昔ながらの路地に沿って、ぽつぽつと個性的なショップが増えている日本橋浜町の一角。スニーカー好きには外せないあのブランドの、“東京”を発信する場がありました。
新旧の美を感じることができる「ティーハウス ニューバランス」
東京ケンチク物語 vol.54
ティーハウス ニューバランス
T-HOUSE NEW BALANCE

変化のめざましい日本橋駅周辺からお散歩距離の、日本橋浜町エリア。細い路地に小さな倉庫やオフィスが連なる、古きよき下町の街並みは、ここでも少しずつ更新されつつある。うれしいのはそれが区画丸ごとの大規模な再開発ではなくて、小ぶりさを保ったまま、一軒ずつそれぞれの創意に満ちたお店に生まれ変わっていること。似たような店が並ぶ通り一遍の景色ではなくて、ここだけにしかない風景が生まれているのだ。2020年に誕生した「T-HOUSE New Balance」も、そのひとつ。通りから見ると、まったく装飾のない、それこそ“Tea House(茶室)”のようにストイックな印象の真っ白な箱。スライド式で両側に引かれた扉の向こうにもう1枚、時代がかった木の格子扉が見えていて、道行く人の興味をひく。ニューバランスのライフスタイルカテゴリーをリードするグローバルチーム、東京デザインスタジオの拠点でもあるこちら。“東京”らしさを備えた場所として、スキーマ建築計画の長坂常が生み出したのは、鉄骨2階建ての構造の中に、日本の伝統的な蔵を再構築した建物だ。
中へ入ると白い壁の内側に、古色めいた立派な柱梁。埼玉県川越市に建っていた築120年超の蔵を移築してきたもので、職人たちが部材をきれいに洗い直したうえで、細心の注意を払いながら鉄骨の中に組み上げたのだそう。この1階がコンセプトストア、吹き抜けを通じて下階とつながる2階がデザインオフィスというつくり。とても面白いのは、元の蔵の古い柱梁が単に“日本らしさ”を醸し出すための飾りではなく、実用的な役割を担っていること。かつて柱と柱をつなぐ“貫”が通っていた穴を利用して、ハンガーや棚、鏡など、ショップに必要な什器や家具を設置しているのだ。さらに照明や電源コンセントなどもこの蔵の骨組みに寄生するようにつくられた。まるでアウター=鉄骨建築のなかに、機能的なアンダーウェア=蔵部分を着込んでいるかのようで、デザインとファンクションを兼ね備えたスポーツブランドらしいアプローチだ。身を置くだけで新旧の美を感じることができる、確かに“東京”らしい空間が生まれている。
Illustration_Hattaro Shinano Text_Sawako Akune Edit_Kazumi Yamamoto