここで何をしていたかを教えてくれた。彼女の話によると最初は歩道橋から見える景色が気になり試しに上がってみたら、意外と良い景色と人通りが少ない事に気づき、仕事終わりにいつも寄っているとのことだった。
「最近は居心地よくってこの景色に合う音楽探して聴くようになっちゃって」
彼女の話を聴きながら辺りを見渡した。中野駅も反対側の高円寺駅もギリギリ見えるか見えないかの距離だ。夕暮れてゆく空は東京で見た空で一番広く感じた。
「ここ初めて上がったけど意外と広いんですね」
「そう、そうなんですよ」
「ちなみに今は何聴いてたんですか?」
iPhoneの画面を見せてくれたが知らない洋楽だった。
「聴いてみます?超合いますよ!」
急にパッと明るい表情になった彼女はiPhoneからイヤホンを抜いて再生ボタンを押した。流れて来た音楽は意外にも古いディスコだった。が、すごくこの景色に似合っていた。
「わーいいですねぇ」
「音楽も良いんだけど、ここから人間観察するのも面白くって。お兄さんいつもコンビニ袋ぶら下げててなんだろと思ってたけど大体想像通りだったなぁ」
彼女は笑いながら僕がぶら下げているコンビニ袋に目をやった。
「いつも見られてたのか……。あ、せっかくだし飲みます? 氷結ですけど」
「飲みましょう!飲みましょう!」
少しずつ日が暮れて辺りが暗くなってくると中野駅の方の灯りが東京の小さな夜景に様変わりしてとても綺麗だった。
「いっつもあの電車に揺られてるけど上から見るのは初めてかもなぁ」
と僕が言うと彼女はウンウンとうなずきながら飲み干した氷結の缶を一旦足元に置き、iPhoneからまた別の曲を流して
「あの中に人がぎゅうぎゅうに押し込まれてるの東京って感じですよねぇ」
と言いながら高円寺の方の手すりをリズムに合わせて叩いていた。 「これはこの時間に似合いますね。そうだ!明日もここいます?」
もちろん!と胸を張って答える彼女に笑ってしまった。
「そんじゃあ明日は僕がこの景色に合うの選んできます。結構僕音楽詳しいんですよ!」
「アースも知らないのに!?」
彼女は笑いながらリズムに乗って揺れていたが跳ねたり回ったり変な踊りなので僕はまた笑ってしまった。
帰り際に今日流していた曲を教えてもらい、脳内再生しながら誰も見てないのを確認して家までの少しの距離をリズムに乗りながら帰った。
江本祐介
Yusuke Emoto
1988年生まれ。作曲家。ENJOY MUSIC CLUBでトラックと歌とラップを担当。7インチレコード『願いに星を』発売中。emotoyusuke.com