再開発で生まれて17年が経ち、すっかり表参道の街並みの一部となった建築。その背後には世界的に有名な巨匠建築家の、街への強い思いが込められています。
街を愛する人々に捧げた公共空間のような「表参道ヒルズ」
東京ケンチク物語 vol.50
表参道ヒルズ
OMOTESANDO HILLS
表参道の駅前から明治神宮に向かって緩やかに下る道沿いに建つ「表参道ヒルズ」。まごうかたなき東京の超一等地であるここに、かつては「同潤会青山アパート」という名の、集合住宅群が立っていたのを知っているだろうか?大正時代の末の関東大震災で甚大な打撃を受けた東京の復興を目指して建てられた、鉄筋コンクリート造のそのアパートは、変化する表参道を見守り続けて80年近くを過ごす。時を経て建て替え前にはクリエイターの事務所や感度の高いショップが入る憧れの場所でもあった。ところが建物の老朽化が進み、2003年に解体される。そこから3年の時を経て生まれ変わったのが、商業施設と住宅が同居する現在の「表参道ヒルズ」だ。
人々の思い入れも強い、街を象徴する場の記憶を背負って設計を引き受けたのは安藤忠雄。坂道に沿って250m超という横長の建物を、さすがの手腕で街並みへと溶け込ませている。まず参道沿い側では、建造物の高さを極力抑えて、美しく生い茂るケヤキ並木と同程度にし、ファサードは樹形を映し込むガラス張りに。より驚かされるのは内部空間で、中央は地下3階から地上3階まで及ぶ広大な吹き抜けだ。ショップ群は吹き抜けの周縁部に配置されていて、前面の歩道を引き込むようにして作られたスロープ状の通路が、ぐるぐると緩やかなスパイラルを描きながら一本でつながっている。人々は、表参道を歩く軽やかな気持ちを保ったまま、内部を散策できるというわけだ。さらに、アトリウムを貫くように設えられた4層分の大階段が、さまざまにイベントが行われたり、そうでないときには人々の憩いの“広場”のような役目を果たすから、よくある商業ビルというよりは、街を愛するすべての人々に捧げられた公共空間のような建築だ。最後に、敷地内の表参道駅寄りの一角に、かつての建材も再利用しながら、「同潤会青山アパート」の一部が復元されていることも記しておきたい。完成から17年を経て、緑のツタが絡まり始めた安藤建築。歴史を内包し、敬意を払いながら、これからもこの街を見つめていくのだろう。
Illustration_Hattaro Shinano Text_Sawako Akune Edit_Kazumi Yamamoto