クリエイターのお部屋を訪問する「誰かのホーム・スイート・ホーム」を連載中の俳優・伊藤万理華さんが、デビュー10周年の集大成とも言える書籍『LIKEA(ライカ)』を発売するということで、お話を聞いてきました。ご本人曰く、「星が誕生する瞬間みたいな体験」をしたのだとか。スタイリストTEPPEIさんや劇作家の根本宗子さんなど、10組のクリエイターと共に生み出された1冊、一体どんな内容になっているのでしょう。
デビュー10周年を迎えた伊藤万理華の書籍『LIKEA』。「超新星爆発のような熱量で本が完成しました」。

──本のサイズから、すでに気合いを感じます。B4の大判サイズにしたのは、どんな意図があったのでしょうか。
“不親切な本”にしたかったんです。バッグにも本棚にも入らないサイズで、本屋さんも、どのカテゴリーの売り場に置けばいいかわからないような本を目指しました。メインのファッション企画で撮影した写真が150カット以上あって、その1枚1枚が強いものになったので、スタッフさんたちと「せっかくだったら大きなサイズで見せたいね!」となりました。
──スタイリストTEPPEIさんがディレクションしたファッションシューティングは、「LIKE A FASHION DOCUMENTARY」という副題の通り、メイキングカットや、撮影時の会話が収録されていて、臨場感たっぷりでした。
もともとTEPPEIさんのスタイリングが大好きで、あの世界観がどうやって生まれるのか、知りたかったんです。書籍ではそれをドキュメンタリーとして、読者の皆さんにも伝えられたらいいな、と。実際、撮影現場に行ったら「こんなに!?」っていうくらい、部屋いっぱいに洋服がびっしり並んでいて、驚愕しました。TEPPEIさんにとって大切な思い出の服も持ってきてくださって、私の私物もたくさん持っていきました。偶然なんですけど、母が昔愛用していたスタジャンと同じものを見つけたときは、運命を感じました。そこからTEPPEIさんは即興でスタイリングを組んだり、私も一緒に服を選んだり、スタジオに転がっているモノを頭に乗っけてみたり、洋服を選ぶときの会話を録音もしてみました。その一部始終を本に載せていて、1枚の写真が生まれるまでの、特別な一瞬一瞬の記録になっています。
──中でも、印象に残っているカットはありますか。
思い入れは全てにあるのですが、撮影1日目の夜、髪をブリーチして緑色にして、2日目の朝イチに撮った写真は印象に残っています。メイクもほとんどしていない状態で、ほぼすっぴんです。かぶっている民族風の帽子は、TEPPEIさんが服飾学校時代に買ったものらしくて、家の奥底に眠っていた懐かしいアイテムとおっしゃっていました。ここから夜中まで撮り続けて、最後はたしか深夜2時くらい、ふらふらになって外で撮影したカットも忘れがたいです。あの瞬間、自分の中で限界突破したと思います。
書籍『LIKEA』中面より。(C) 2022 Marika Ito
──怒涛の40ルック、撮り終えた瞬間の気持ちを教えてください。
映画の撮影かっていうくらい、すごく濃密な時間でした。丸2日間、朝から夜中まで撮り続けて、最後のカットを終えた瞬間は、感極まって涙が止まりませんでした。スタッフのみなさん全員の熱量がすごくて、誰ひとり妥協しない撮影でした。それが伝わりすぎて、写真も想像していたものの何倍も素晴らしくて。こんなにも、みなさんの愛を受け取ることってこの先あるのかな、と。「これが最後の作品になっても悔いがない」っていう気持ちにまでなって、感情が込み上げちゃいました。
──タイトル「LIKEA(ライカ)」にはどんな意味が込められているのでしょうか。
この本を作っている期間は、クリエイターさんたちの熱によって何かが生まれる瞬間の連続でした。本で漫画を描いてくれたCO¥OTEさんに伝えたら「それって、超新星爆発じゃない!?」と言われました。なるほど、確かに、私の中の宇宙で起こっていることなのかもしれないって(笑)。そこからタイトルを考え始めて、そういえば、宇宙に初めて行った犬の名前は「ライカ」だった、という会話になり、言葉の響きがすごく好きだったんです。編集さんが「好きなもの/〜のようなもの、のダブルミーニングで『LIKE A=ライカ』はどう?」と言ってくださって「それだ!」となりました。
──本の中には、新人漫画家CO¥OTEさんのデビュー作となる短編「GOLDEN GATE BRIDGE」も収録されていますね。
読んでいただけたらわかると思うんですけど、かなりぶっ飛んでいます。はじめて会ったとき、彼女は漫画家さんのアシスタントをしていて、本人も漫画を描いていることは知っていたんですけど、何よりキャラクターがおもしろくて圧倒されて、「絶対この子と何かしたい!」と思いました。それで、本人のデビュー作となる漫画を描いてもらいました。まだ何者でもない、ピュアな状態の彼女が生み出す作品を、一番最初に受け取ることができて、すごく幸せだったなあって。
──本の完成後、伊藤さんの中で生まれた感情や、気づいたことはありますか?
