人気ゲーム『ぷよぷよ』の生みの親でもあり、近年は『はぁって言うゲーム』などのアナログゲームも手掛ける、ゲームデザイナー・米光一成さん。全員がお題に沿った単語を書き、相手が書いた単語を1文字ずつ当てていく新作『あいうえバトル』は、ボードゲームカフェでも盛んに遊ばれています。『あいうえバトル』が生まれた背景や、発想の裏側、そしてボードゲームの面白さについて聞きました。
Instagramとむちゃぶりで突破口を開いたプロジェクト『あいうえバトル』ゲーム作家・米光一成インタビュー前編

──『はぁって言うゲーム』をはじめ、米光さんはカードゲームやボードゲームを数多く作られています。『あいうえバトル』は、いつごろ生まれたものなのでしょうか。
きっかけはコロナ禍です。ステイホームが叫ばれ、人と会うことが難しくなった時期。以前のように、集まってワイワイと遊ぶことができなくなり、ボードゲームはこれからどうなるんだろうと不安で。そこで、「それなら会わなくてもできるボードゲームを作ろう」と立ち上がったんです。
Zoomで集まって遊ぶと、専用のボードやカードが様子しにくい。じゃぁ各家庭にあるものを……と考えたとき、紙とペンならあるだろうと。試行錯誤の結果、紙にお題に沿った単語と50音表を書いてもらって、一文字ずつ順番に当てていく、『あいうえバトル』の原形が生まれたんです。
『あいうえバトル』(Anaguma)
──確かに、その形なら会えなくてもZoomでプレイできますね。
「コロナ禍で集まれないなら、そのあいだは新作を作らなくてもいいかな」ってモチベーションが下がったりもしたんだけど、いやいや「コロナ禍で遊べるものを」と頭を切り替えられた。
ゲームや娯楽は新しいものが出続けるのがとても大切なんです。新しいものが出ることによって、これまでボードゲームを遊んだことがない人にも刺さるかもしれない。もちろん、長く遊ばれる定番のゲームも大切ですが、その中に新鮮なものが加わっていくことでボードゲーム自体の間口が広がると思っています。
「好きな食べもの」といったお題に対し、プレイヤーは最大7文字の回答を「ちょっかんくん」に1文字ずつ記入。50音表の中から1文字ずつコールしていき、当たった文字はオープン。最後まで全てオープンせずに残った人が勝利
──なるほど。しかし「集まれない」という制約の中でゲームを作るのは、普段のゲーム作りより大変だったのではないでしょうか。
制約こそがものづくりのモチベーションになるんですよ。この年は「Zoomで遊ぶ」「家にあるものを使う」という制約のなかで、「無料でみんなが遊べるゲームを3つ作る」を目標にしました。そのうちのひとつが『あいうえバトル』ですね。
コロナ禍がなかったら、「Zoomで遊ぶ」という制約自体考えなかったでしょう。状況や制約が変わっていくなかで、いかに遊べるものを作るか……そう思うと、コロナ禍は普段と違うアプローチでゲームを考えるきっかけになったかもしれません。
オンラインでも遊べる紙ペン版を、Anagumaというゲームカフェもやってるコミュニティが、めちゃくちゃ気に入ってくれて、集まっても遊べるように物体化して商業流通版になって今の形になりました。気に入って遊んでもらえて、育ててもらった感じですね。
『あいうえバトル』のボード。誰が何をコールしたか分かるように、1文字ずつチップを置いていく。濁点や半濁点は考えないので、「は」は「ば」でも「ぱ」でもOKなのがポイント
──2022年11月には、『あいうえバトル』をパズル形式にした書籍『あいうえパズル』を上梓されています。
もともとは、僕が『あいうえバトル』発売後にInstagramにアップしていたパズルが元になっています。パズルを作ったのは『あいうえバトル』のプロモーションのため……というより、制作中に「これパズルになるな」と思いついて、やりたくなったから(笑)。何人か遊んでくれたらいいな、という軽い気持ちで問題を作っていました。
instagramで展開していた「あいうえパズル」
──では、そのInstagramを見て出版の話が?
