明治神宮駅前からすぐそばにある、エアポケットのように静かなエリア。自然の造形と香り、そしてふたつの名建築のハーモニーを堪能できる場所を見つけました。
ふたつの名建築のハーモニーを堪能できる「AEAJグリーンテラス」
東京ケンチク物語 vol.52
AEAJグリーンテラス
AEAJ GREEN TERRACE

ラベンダー、ゼラニウム、ティートゥリーにローズマリー。葉っぱをこするといい香りのするハーブや、季節ごとに花や実をつけるとりどりの木々が植わった小径。その先にあるエントランスから建物に入ると、ヒノキのかぐわしい香りが押し寄せてくる……。森を深く分け入った大自然の中ではなく、原宿エリアでの話!表参道から少しだけ裏手に入った山手線沿いに建つ「AEAJグリーンテラス」。アロマテラピーの普及・調査・研究などの活動を行う日本アロマ環境協会(AEAJ)の本拠地として、隈研吾の設計で、2023年2月に完成した建築だ。
緑の庭に囲まれるこの建物の、内外観の両方に大きなインパクトを与えているのが、ヒノキの角材を互い違いに組み上げた「木組み」だ。木造建築に長けた日本の伝統的な技術である「木組み」は、角材に切り込みを入れ、釘やネジなどの金物を使わずにはめ合わせる工法。築約1400年で世界最古の木造建築物としても知られる奈良・法隆寺の大空間も、同じように緻密に組み上げられた木が天井を支えている。「AEAJグリーンテラス」では、法隆寺と同じく国産ヒノキ、かつ日本の木造建築に欠かせない構造部材である105mm角の木材を用いて、この大胆な構造体を3階建ての全フロアの壁から天井に応用。これをガラス張りの箱にすっぽりと収めたようなつくりだから、木々が作り出す構造美は通りからも明らか。さらに内部へ入ると、大量のヒノキのアロマに安らぐ体験が待つというわけだ。自然の美しさと効能とを最大限に引き出した建築そのものが、アロマテラピーのあり方を示すようでもある。
ところでこの建築、山手線の線路を挟んで、丹下健三による不朽の名作「国立代々木競技場」と向かい合うことも鑑賞のツボだ。建物を敷地いっぱいには建てず、植物の生い茂る「アロマコリドー」を設けて奥まで見通せるようにしたのも、この過去の名作の眺めを誰からも奪わずにいたいという、隈の願いがあったのだそう。現代の最前線を走る建築家の、20世紀の巨匠へのリスペクトも感じる作品。自然とその香り、そしてふたつの名建築を堪能できる稀有なスポットだ。
Illustration_Hattaro Shinano Text_Sawako Akune Edit_Kazumi Yamamoto