デビューからちょうど10年のタイミングということもあって、自分の集大成になりました。本が世の皆さんの手に渡ったとき、たとえば、デビューの頃から私のことを知ってくださっている方に読んでいただけたら、一体どんなことを感じるのか興味があります。本の制作期間を通して、何度も自分の過去を振り返りました。結果、ルーツである母の大切にしているものや、私が幼い頃好きだったものに出合い直すことができて、今の自分を形成しているものが何なのか、気付けた気がします。だから、この本を手に取ってくれた方にも、自分が純粋に好きだったものを諦めないこととか、あのとき何かに夢中になった気持ちとかを思い出してほしいです。
──本の出版に先駆けて、現在渋谷PARCOで開催されている展覧会の見どころを教えてください。
展覧会は、本の中身とはまたガラッと違う、体験型のユニークな空間になっています。根本宗子さんが書いたラジオドラマを耳で聞けるブース、私の過去と今を行き来できる映像作品など。もちろん、本とコンセプトは近いんですけど、展示ではまた新たにたくさんのクリエイターさんに関わっていただいて、とびきりカオスな空間になりました。あれこれ詰め込んであるので、情報量は多めです。疲れているときは見ないほうがいいかもしれません(笑)。
──クリエイターと何かを作ることは、伊藤さんにとってどんな作用をもたらしますか?
デビューしてからの10年を振り返ったとき、変わっていないことといえば、私は作り手側の人と関わっている瞬間が一番ワクワクする、ということ。その瞬間があった上で、自分の活動が成り立っていたと思うんです。だから今も、意識的にクリエイターさんたちと関わる機会を作っています。とにかく、何かを「つくる人」が好きなんです。表に出る人ももちろんかっこいいけど、裏側でその場を生み出している人たちのことが気になって仕方ありません。モノにしても、服にしても、映像にしても、どうやってそれが生まれたかを知ると、さらにその価値がわかっておもしろい。ゼロから何かを生み出す力のある人の話って、なかなか聞ける機会がないじゃないですか。幸運にも私はその近くにいさせてもらっていて、映像でも写真でも、撮影現場で作り手の方と会話しているときがとにかく楽しいんです。現場の空気が好きで、ずっとここにいたいなって思う。私の生きがいです。
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伊藤万理華
1996年大阪府生まれ。乃木坂46のメンバーとして活動後、2017年に卒業。映画、舞台など俳優としての活動を本格化する。2020年に2度目となる個展「HOMESICK」を開催し、漫画家やデザイナーなど数々のクリエイターとのコラボレーションが実現。2021年は主演を務めた映画『サマーフィルムにのって』(松本壮史監督)が映画祭で数々の賞を受賞、ドラマ『お耳に合いましたら。』で主演を務める。2022年10月、金髪ギャルの役を演じた映画『もっと超越した所へ。』が公開、待機作に今冬公開予定の映画『そばかす』(玉田真也監督)がある。また、10組のクリエイターと共に作り上げた書籍「LIKEA(ライカ)」が12月20日に発売、その本を軸に発想を得たパルコ展覧会三部作最終章『MARIKA ITO LIKE A EXHIBITION LIKEA』が2022年12月19日(月)まで GALLERY X BY PARCO(渋谷パルコB1F)にて開催中。