いえ、実はこれとは別に、出版社から「脳トレみたいなパズルを作ってほしい」という依頼を請けていたんです。いくつか、そこそこ面白い脳トレを作ってみたんだけどピンとこなくて。
脳のトレーニングのためにパズルをやるという功利主義的なしかめっつらが、気に食わねぇ。そうなってくると、もっと楽しくて面白いパズルにしたいっていう欲望が沸き起こってじゃあ、どうやって説得するかってことになって。
アイデアを出すとき、重要なのが「フレームを疑う」こと。決められたフレーム(枠)の中でアイデアが浮かばないときは、そのフレーム自体を疑ってみる。フレームを少しずらしたり、外したりすると、道が開けることがあるんですね。
脳トレって考えてたときには、Instagramで展開していた「あいうえパズル」とは結びつかなかったんだけど、純粋におもしろいパズルゲームで、楽しく頭をちょっと使って「ハッ!」とひらめくものって何だろうって考えると、もうあるじゃないか、と!「あいうえパズル」っていうのがあって、おもしろさは抜群ですよ、って。すでに形になったものを見せられたのも大きかったですね。
依頼と違う内容を提案する、というのは、あまりやらないことかもしれませんね。でも、依頼する側のフレームが大正解かどうか分からない。だから、お互いのコミュニケーションのなかでフレームそのものをチューニングすることも大切だと思います。そうやって、違う立場の者同士が丁々発止して新しくできるフレームって面白くなるんですよ。
『あいうえパズル』(サンマーク出版)。『あいうえバトル』のルールで、言葉を当てるパズルを70問収録
──フレームを疑うためには、具体的にどのように考えたらよいのでしょうか。
いくつかのキーワードを想定すると、考えやすくなります。どうやって発想するんですか?ってよく聞かれるので『むちゃぶりノート』という発想ツールを作りました。設定したテーマに対してランダムに「むちゃぶり」することで、フレームを疑えるようにしたものです。
「アイデアを出すとき、重要なのが『フレームを疑う』こと」(米光)
「むちゃぶり」は、キーワードが書かれたシールを貼ることで行います。シールには「を消し」「を重視し」「で拡散し」などがあって、書いたテーマとランダムに合わせると「ボードゲームを消し」みたいな指示ができる。ボードゲーム作ろうとしてるときに、ボードゲームを消し……ってどうすりゃいいの!?って感じになるけどそれでも無理やり何か考えてみる。ボードじゃなくて空気で遊ぶエアゲームって、どうだろうとか。ストーンゲームとか、絨毯ゲームとか、デタラメでいい。フレームを超えて考えることで、新しい視点を得ることができるんです。
こうした「むちゃぶり」をスイッチとして自分のなかに持っておく、そして無茶だなと思っても無理やり考えてみる。これを繰り返すと、フレームを疑う癖が付いてきますよ。
『むちゃぶりノート』(フジイ印刷株式会社)
──改めて、米光さんが思う「ボードゲームの面白さ」について聞かせてください。
ボードゲームそのものが、ひとつの「コミュニケーション」として優れているな、面白いなと思いながら作っています。
初対面同士でのコミュニケーションは、人となりや振る舞いが分からないから、大変じゃないですか。でも、そこにボードゲームがあれば、ひとまずゲーム上のルールでコミュニケーションができます。遊ぶ様子で人となりも分かってくる。雑談もできる。ゲーム内では関係性がフラットになるから、会社では偉い人だろうが関係ない。純粋にコミュニケーションをとれる場であることが、ボードゲームの面白さのひとつです。
あとは、ルールそのものを人間が運用するところですね。たとえばババ抜き。もしババ抜きがコンピューターゲームになったとしたら、どんなものになると思いますか?
──そうですね……。相手からカードを1枚選んで、ペアになったら自動的に捨てられて、今度は自分のカードが別の相手に選ばれて……という繰り返しになりそうです。
プレイヤーがカードを選択する部分以外、コンピューターが自動でやってくれると、遊びやすく効率的です。でもリアルな場で遊ぶと、捨てるカードを間違えたり、自分の番を忘れていたりする。そういうときどうするかを、人間が運用するわけです。大会だったら失格だけど、友達だからまぁいいか、とか。
こうしたところに「揺らぎ」が生まれるのが、ボードゲームの面白さだと思うんです。扇形に開いたカードから、1枚だけちょっと外に飛び出していたりとかしますしね。
──ありますね(笑)。カードを引かれそうになると、強く握ったりして。
それを受けて、たまたま1枚だけカードが出ていたのか、実はわざと出しているのか、でもわざと出しているということはフェイクなのか……みたいに考えたりする。こうした人間同士の「揺らぎ」が生まれるところに、ボードゲームならではの豊かさがあると思っています。
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米光一成
ゲーム作家、ライター。代表作に『ぷよぷよ』『はぁって言うゲーム』『BAROQUE』『変顔マッチ』『あいうえバトル』など。著書に『自分だけにしか思いつかないアイデアを見つける方法』(日本経済新聞出版社)、『思考ツールとしてのタロット』(こどものもうそうブックス)などがある。『神ゲー創造主エボリューション』(2023年2月23日23:45〜NHK総合:MC三浦大知)に出演。